私はただ、手の届かない神聖な月を見つめる詩人です。
これはこの物語の最新エピソードです。皆さんに楽しんでいただければ幸いです。
夏休み。
七人は、パリへとやって来ていた。
目的は――ルーヴル美術館で開催される特別展。
セーヌ川の風はやわらかく、石畳は歴史の重みを帯びている。ガラスのピラミッドの前で、チュビが腕を組んで誇らしげに言った。
「芸術とは文明の最前線だ。感性を磨け、若者たち」
「観光じゃなかったのかよ……」
ミカミがぼやく。
◆
展示室。
ひときわ人だかりができている一角があった。
そこに立っていたのは――
長身。
細身。
彫刻のような横顔。
アフリカ系フランス人の青年画家。
今回、初めてルーヴルに作品が展示された新進気鋭のアーティスト。
その名を見た瞬間、チエミが小さく息を止めた。
「……あ」
ミカミは気づく。
「知り合い?」
チエミは一瞬迷い、そして静かに言った。
「……昔、付き合ってた人」
時間が止まった。
(え?)
青年は気づき、穏やかに微笑んで近づいてくる。
「Chiemi… Ça fait longtemps.(久しぶりだね)」
完璧な発音。落ち着いた声。自信に満ちた佇まい。
ミカミは思った。
(”付き合ってた人”だって?)
◆
夜。ホテルの部屋。
本来なら、二人はベッドに並んで、軽くキスをして、そのまま昼寝――いや夜寝――するはずだった。
だが。
ミカミは天井を見つめたまま動かない。
「……ミカミくん?」
「うん」
「さっきから静かだね」
沈黙。
彼女は彼が何を心配していたのか知っていました。
チエミがそっと言う。
「心配しなくていいよ。私はあなたを愛してる」
ミカミは目を閉じたまま答えた。
「……ごめん」
「え?」
「まさか、自分が君の彼氏になったら、ああいう人と“競争”することになるなんて思ってなかった」
空気が変わる。
「競争?」
チエミの声が少し低くなる。
「それってどういう意味?」
「いや、その……」
「私が、彼みたいな人にふさわしじゃなくて言いたいの?」
ミカミははっとする。
(違う、そうじゃない)
「つまり、私は魅力的じゃないから、彼のような人が私を欲しがるなんて思わなかったということですか??」
「違う!」
ミカミは起き上がる。
「そうじゃない!」
チエミはじっと見つめる。
「……じゃあ、何?」
ミカミは深呼吸した。
「言わせる?」
「うん」
少しの沈黙。
「……君は、本当にきれいで、優しくて、強くて、素晴らしい女性だ」
「……」
「君が俺の彼女になってくれたとき、正直、信じられなかった」
声が震える。
「“なんで俺なんだ?”って思った。まるで、誰にも見つかっていなかった宝石を、偶然自分が見つけたみたいだった」
チエミの瞳が揺れる。
「俺は勝手に思ってたんだ。“俺が最初に気づいた”って。だからラッキなんだって」。
拳を握る。
「でも今日、知った。君の素晴らしさを、俺より前に見抜いた人がいた。しかも……俺よりずっと優れてる人が」
苦笑。
「背も高い。才能もある。世界的な画家。落ち着いてて、自信もある」
視線を落とす。
「それを見た瞬間、思い出したんだ。ああ、俺はやっぱり、君に釣り合ってないんじゃないかって」
静寂。
「……ごめん。変な態度を取ったのは、そのせいだ。ただ……そう感じただけなんだ」
部屋に、パリの夜の静かな光が差し込む。
チエミはしばらく何も言わなかった。
そして、ゆっくりとミカミの手を取る。
その表情は――まだ読めなかった。
このエピソードを楽しんでいただければ幸いです。次のエピソードはすぐにアップロードします。




