4 最強ニートの野望
「最高神〜! おい、お前もこっち降りてこい! 泣きついて謝るまでしばいてやんよ!」
なんてやつだ。
私を追放する事に飽き足らず、更に苦しめもしようとするなんて。
おまけに、自分はリスクを追わないときた。
天界の最高神ともあろう神の有様に、心底軽蔑する。
「フェルデリア、外を見ろ!」
店長が窓に指をさして慌てている。
つられて外を覗いてみると、空には雷で形作られた龍が舞っていた。
そいつは帯電・放電を繰り返し、今にも街へ突っ込んできそうな勢いだ。
しかし、あの龍の姿はどこかで見たことがあるような気がする。
170年前に私が倒した邪竜か、それとももっと昔の記憶か。
――そうだ。
力を欲したあの夜。
夢を見て、覚悟を決めたあの日。
幼い私では、守ることすらもできなかったあの惨事。
「なるほど……これは私への当てつけか」
先刻は、最高神に対して酷い軽蔑をしたと自分でも感じた。
だが、それは違ったようだ。
胸に宿る怒りの炎が、ぐんと威力を増して燃え盛る。
もはや、どれだけ最高神を殴ろうと、この気持ちが消えることはないないだろう。
切り裂くように宙を睨んで、急ぎで外へと向かった。
そこに大義はないとしても、あれは私が止めないと行けない。
この世界で対抗できる神は、私しかいないのだから。
そうして、私と最高神の戦いは始まった。
相手は空で、私は陸。
魔法で飛んでもいいが、狙いを私から外されたら一巻の終わり。
街を破壊させないように、多少の攻撃は身で受けながら戦う。
しかし当然全てを受けきれるわけもなく、このままではあの日と同じ光景が再現されるのも時間の問題。
早く何とかしないと。
焦りのせいか、体から変な汗が出てくる。
でも、今もままでは何も出来ない。
ならば、反撃をしながら策を練った方が合理的か。
「まあ、私1人を狙ってくれるならどうとでもなる。――ちょいまて!」
刹那、走っている方向とは別の方向に進行を開始した最高神。
私の事を狙っているとばかり考えていた私は、すぐさま反応できない。
着地しきっていない片足で、地面を思いっきり蹴飛ばしてみる。
間に合うかは分からないが、方向転換には成功した。
あとは電撃をチャージしている口の前に出るだけだ。
「――いったあぁぁ! けどどうにか間に合った!」
攻撃を受けた私は、逆さまになりながら落ちていく。
しかし地面までの距離が短く、固いアスファルトに頭からぶつかってしまった。
それから私と最高神は、互いに攻撃を与え合いながら戦っていった。
「『空式破壊弾』ッッ!」
くっそ、これで何回目だよ。
相手は雷の化身。
いくら攻撃を仕掛けても、一向に弱る気配がない。
それだけじゃなく、敵は私を追尾して無限に攻撃してくる。
その度に落ちてくる雷も、決して痛くないわけじゃない。
周囲を崩壊させないように、出力を抑えながら戦うのももう限界だ
「こっち降りてこいや!」
「やーだね! お主なんてわからず屋は、こうでもしないと気が済まんでな〜」
ーーいい加減にしろ。
堪忍袋の緒が切れた、というやつだろうか。
頭の中にある怒りの上限が、ぱらぱらと剥がれ落ちていく。
こうなった今考えてみると、いままで本気で怒った事は無いのかもしれない。
「最高神、ここまでブチギレたのはお前が初めてだよ。ゲームで負けた時でさえ、もう少し落ち着いていたというのに」
思考が止まらない。
最高神が次に出す攻撃も、その対処法も。
全てが分かる、”理解できる”。
けれど、実行するには加減が邪魔だ。
どうにかして完全体の魔法を使うことは出来ないか。
もっとよく考えろ。
今日見た人間の構造から、魔法の核心まで。
記憶に根付いた全ての知識を顕現させろ。
出来るはずだ。
私は「至高の神」そう、全てにおいて最強なのだから。
「いまさら何をしようと無駄じゃ! 早く諦めた方が、得策だと思うがの〜」
魔力の流れを通じて、最高神が直接頭に話しかけてくる。
絶対に諦めてたまるもんか。
もう二度と、あの惨事を起こすわけにはいかないんだ。
そういえば、今日の人間の反応……これならいける!
私が思いついたのは、”天界との関係を遮断する結界で、世界全体を包み込む”といった方法。
このアイデアの元は、数時間前に訪れた人間界の教会。
こんな大都会にあのような物の設置許可が下りるのだ。
なら、1つくらい神のシンボルが増えてもいいだろう。
「この勝負もらった!」
やり方はシンプルで簡単。
結界を張る者の証を刻んだ設置物を中心に、莫大な魔力で魔法をかけるだけ。
今回はちょっと特殊なバージョンで、先に攻撃を防ぐ結界を張ってから作業に入る。
「うーん、と言ってもいい感じの置物無いな。……あ、これにしよう」
見つけたのは、焼き鳥位の小さな石ころ。
こういった時は大きい物の方が良いと思われがちだが、破壊される可能性を考えるとこの位の方が良い。
探している間に最初の結界は張ってしまったので、さっさとやって終わりにしよう。
「我、ミューラタス・フェルデリアが望む。光あるところに闇は咲き、咲き誇ると同時に崩壊す。夢との狭間の揺らめく星よ、民を守り、数多を喰らい給え」
両手の指を組み合わせ、天に向かって祈りを捧げる。
今思えば、神が祈るって変な感じだな。
本来は天使とか、他種族とかがやってそうなものだが。
まぁ、なんでもいいか。
「『干渉遮断結界』」
私の詠唱を合図に、巨大な結界が空全体を覆っていく。
流石に規模があれなので薄く伸びている感じになっているが、強度と効果は保証付きだ。
その証明にほら、先程まで暴れていた雷形の龍がどんどんと消えていく。
――よし、帰るか。
気がついた時には怒りが収まり、疲れた私は帰路についた。
そう、現在進行形で巻き起こっている悲劇も知らずに。
▲■○○●
「え、家が燃えた?」
本日付で我が家になった焼き鳥屋に帰ると、始めに聞かされたのはそんな話だった。
なんでも私が外に出ていった瞬間に、最高神の初撃が店に当たったそうだ。
食堂本体は無事だが、私の部屋になるはずの部屋だけが全焼。
店長たちは少しほっとしているようだが、運がよかったのか悪かったのか。
喜ぶに喜びきることができない私がいた。
しかも、店長たちは私のことを人間の娘だと思っており、「遅いから、気をつけて家に帰りな」と送り出される始末。
「フェルデリア、また明日な!」
かけられる言葉が、全部煽っているようにしか聞こえない。
だって考えてみろ、私ここから野宿だぞ?
大量の魔力を使ってへとへとの体に、ベッドは特製ダンボール?
――ふざけんな。
なんで私が草くわなきゃいけないんだ!
くそぉ、あのじじいめ…!
次あった時はぼこぼこにしばいてやる。
そして、絶対にあの自堕落生活にもどってやる!
私はそう決意を固めた。
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