リバウンド
これはこの物語の最新エピソードです。皆さんに楽しんでいただけたら嬉しいです。
チエミは三上と別れてから数週間。
桜はずっと落ち着かなかった。
(私のせい、少しはあるよね……)
両親の離婚で家は静かになりすぎていた。
その静けさが、罪悪感を増幅させる。
「よし、パーティーやろう」
目的はひとつ。
――ミカミの気分転換。
もちろん表向きは。
◆
桜の家。
小さな集まり。
炭酸飲料とピザ。
アルコールはなし。
「健全だな」
チュビが腕を組む。
だが、なぜか――
一人、また一人と眠り始める。
気づけば起きているのは二人だけ。
ミカミと――
桜の母、ひとみ。
◆
ひとみはふくよかで艶やかな熟女だった。
離婚したばかり。
どこか疲れた目。
「最近、元気ないんですって?」
「まあ……」
「私もよ」
二人は台所で向かい合う。
冷蔵庫から出したのは――
甘い米ジュース。
アルコールではない。
だがなぜか、妙に回る。
「人生って、思った通りにいかないわね」
「ほんとですね」
ミカミは詩のノートを取り出す。
「聞いてくれますか」
「いいわよ」
◆
数時間後。
ミカミは延々と愛の詩を朗読していた。
「“君の不在は、部屋の空気を薄くする”――」
「まあ……素敵」
ひとみの目が潤む。
距離が近い。
吐息が触れる。
一瞬の沈黙。
そして――
キス。
最初は軽く。
次第に長く。
理性が溶ける。
夜は静かに更けていった。
◆
翌朝。
朝食のテーブル。
全員集合。
桜がじっとミカミを見る。
「……昨日、楽しかった?」
「え、あ、うん。穏やかな夜だったよ」
ひとみも視線を逸らす。
桜はため息をつく。
「ミカミ、まだチエミ先生を忘れていないでしょ?」
「……」
「でもさ、世界のどこかに、きっと別の誰かがいるよ。諦めないで」
優しい言葉。
ミカミはぎくりとする。
そのとき。
「これ何?」
桜が拾い上げたのは――
詩のノート。
ページに、はっきりと口紅の跡。
空気が凍る。
「……ミカミ?」
「はい」
「誰かと会ってるの?」
沈黙。
「……うん」
「新しい彼女?」
ミカミは、恐る恐るひとみを見る。
ひとみも固まる。
桜の目がゆっくり見開く。
「……」
「……」
「……え?」
一拍。
「え?」
二拍。
「え?」
三拍。
「いやいやいやいや」
顔が真っ赤になる。
「まさか」
視線が二人を往復。
「いやいやいやいやいや」
そして絶叫。
「ノー!! ノー!! オーマイゴッド!! オーマイゴッド!!! ノーーーーーー!!!」
自室へダッシュ。
◆
数分後。
ミカミは桜の部屋の前。
「桜、話そう」
「来ないで!」
「ごめん。でも君が言っただろ。誰かを見つけろって」
「罪悪感から言っただけ!!」
ドアが開く。
「自分を正当化したかっただけなの! なんでうちの母なのよ!」
「偶然だ!」
「最低! やっぱり変態じゃん! 気持ち悪い! なんでママがあんたみたいなのを!」
ミカミの眉がぴくりと動く。
「……じゃあさ」
「なによ」
「続けようかな、ひとみさんとの関係」
「は?」
「むしろ結婚しようかな」
「は???」
「家族作ろうかな。妹ができるな、桜」
にやり。
「名前、何がいい? 桜ジュニア?」
「殺す!!!!」
桜が飛びかかる。
首を締める。
「ちょ、待っ――」
そこへチュビたちが乱入。
「やめろやめろやめろ!」
カナトが引き剥がす。
◆
ひとみが深く頭を下げる。
「昨夜のことは……間違いだったわ。一度きりよ」
桜は涙目。
ミカミは首をさする。
「……ごめん」
「私も……ごめん」
「さっきのは言い過ぎた」
「こっちも首絞めすぎた」
沈黙。
ミカミは苦笑する。
「ポール・フィンチの真似、やりすぎたので、ごめん」
「なにそれ」
「映画」
◆
数日後。
桜はその映画を観た。
数時間後。
ミカミを見るなり言う。
「フロイト的サイコ」
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