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6 あ、ちょっともう無理かも


 あれから、時は経って3ヶ月。

 ちょっともう無理かも……。

  

 というのも、接客業の経験の無い私は必然的に裏方の仕事を任されていたのだが。

 これがクソほど面倒くさい。

 パソコンを使って、エクセルやらワードやらでの打ち込みを永遠としたり。

 客の飲み物だの皿だのを用意したり。

 私は神だぞ、人類創設者の最たる例だぞ。


「はぁあ〜、もうやだ。給料の大半が家の修繕費に当たって、好きなもの何も買えないし。てか、私に働かせるなら給料5倍増しにしろ。天罰下すぞほんま」


 排水溝よりも深いため息が、意図せずに零れていく。

 追放される寸前の私も、まさか下界に降り立って(こっちに来て)からも働くとは思いもしなかったな。

 天界ではボロ雑巾のように扱われ、下界でも雑用係として使い捨てられて。

 まぁ、待遇についてはずいぶんとマシになったけど。


「私、なにしてんだろ……」


 引き篭もり生活に戻れない日々に、段々と嫌気がさす。

 よし、爆発した時には風凛の家でニートしよう。

  

「ふーちゃん、なんか悩みでもあるんですか?」

 

 椅子の上でぐいーっと背伸びをしていた私に、タイミングよく風凛が声をかけてきた。

 噂をすればなんとやら、というのはこういう事を言うのだろうか。

 よくわからないけど、多分だいたいは合ってる気がする。 

 

「いやぁ、ちょっと仕事で疲れちゃって」


 サボりを隠すために、それっぽい嘘をついてやり過ごす。

 ここ最近発見したのだが、これをするとほぼ100パーセントで良いことが起こる。

 例えば、(ねぎら)いとしてまかないを持って来てくれたり。

 それを口を開けるだけで食べさせてくれたり。

 私の気が済むまで肩たたきをしてくれたり。

 

 (やってくれるのは、ほぼ風凛だけど)

 

 とりあえず、働かない時間を確保しながらリラックスできる”なんちゃて特別待遇”になるのだ。

 そうして今回も、またいつものように何かあるのだろう。

 私は、期待で胸がいっぱいなった。


「――じゃあ、みんなで海行きましょう!」


 彼女から発せられた内容は、想像したものとはかなり違った。

 というかほぼ真逆。

 こんな真夏に、誰が好き好んで海なんて行くと思ってんだ。

 平和世代末期の自殺志願者とかなのか?

 なんか悩みがあったら聞いてあげよう。

 というのは置いておいて、ともかく、どうにかして断らなければ命が無い。

 

「え? あ、あの。お気遣いはありがたいのですが……その、不参加ってことには」 


「無理です」


「ですよね〜」 


 私が諦めの境地(絶望)に佇んでいる間。

 奥の厨房で、店長と風凛が楽しげに話して居るのが見えた。 

 どうやら無事に、私の死亡確定日時が決まったよう。

 

 お父さんお母さん、今まで黙ってニートしててごめんなさい。

 あと、立派な神様になれなくてごめんなさい。

 もし干物になって郵送されてきた時は、優しく水をかけていただければ幸いです。



▲◆▲◆●

 


「やっと着きました〜! 車に揺られて約30分、待ちに待った海がもうすぐそこにあります!」


 蒸し暑いを飛び越して、もはや燃え盛っているのではと錯覚する程の灼熱の大地。

 かといって見上げて見れば、雲ひとつ無い群青の空。

 気休めにもならないような生暖かい風が、ゆっくりと吹き荒れる。

 

 私は車内に差し込んできた日光だけで既に限界値だと言うのに、風凛は何時もより数倍もテンションが高いよう。

 どうしてそこまで元気でいられるのだろうか。

 人間と言う生き物が不思議でならない。


「嬢ちゃん海は初めてかい? なら、思い切って飛び込んじまえば良い。あの気持ちよさを知ったら、もう虜になって離れねぇぞ〜」

 

 店長はそう言うが、実のところ海には入りたくない。

 ベトベトになりたくないっていうのもそうだけど、天界で特訓していた頃の壮絶なトラウマが蘇ってしまいそうで怖いのだ。

 というか何よりめんどくさい。

 無駄に疲れたくない。


「行きたくないな〜。でも、傘張らないといけないし……はぁ」


 適当に不満をつぶやきながら、とぼとぼと砂浜に向かう。

 その時、ビーチ内で走り回る風凛が、こちらに向かって駆け寄って来るのがわかった。

 しかも、よくわからない格好をした人間たちに追われたまま。

 

「ほら、早く逃げましょうよ!」 


 彼女はそう言って、私の手をタッチする。

 すると、先程まで聞こえて来なかった轟音が、揺れ動く地面を伝って来た。

 

 ……ん、なんだ?


 その音の正体を探ろうと、辺りを見渡した時。

 そこには信じられない光景が広がっていた。

 そう、さっきまで風凛を追いかけていた筈の人間たちが、私を目掛けて走ってきたのだ。


「うそだろ!? 風凛(あいつ)、標的を私に変えやがった!」

 

 とか言ってる場合じゃない。

 早く逃げなければ、”人間に命を奪われた神”として未来永劫笑いのネタになってしまう。

 それだけはどうにかして阻止せねば。

 私の中に、焦りと危機感が迫ってくる。

 とりあえず、風凛にタッチをしたら大丈夫なはずだ。

 そう考えた私は、熱い砂浜の上を全速力で駆け抜けた。



「よし、とうとう追い詰めたぞ風凛〜」


「なかなかやりますね。でも、まだまだですよ!」


 海のすぐそば、湿った砂浜の上で、私と風凛は対峙(たいじ)する。

 右か左か、勝負は1回きり。

 負けた方は海にドボン。

 今日を最悪の気分で過ごす事確定のデスゲームだ。

 迷ってる暇はない、後ろからはさっきの人たちが追いかけて来ている。

 

「「いざ勝負!」」


 風凛と私、2人の声が宙をこだまする。

 命と名誉を賭けた、正真正銘最後の戦い。


「――いくぞ!」


 私は、ただまっすぐに突進した。

 変に横に行ってかわされるより、当たり判定の大きいこっちのほうが勝率が高いと思ったからだ。

 結果は正解。

 横に逃げようとした風凛の腹に、私の肩が衝突する。

 体勢を崩した彼女は、もう倒れることしか出来ない。

 

「私の勝ちだ!」


 そう油断した、その一瞬だった。

 風凛は体を(ひろがえ)し、私の攻撃を受け流したのだ。

 風凛(あいつ)の狙いはこれだったか!

 まずい、このままだと負ける!

 あれだけ馬鹿にした最高神にも、馬鹿な奴だなと笑われてしまう!

 絶対に負けたくない。

 

 その時、私の目に写ったのは”蜘蛛(くも)の糸”とでも言うべき勝ち筋。

 しかし、この技は反則もいいところ。

 でも今だけは、今だけはどうか許してくれ。


 彼女の腰に回された、パンツ(これ)に賭ける――


「きゃあああああ!」





遅れてすいません。

ふーちゃんたちの海編①です。

②でおわります。

明日上げるとは思いますが、万が一投稿出来なかった場合は申し訳ありません。




もしこのお話が面白いと思っていただけたり、続きが気になると思って頂けた方。

今後の活動の励みにもなりますので、

ブックマーク登録&評価よろしくお願いします!


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