夢と現実と他の現実
これはこの物語の最新エピソードです。皆さんに楽しんでいただければ幸いです。
第◯話 フラフィナの告発
チュビは決意していた。
「新型ゲーム機を作る」
それは甥への贈り物だった。
モビー。アヒルの少年。母はデュラ――チャビの異母姉にあたる雌のアヒルだ。
「誕生日に間に合わせるぞ」
βテスト段階の試作機が、研究室の中央に置かれている。
「ミカミ、カナト。試してみるか?」
二人は顔を見合わせる。
「もちろん」
「やる」
ゲームはシンプルなスコアアタック型のアクション。だが物理演算と心理適応AIが異様に高度だった。
そこへ。
「へえ、楽しそうじゃん」
リコシェが入ってくる。
カナトがプレイしているのを見て、にやりと笑う。
「俺がそのスコア、超えてやるよ」
数分後。
リコシェのスコアは、カナトの記録を大きく更新していた。
「……どうやってやったか?」
カナトが低く問う。
リコシェは肩をすくめる。
「ロサンゼルス出身なんでね。あそこには世界トップクラスのゲーマーがゴロゴロいる。環境が違うんだよ」
薄く笑う。
「もしゲームで私のスコアを超えたら呼んでね。」
そして去っていく。
カナトは黙ってコントローラーを握る。
何時間も。
しかし届かない。
ついに彼は立ち上がる。
「……くそ」
扉が強く閉まる。
ミカミが追いかけた。
――数時間後。
研究室に戻ると、試作機は無残に破壊されていた。
筐体は裂け、回路は焼け焦げている。
全員の視線が、自然とカナトに向く。
「……あいつだな」
チュビが言う。
「怒ってたしな」
確かにカナトはリコシェに勝てなかった。
バスケの練習でも妨害され、サクラも奪われ、今や執着は隠せないほどだった。
「違う」
カナトは即答する。
「俺はスコア更新できなくて、そのまま出て行った。ミカミが証人だ」
ミカミはうなずく。
「本当だ」
「それに……俺はあのゲーム、真剣じゃなかった。ただの遊びだ」
チャビの目が細くなる。
「遊び?」
その瞬間、サクラが割って入る。
「私も“遊び”だったの? カナト」
空気が凍る。
全員がカナトを見る。
「違う、あれは……」
そのとき。
扉が静かに開いた。
入ってきたのは、一匹の雌の猫。
しなやかな体躯、鋭い金色の瞳。
「久しぶりね」
フラフィナ。
チュビの姉。
多元宇宙規模で数千の凶悪犯を逮捕してきた超天才探偵。
彼女とチュビは仲が悪い。
チュビは科学の天才。
フラフィナは推理の天才。
互いに、自分が本物の知性だと思っている。
「モビーの誕生日よ。そろそろ出発しなさい」
だが、壊れた試作機を見て足を止める。
「……なるほど」
全員が口々に疑いをぶつけ合う。
チャビはカナトを責める。
カナトはチエミを疑う。
チエミはチエコを疑う。
数秒の沈黙。
フラフィナが言った。
「解けたわ」
全員が息を呑む。
「犯人は――私」
「は?」
チャビが絶句する。
「なぜだ!? モビーへのプレゼントだぞ!」
フラフィナは静かに言う。
「あなたたちの注意を引く必要があった」
「……何のために?」
「この世界は、偽物だから」
沈黙。
「ふざけるな」
「ねえ、デブ。覚えてる? 私たちの父。勇者カラス侍」
「当然だ」
「9月15日、父は何人の独裁者とファシストを殺した?」
チャビは答えようとする。
知っている。
はずだ。
だが――唇が動かない。
音が出ない。
言語が拒否する。
フラフィナは次に、突然ミカミを押した。
ミカミはチエミの胸元に倒れ込む――はずだった。
だが。
二人の間で、見えない反発力が働く。
ミカミは空中で止まり、磁石のように弾かれる。
全員が凍りつく。
「物理法則が破綻している」
フラフィナの瞳が光る。
「私たちは実在しない。私たちはNPC。記憶と体験から再構成された模造人格」
「……何の中の?」
「このゲームよ」
壊れた試作機を指す。
「本物のチュビが、モビーのために作った世界。その中の住人が私たち」
静寂。
自分たちの人生が、演算だったと理解する恐怖。
やがて彼らは決断する。
外部世界へアクセスし、家族の顧問弁護士に接触した。
アラストール・マクステインソン=ジュ。
多次元法廷で無敗を誇る弁護士。
NPC側の代理人となる。
訴訟内容:
精神的損害。
人格的利用。
存在の強制労働。
協議の末、和解が成立する。
本物のチュビは補償金を支払い、さらに約束する。
NPCたちへ自律型ロボット身体を提供すること。
ゲーム外で、自由に生きるために。
そして。
ある研究室。
ロボットの体に目が灯る。
ミカミ。
チエミ。
サクラ。
カナト。
チエコ。
フラフィナ。
そして小さな、ふくよかなネズミ型ボディ。
チュビ。
彼らは初めて、重力を“現実”として感じる。
フラフィナが小さく笑う。
「これで、やっと本当の推理ができるわね」
外の世界の空は、演算ではなく、本物の青だった。
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