彼らは本当に恋人同士のふりをしているだけのでしょうか?
これはこの物語の最新エピソードです。皆さんに楽しんでいただければ幸いです。
― カウンター ―
カナトの才能を目の当たりにした瞬間から、リコシェの中で何かが燃え上がった。
彼はずっと“ブラックシープ”だった。
NBA選手を何世代も輩出してきた名門一族。
だが自分だけには“能”がなかった。
天賦の才。
コートでの直感。
決定的な何か。
そして今、その“何か”をすべて持っている男が目の前にいる。
カナト。
(どうしてあいつなんだ)
家族の視線。
スカウトの評価。
叔父オマーのまなざし。
もし選べるなら――
家族はカナトを選ぶだろう。
◆
そんな時、リコシェとサクラは静かに手を組んだ。
「協力する?」
「目的は一致している」
サクラは淡々と言う。
「私は彼をもっと執着させたい」
「俺は彼を倒したい」
利害は一致した。
サクラはリコシェの“恋人”になる。
カナトに嫉妬を植え付けるために。
◆
それ以来、サクラはリコシェの練習試合に毎回現れた。
チアリーダー姿で。
軽やかな動き。
弾むポニーテール。
そして――
カナトは気づく。
(……前より可愛くなってないか?)
いや、可愛いどころではない。
雰囲気が洗練され、存在感が増し、
女性としての魅力が明らかに強くなっている。
視線が吸い寄せられる。
集中が乱れる。
◆
一方のリコシェ。
彼には天才的直感はない。
だが――執念がある。
カナトの試合映像を何百時間も分析。
ドリブルの癖。
加速のタイミング。
視線の流れ。
重心の移動。
すべて暗記。
紙に書き出し、パターン化。
やがて彼は到達する。
カナト専用対策。
“パーフェクト・カウンター”。
1on1。
カナトが踏み込む。
だがリコシェは先に動く。
ルートを封鎖。
角度を潰す。
心理を読む。
「……読まれてる?」
カナトが初めて止められる。
これは才能ではない。
努力の結晶。
ただし――
この戦法はカナトにしか通用しない。
それでも十分だった。
◆
観客席。
サクラは静かに見つめる。
(いい流れ)
カナトの視線は、もはやボールよりも彼女を追っている。
執着は確実に育っている。
だがサクラは知っている。
Project Croweyeで見た無数の並行宇宙。
そこには二つの未来があった。
一つは――
カナトが彼女に執着し、最終的に結婚する未来。
もう一つは――
リコシェと結婚する未来。
そしてその未来では。
リコシェは誠実で、支え合う夫だった。
家庭を守り、子どもを育てる。
サクラの夢を後押しする。
その世界でサクラは――
世界で最も実験的で、最も多作で、最も多様で、最も有名な歌手。
人類が知るすべての歌唱ジャンルを制覇し、
それらを融合させ、神聖でありながら理解不能に近い独自様式を生み出す。
数か月単位で世界ツアー。
彼女が幼い頃から思い描いていた人生。
(どちらでも成立する)
計画A:
リコシェを利用し、カナトを狂わせる。
計画B:
カナトを切り捨て、リコシェと結婚する。
そして皮肉なことに、両ルートはほとんど同じ道を通る。
◆
ある日の練習後。
「今日、よく止めてたね」
サクラがリコシェに微笑む。
リコシェは少し照れる。
「君が見てるから頑張れる」
その言葉は、演技ではなかった。
サクラは一瞬、言葉を失う。
(あれ……?)
これは計算か?
それとも。
関係は、ゆっくりと変質していく。
“偽装恋人”は、いつの間にか自然に手を繋いでいた。
カナトの視線が遠くから突き刺さる。
だがその視線さえ、もう副次的なものになりつつあった。
サクラは思う。
(どっちの未来でも、私は勝つ)
そして物語は、静かに次の局面へ進む。
このエピソードを楽しんでいただければ幸いです。次のエピソードはすぐにアップロードします。




