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ふと描写をしてみたくなった①

〜フクロウが知らせる客が来たと〜より

主観と辻褄合わせの為の曲解を加えて。


 太陽がその全容を顕にしても、森の中は月明かりが照らす街より幾分か周りの輪郭線が感じ取れる程度で、暗闇に恐怖を憶えるよう発達した想像力を持つ種族が出歩くには、いささか心許ない。人はもはや森から招かれざる種へとなってしまったらしい。夏であれば森に届く陽の光は木々の葉が遮るこの森も、足元に降りた霜から身を守る為に自らの体の一部を切り落として自らを守っている。代わりに陽を遮るのは北方の山脈が陽に照らされることにより強烈な北風を伴い降りてくる朝霧で、この季節ならばそれなりの頻度で朝起きた時に白内障の患者体験ができる。

 森に響いていた霜柱を砕く音が不意に止まった。男の視線の先にあったのは森が静かに眠る頃。寧ろ森が静かに眠った頃を見計らって現れる花蕊もそれを支える花軸もない白い花だった。この花を目にするのは決まって朝霧が降りた日だが、発見するのは大抵霧が晴れた後で霧が立ち込めている間にはあまり見かけない。霧が晴れれば視界が良くなり水滴が陽光を反射するのだが、このような状況だと視界が悪いばかりか、その花は霧の中にあるとさながら白い迷彩服を着た狙撃兵かの様に森に溶け込んでしまう。その花に命を狙われることはないのだが、気が付かずに歩を進めてしまうと、他の者が受けるはずだった不幸を一瞬にしてひきうけたかの様な気分になる。

 この花を建築した家主は寒さに耐えきれずその命を失ったが、花にぶら下がった卵嚢を見ればその役目をまっとうした働き者であることが伺える。

 蜘蛛という生き物は、自らの暮らす巣が食い扶持にもなるのだから巣を作るということに生涯のほぼ全てを捧げていると言える。少なくとも、小さな命の作り出した白い花はこの季節であれば森の中で最も美しい花と言えた。

 この花を持ち帰る術はない。男は小さなため息を吐くと、朝の苦手なフクロウたちが待つ家へと向かった。

 屋敷の玄関を目視できる距離まで来ると、フクロウたちが既にベランダへと出ていた。

(そうか、今朝は霧だったか)

 男は一人でに納得し、ベランダを見上げながら玄関へと向かう。森が眠るこの季節は水浴びができない。代わりにこの屋敷のフクロウ達はベランダの手すりに並び、羽を膨らませて霧を取むわけだ。

「何を見てきたの?」

 頭から外套を被った女がティーカップを静かに置き、フクロウ達の隙間から尋ねる。

「この濃霧では何も見たとは言えないかな。君の想像次第ということにしておくよ」

 男は微笑みながら答えた。

「それは何か良いものを見てきた時の応えね」

 みすかした様に女が言う。獲物の動きを見逃さない猛禽類の様な観察眼だ。男にはベランダの手すりに並ぶフクロウ達の目が僅かに光を帯びた様に見えた。

 男は苦笑を浮かべることで少しの時間を稼ぎ、ベランダからは様子の見えない玄関口までやり過ごす。何かが起こり、何かを見る今日という時間が始まった気がした。

 

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