3 ありふれた日常の幕開け
「おなかへったなぁ。最高神のせいで昼ご飯食べてないし……」
あれから数時間ほど経ち、遊び疲れた私は空腹の極地にいた。
なんでも良いからご飯が食べたい。
天界では、連絡をすれば転移魔法ですぐに届いたものだが、下界にそんなシステムを求めてもしょうがない。
でも、もう限界だ。
早く食堂的な何かを探さないと、苛つきでここ一帯更地にしそう。
……まて、なんだかあっちからいい匂いが。
空腹による腹痛で、お腹を抱えて歩いていた時。
風に揺られた香りに流されて、私は運命とでも言える出会いをした。
「ふむふむ。これは……焼き鳥?」
▲○●○■
私の部屋の数倍、今日行った小さめの公園と同じ位の広さだろうか。
椅子とテーブルがいくつか置かれた空間に、調理場がよく見える1人用の席。
外の看板に描いてあったが、ここは焼き鳥屋”日脚”と言うらしい。
見た感じ従業員は2人で、客も少なくないので大変そう。
なので、動きが止まった隙間の時間にでも呼ぶとしようか。
「注文良いですか〜!」
メニュー表に描かれた品物たちが、どれも”私を食べてくれ”と訴えてくる。
油が乗って美味しそうな見た目に目移りがとまらない。
「う〜ん……じゃあ、この”ひなねぎ”ってやつ10本で!」
小さな肉が何個ついていようと腹が膨れる気はしないが、今はそんな事どうでもいい。
美味しいものを満足するまで、最大限に味わう。
それさえできれば、量とか大きさは関係ないのだ。
(まぁ、いっぱい食べれるに越したことはないんだけど)
「はいおまちどうさま、ひなねぎ10本です! お熱いので、気をつけて食べてくださいね!」
そうして運ばれてきたのは、肉とねぎが交互に刺さった棒。
ぷるぷるとしていてしっかりした肉に、程よい炭の香りが食欲を誘う。
しかも、見ているだけで勝手に垂れてくるよだれが、早く食べたいと私を急かしてくる。
周りの人の食べ方を見習って、串を横にして下の方から全てを食いちぎった。
……んっ!?
小さいながらも、ジューシーで噛みごたえがある存在感。
そこに掛け算するように加えられたねぎが、幸せの虹を生み出している。
「なにこれうま! 天界の適当な料理より7倍は美味しい!」
下界に降りてからというもの、今日はずっと驚かされっぱなしだ。
神として天界に居た頃も、たまに遊びに来てみてもよかったかな。
なんだかそう思えて来て、ちょっとした寂しさがこみ上げる。
でも、今はそんな事よりもっと食べよう!
「注文追加おねがいしま〜す!」
▲■○○■
「はぁ〜、食べた食べた。じゃ、寝床でも探しましょうか」
追加で100本ほどの焼き鳥を食べ、心身共に満足した私。
そうして、席を立ち足早に店を出る。
いや、正確には店を出ようとした。
店のドアを横に引いた時、後ろから声をかけられたのだ。
「……お金、まだですけど?」
「――へ?」
天界では、十二神の権力を最大限に使って欲しい物全部取り寄せていた。
そのため、”料金を払う”という日常の基本的動作を忘れていたのだ。
やばい。
体からどんどんと血の気が引いていくのがわかる。
そして、突如訪れた数秒間の沈黙の後、当然お金など持っていない私は店の裏に連れ出された。
どうしたものだろうか。
ここでいくら金を払えと言われても、持っていない以上はどうしようもない。
先程声をかけてきた女性従業員と、ここの店長と思われる大柄の男がコソコソと話し合っているが、私は一体どうなってしまうのだろうか。
よし、いざとなったら魔法でどうにかしよう。
というか、今日だけで2回も処罰受けるのさすがに不運すぎないか?
全く、神もちゃんと仕事しろってんだよ。
と、そんな事を考えている内に、どうやら私の処分は決まったらしい。
頭に白タオルを巻いた男が、こっちに向かってゆっくりと歩いてくる。
「なぁ嬢ちゃん。その手に詳しい人と少し話し合ってみたんだが、やっぱり金を払ってもらうしかねぇみたいなんだ」
彼がそう言うと、奥にいるうさぎみたいな女従業員がこくこくと頷く。
これはあれだろうか、やはり”体で払え”とかいう怪しい展開にでもなるのだろうか。
この手の物はあまり触れたことが無いのだが、天界のゲーム仲間がそんな感じの事を言っていた気がしなくもない。
不確かな記憶を頼りに、”実際はどんな事を言われるのだろう”と、少々心がどきどきする。
「それでな、いきなりなんだが……。どうだい嬢ちゃん、いっその事ここで働いてみるってのは? それなら今日の分の金も払えるし、望めば社宅として家も用意できる。しかも、もし住んでくれるなら夜中警備要因として給料も割高にするぜ?」
「――ふぇ?」
いくら身構えていたとはいえ、いきなり多数の好条件を出されては、びびらずには居られない。
言っている内容が信じられない私は、きょろきょろと辺りを見渡す。
しかし、どこを見ても突起とした異変はない。
でもおかしい、なにかがおかしいはずだ。
私の神としての勘がそう言っている。
「うむ、なかなかの好条件だ。さりながら、金は払うとはいえ私が働かにゃあかんのか? ゲームも何もなしにこんな場所で?」
「これはまた随分と生意気な……いや、ああそうだ。お嬢ちゃんにはここで働いてもらいたい。ゲームでもなんでも、得た給料で買ってくれれば俺らは何も文句は言わないし、邪魔はしない」
私は悩んだ。
これは、正直悪い提案ではない。
ゲームを買うにも金がいるし、なにより引き篭もる場がなければ元も子もない。
この店の店主たちはなぜか知らないが理解がありそうだし、追放初日で野宿をするのも癪だ。
正直、魔法でねじ伏せても私としては構わないが、神としてそれで良いのかと言われると良くない。
「う〜ん…………。許可しよう」
苦悩の末の決断。
私がそう言い放った瞬間、彼らは硬直し、ピクリとも動かなくなった。
許可されることを予期してなかったのか、ぽかんと口を開けたまま。
「え、やった。やった〜! やりましたよ店長、これで人材げっとです!」
「そうだな……。これからよろしく、嬢ちゃん」
彼は私に手をのばす。
だがその瞳は暗く、闇に染まっている気がした。
「ああ、こちらこそよろしく頼むよ。あと、私の名は嬢ちゃんではなく”フェルデリア”だ」
私は彼の手を、そっと握り返す。
そうして私達は契約を交わし、これからを誓った誓約の握手を交わした。
しかしその時――
「――ちとまていっ!」
突然、私の決意を邪魔するように現れたホログラム。
いきなり送られて来た天界からの連絡に、背筋がぞっとする。
もしや、いやもしかしなくても……もしかして。
「フェル、だめじゃ。お主には処罰を与える」
どうもみなさんこんばんわ。
神無月です。
色々と伏線を張りながら書かせていただいているので、ちょっと考察してみると面白いかもしれません。
なんて……
もしこのお話が面白いと思っていただけたり、続きが気になると思って頂けた方。
今後の活動の励みにもなりますので、
ブックマーク登録&評価よろしくお願いします!