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衰退する女神が若い詩人にしがみつく

これはこの物語の最新エピソードです。皆さんに楽しんでいただければ幸いです。



 放課後の保健室。


 白いカーテンがやわらかく揺れている。


 チエコ先生――小柄で整った顔立ちの美人高校の看護師――は、カルテを整理していた。


 そこへヒナタがいています。


「先生、今年のバレンタインはロンドンで過ごすかも」


「まあ、素敵ね」


「この前のインディー・アートハウス映画で知り合った英国人俳優と」


 ヒナタはさらりと言う。


 チエコは微笑む。


「若いっていいわね」


「先生は予定ないんですか?」


「特には」


 ヒナタは首を傾げる。


「心配じゃないんですか?」


「何が?」


 一瞬の静寂。


 ヒナタは純粋な顔で言う。


「だって先生、独身の行き遅れですよね?」


 空気が止まる。


 チエコのペンが床に落ちる。


「……え?」


 人生で初めて。


 その言葉が、自分に向けられた。


(行き遅れ……私が?)


 鏡を見る。


 小柄。

 美人。

 まだ三十歳。


(小柄美人の私が……?)


 だが事実は事実。


 恋人はいない。

 結婚歴もない。

 長期交際すら思い出せない。


 誰もが一度は通る、ありふれた日常的感覚。


 “あれ、私ってもしかして……”


 その経験を、彼女は今まで一度もしてこなかった。


「うそでしょ……」


 チエコは椅子に座り込む。


(私、気づいてなかった?)


 ヒナタは悪気なく続ける。


「三十代って、わりと崖っぷちって言いますよね」


「崖!?」


 チエコの瞳が揺れる。


(彼氏を見つけなきゃ……)


(今すぐ……)


(男を……!)


 その瞬間。


 保健室のベッドのカーテンがしゃっと開く。


「すみません、さっき体育で足ひねって――」


 ミカミ。


 包帯を求めて現れた。


 チエコはゆっくり彼を見る。


 年下。

 詩人肌。

 問題児。


 だが、健康。

 感受性あり。

 独身。


 視線が鋭くなる。


「……うん」


 ミカミがびくっとする。


「先生?」


 チエコは立ち上がり、優雅に微笑む。


「あなたでいいわ」


「何が!?」



その日から、三上と千恵子は付き合い始めた。

このエピソードを楽しんでいただければ幸いです。次のエピソードもすぐにアップロードします。


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