7.5 その後
続きです。
これで海編終了となります。
「ふ〜、遊んだ遊んだ」
暁の残した僅かな光が、夕闇に染まる時間帯。
私たちは、ゆっくりと帰路についていく。
それを後押しするように響くさざなみは、心が洗われる様で心地良い。
しかし、風景と言うものは終わりがあるから美しいのだ。
すなわち、ずっと見ていてたら記憶に残りづらく、その価値は落ちる。
「じゃあ帰るか」
「まってください! これ……買って行ってもいいですか?」
煌めく海を背景に、颯爽とその場から立ち去ろうとした時。
後ろから、コンクリートを駆ける音がした。
振り返ると、風凛が小さめのキーホルダーを持ってきている。
「波に乗ってる……禿げたおじさん?」
「亀です!」
疲れているからだろうか、まさか亀とおじさんを間違えるとは。
いやまてよ、このツルツルの感じどこかで……。
あ、よく見たらこれ”敷オジ”(河川敷おじさんの略)じゃん!
どおりで間違えるはずだよ。
うん、次会ったら服剥ぎ取ったろ。
「ほら、ふーちゃんの分もありますよ」
「あ、ありがとう」
どうせくれるなら、ゲームか食べ物だったら良かったのに。
海で魚を見てから、お腹が食べ物を求めてしょうがない。
……まあ、これでもいっか。
▲□●◎□
「1マッソ〜! 2マッソ〜! んんん〜3マッソ〜!」
開店前の客席で、店長が奇声を上げている。
まるで生まれたての子鹿が、自分を大きく見せようとするような。
何か嫌な事でもあったのでしょうか、心配です。
「なにやってるんですか店長……。悩みがあるなら聞きますよ?」
実際、ここ数日の店長は心配だ。
無理に巷で流行っている音楽を流したり、可愛い物を身に着けてみたり。
……女でしょうか?
いやいやないない。
あの店長に限って、そんな事は絶対ない。
この店の最長バイト歴である私がそう言ってるんだ。
とはいっても、私含めて2人しか居ないんだけどね……。
「あぁ、風凛か。 いや、海行った日からフェルデリアがずっとマッソーが言ってるだろ? だから、仲良くなるためにも、俺もマッソーを始めようと思ってな」
「絶対やめてください。洒落になってませんから」