何の解決もしない解決パート
「拙者が連続殺人犯!?何を失礼な!そんなわけないでしょう!私のどこを見てそんなのと間違ったんですか!言ってみなさい!」
「え?いやぁ〜、まあ、なんというか…、全部?」
琴葉の失礼な物言いに侍は青筋を立てて怒った。
「このォ!痴れ者がァ!」
侍は腰に携えていた刀を抜き、その切先を琴葉達に向けた。
「礼節を欠く、その行動!貴様らの首で贖っておうぞ!」
「え?」
「殺人鬼探すとか以前に普通にやばい人だった…」
「やばぁ!やばいよ!この人!」
未来、紗南は危なげな雰囲気を感じとっていたのか、既に侍とは距離をとっており刀を抜いた時点で逃走を始めていた。
刀を向けられている当の琴葉は刀を向けられた現状と2人が自分を置いて逃げていた事実に思考が追いついていなかった。
「え?友達置いてく?」
「覚悟ォ!」
身を捩り、振り下ろされる刀を避け背を向けて駆け出した。
「やべー、犯人探しが振り出しに戻った…」
琴葉達の犯人探しはまだ続く………
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「君いくら?」
180cmはあるだろうか、上背のある男が少女に声をかけた。
君いくら?、言うまでもない男は少女を買おうとしているのだ。
少女を一時的に買う為の値段を聞いているのである。
「2」
「決まり。じゃあ行こうか」
男は少女の数歩先を足早に歩き出した。
それに追従する様に少女も歩き出した。
繁華街を抜け、ホテル街を通る。
都心だというのにえらく人の少ない通り。
すぐ近くには深夜0時を回っても賑わいのある街があるにも関わらず、道を挟んだこの通りは街が寝静まっている様である。
「ねえ?
「馴染みの場所があるんだ」
「ああ、違くて」
少女は足を止めて、もったいつけ口を開く。
先程までは男主導だったが、いつのまにか会話の主導権は少女が握っていた。
「何人殺すつもりだって言ってんだよ。ゴミカス」
しおらしい乙女とは裏腹に勝気な物言いである。
「何を言ってるんだい?君は」
「分かりやすぎるんだよ、お前」
ぶっきらぼうな口調ではあるが、少女のひとつひとつの所作に品がある為、まるで本物のお嬢様の様にさえ見える。
そんな少女は着けていたマスクを乱雑に外して素顔を露わにした。
「芹沢日夏……」
初対面のはずのその男が自身の名前を知っている事に若干の不気味さを感じながらも、それを顔には出さずに応対する。
「お前だろ?ここ最近の事件の犯人は」
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およそ4時間程前。
「あー、なるほど。そういうことか」
日夏のやってきた所。
それは所謂売春が多くある場所だった。
犯行現場はいずれもその近く。
捜査資料には被害者が売春していたなどとは書いていなかったが、地方から上京してきた若者が金に困って始めたと考えれば筋は通る。
つまるところ、犯人がここで被害者を買って殺したというのは火を見るより明らかだろう。
「まじでジャック・ザ・リッパーの模倣犯なのか?」
娼婦を殺していたジャック・ザ・リッパー。
女を買って殺す今回の犯人。
本当に真似しているのであれば風俗嬢でも殺しそうなものだが、ここで買って殺してるのは足がつきにくいからだろう。
被害現場を大体この場所から歩いて20分くらいの所。
繁華街から少し離れたところで起きている。
今になって捜査資料を思い返すと、被害現場はこの場所を囲う様にあった。
何ともまあ陳腐な見落としをしたものである。
犯人がこの場所で殺す相手を決めている事はほぼ間違いないのだが、肝心な犯人を捕まえるまでには至っていない。
日夏はその場に立ち尽くし思案した。
この時に琴葉が居たら日夏の案を止めるのは想像に難くない為、二手に別れていたのは日夏にとってプラスに働いた。
「んー、これで決まりだな」
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「自分も商品となって僕が買うまで待ってたって事か……」
「正解☆」
大人しく捕まれよー、と手を閉じたり開いたりする日夏を見て男は不愉快そうに言った。
「何で僕をを捕まえるなんて危ない橋渡るんだ?普通の奴は見て見ぬふりするんだよ。関わったら自分に火の粉がかかるから。上手い生き方を知らないのかい?」
「上手い生き方ぁ?お前を捕まえると家のエアコンが直る。リターンの方が大きい仕事なんてやんない理由がないでしょ」
「はは!完全にイカれてる!いいな!君!やっぱりイイ!」
男の笑みが変わる。
不愉快そうだったものが悦しげな笑みへと変わった。
その気色悪い変化に日夏は一抹の不安を覚え、男を拘束する為にいち早く動き出した。
日夏のその動きは明らかに人間の規格を超えており、コミックの中でしか見たことがない様な距離の詰め方をしていた。
常人ならば反応もできない様な速さ。
この状況が映画でこの場に観客が居たとしたら、誰もが捕まえた!と思っただろう。
が、しかし殺人鬼の男は日夏の想像の範疇を超えていた。
「なッ!?」
掴むだった筈の腕がない。
男の腕が失われている訳ではない。
つい数瞬前までは居たはずの場所に男がいないのだ。
「やっぱりいいよ!芹沢日夏!会って目の前にするのじゃ、画面越しに見るのとは訳が違う!」
声のする方向は日夏の頭上、ビルの屋上。
犯人と思しき男は屋上に立ち、日夏の事を見下ろしていた。
発言から向こうが一方的に自身の事を知っており、
何というかストーカー行為を堂々と宣言しているわけなのだが、日夏はそれを全く気にせず睨んだ。
「降りてこーい!!」
「ラブコールをくれてるところ申し訳ないんだけど、そろそろ時間だ」
遠くでパトカーのサイレンがする。
日夏が声をかけられた時に予め通報していたものが今になってやってきた。
人と言っていいのか怪しい男でも警察の相手はしたくないらしく、パトカーのサイレンが聞こえてから逃げる準備を始めていた。
「じゃあ、またね」
「は?おい!降りてこい!おい!」
ぴょんぴょんと跳ねる日夏に笑顔で手を振って、男は現場を後にする。
立ち並ぶビルの屋上を渡り歩き、夜の街を高みから見下ろしていた。
「ふっ〜ふっ♪ふっ〜♪」
鼻歌を歌い、上機嫌な様子だ。
「いや〜、会えて良かったな。やりたくもない事をした甲斐があった」
男は自身の首のあたりの肉に指をめり込ませて、爪先で何かをカリカリと触る。
すると、少し厚めの膜の様なものが浮き出てきた。
男はその膜を指の腹で掴み、ビッ!っと一気に剥がした。
膜の裏は血の様な赤に染められ、それが生々しいものだとわかる。
血の様な赤、否、血の赤である。
生々しい見た目なんてのではない。
生だ。
生の、人の顔の皮である。
男は人面皮を顔に貼り付け、自分の本当の顔を隠していたのである。
男はその皮をポイっと空に投げ捨て、夜闇に隠れて見えない顔を醜く歪めて笑った。
「ああ!次会えるのはいつだろう!」
良かったー!1週間以内の契約間に合ったー!
私の1週間は8日間あるのでこれは間に合ってますね。