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2 天界ニートと下界の民


「うわぁぁぁぁ落ちるぅぅぅぅ!!」


 澄み切った程の青い空に、さんさんと照らす太陽。 

 天界から追放を受けた私は今、人間界とも呼ばれる下界の空に舞っている。

 今回の追放、それに私に否がある事は認めよう。

 しかし、抵抗などをする暇も無く気がついた時にはもうこの状態。

 しかも、大切なゲーム機すら持って来れなかった。

 

 正直、もう絶望しか無い。


 いっその事、このまま落ちて死んでしまおうか。 

 たかが音速程度のスピードで地面に追突しようと、そう簡単に死ねるわけも無い。

 そうわかっているのに、ついついそんな事を考えてしまう。


「このままだと、地面まで約3分くらいか……」

  

 天界では、文字通り世界最強の名を(ほしいまま)にした私。

 だが、それもすぐに飽きてしまった。

 どれだけ称賛されようと、すごいと言われる仕事をして天界を支えてみようと、すぐに退屈になって仕方がない。

 同格と呼ばれる十二神と戦っても、たいして面白くない。

 昔夢見た光景は、たどり着くどころか既に追い越してしまったし。

 思えば、最強なんて暇でしょうがない。

 もし過去(あの時)に戻れるなら、”おまえが今目を光らせる光景は実際はこんなもんだぞ”。

と、軽く現実を見せて諦めさせてやりたいくらいだ。

 

「――あ、そうか。過去に行って変えて来ればいいのか」


 忘れていたが、私は過去にでも未来にでも行けるんだった。

 だが、神である以上は行ったとしても”事象を観測する事”しかできない。

 最高神が言うには、『もしそこで運命を変えてしまうと、この世界が崩壊を始める危険性があるから』だそうだ。


「はぁ、めんどくさ……」


 右から左まで、そのほとんどが法の秩序によって定められている。

 私は、そんなこの世界が嫌いだ。

 

 過去を変えたいなら変えれば良い。

 未来に生きたいなら行けば良い。

 生きたいなら生きれば良い。

 死にたいなら死ねば良い。

 

 その者の決断に、他人がとやかく言うことでもない。

 誰とでも共存でき、全ての関係を排他できる。

 そんな世の中が、私の望む世界だ。


「なんて……。はぁ、考えるのあきた」


 その時、ここまでの多岐にわたる思考が一気に面倒くさくなった。

 やる気のなくなった私は、(みずか)ら思考を止める。

 しかし、そのかわりに発生した”暇”という害敵が、次へ次へと私を襲う。


「とは言っても、別にすること無いし。――あ!」


 私は閃いた。

 神である私にしか出来ない”最高の遊び”。

 誰にも邪魔されることはないし、おもちゃが無くなるわけでもない。

 

「そうだ。この世界を滅ぼしてみよう」

 

 そう考えた私は、一刻も早く地上へたどり着くため加速を始める。

 1秒ごとにどんどんと速さを加えていき、目視では見えないレベルまで到達。

 そして、光をも超えるスピードで落下した私は、身軽な体型を利用し、華麗な着地で舞い降りた。


 

 ▲●◇●▲


 

「ほう。これが、天界より何次元も劣る下界の姿か…………。って凄くね!? 辺り全面鏡で覆われてるでかい建物ばかりだし、よくわからん鉄箱も走ってる!」


 視野全体に輝く綺羅(きら)びやかな風景に、人間が何人寝ても埋まらなさそうな大道路。

 ”どうせ大したものはない”と思っていた、つい5秒前の自分を殴りたい。

 そう思えるほど、天界とは打って変わっての初めて見る光景。

 私は数秒も立たない内に、心が釘付けになった。


「まずはこの世界の時間軸を調べてそこから……。よし、なにはともあれまずは探検しよう!」


 さっきまではあんなに重かった筈の腰も、すんなりと動いて心も爽快。

 未知への興奮とときめきが、胸の裏から元気よく飛び出す。

 そうして私は、”下界大調査計画げかいだいちょうさけいかく”と銘打って、下界を調べて(遊んで)みることにした。



「――とは言っても、気になるところが多いな。どこにしよ……ってなんだあれ!」


 私が見つけたのは、”神を信じれば救われる”とだけ書かれた看板。

 その下には簡易テントが張られており、中には少人数の人間がいるようす。

 人間界バージョンの教会? のようなものだろうか。

 高層の建築物ばかり立ち並ぶ街中に、ひっそりと設置されている姿は、はっきり言って異様だ。


「試しに行ってみようか」


 教徒を謳う彼らの前に、天界出身本物の神が登場するのだ。

 これから起こるであろう惨事に、にやにやが止まらない。

 気分が良くなった私は、”最後尾はこちら”と印刷されているプリントを持った人の後ろに並ぶ。

 前の彼はなぜか動揺しているが、(ほんもの)としてのオーラが伝わってしまったのだろうか。


「――あの……あの!」


 我慢できなくなったのか、彼は私に声をかけてきた。


「どうやら、お前は私の正体に気がついているようだな。人間!」


 右腕を大きく伸ばし、無風の空を切る。

 同時に口角をめいいっぱい上げ、慣れない事ながらにこやかに笑った。

 私は彼の呼びかけに呼応して、最大限の供給をしたつもりだ。

 今にでも、「ありがとうございまずっ!」と泣きついて来ることだろう。

 

「お客様、お客様!」


 ほらきた。


「お客様! 最後尾はこちらなので、私の後ろには並ばないでください!」


「――え? あ……え? はい……」


 彼からの返答は、私が望んだ思った通りの反応……ではなかった。

 どうやら私の並び方が間違っていたらしく、その注意喚起で話しかけてきたようだ。

 勘違いをし、勝手に笑ってドヤ顔をする。

 この一瞬だけで幾度とかました失態に、体全体の火照りが収まらない。


 これは、そうあれだ。

 ”恥ずかしすぎて死ねる”ってやつだな。


 天界でのゲーム仲間が言っていた言葉を思い出しながら、残りの待ち時間を過ごす。

 気まずい空気の中で、死にかけの虫のようにうつむいていると、とうとう私の番が廻ってきた。


「こちらにどうぞ」

 

 そう案内され、座るよう要求された安っぽいパイプ椅子。

 錆が酷く充満したそれに、私は不満が漏れかける。

 しかし、”望んでここに来たのはこちらなのだからそれくらいは我慢しないと”と、どうにかして抑え込む。

 そうして私が腰をかけると、机の向かいにいる者との話合いが始まった。


「はじめまして神聖なるお嬢さん。私は、はなまる改進(かいしん)教の教祖、出手池隼人(でていけ はやと)と申します。それで……本日はどのようなご要件でいらっしゃれたのでしょうか?」


「あぁ、今日はだな――」


「わかっていますとも! ここに来られた理由など、1つしかありませんのに。あぁ、私はなんて愚かしいことを聞いて……ああん、私のバカァ!」


 何だこいつは。

 出手池と名乗る不審な男に対して、驚きを隠せない。

 私の返答を遮っておいて、言い慣れたように自虐をする。

 話し方もそうだが、首にぶら下げている曲がった十字架が神を冒涜しているようで腹が立つ。

 はっきり言ってうざい。

 めちゃくちゃにうざい。


「教祖様っ! ほら、我が教の素晴らしさを伝えないといけないのでしょう?」


「あ、ああ。我が教はだな――」

 

 このままではいけないと思ったのか、彼の従者が話を切り替えさせた。

 だが、それからの話は単調でつまらないものばかり。

 ”神”を信じれば救われる”だの。

 ”いつでも私達を見守ってくれている”だの。

 

 本当の神を見たことが無いからこそ言える虚言。

 もし人間界に神が居たとしても、きっと哀れで見てられない。

 

 出るか――


「話してくれてありがとう。つまらなかったし私は帰るとするよ。じゃあな」


 人が話している時に抜けるのは、人間からしたら異様なのだろうか。

 彼らは言葉も口に出来ずに、咄嗟に出たであろうかすれた音だけが宙を漂う。


 ”神の話を聞かず、無視をして出ていく”。

 私がした彼らが信仰する神への侮辱に、それを叱責する声もでない。

 こんな奴らに慕われるなんて、神も可愛そうだな。


「あ、最後に1つだけいいか? ”神を金儲けに使うんじゃない、そいつが()()()()()”」


 そんな感じで、私はその場を後にした。

 いくら天界に住んでいたとはいえ、今日に際限がないわけじゃない事くらいは知っている。

 早く次の場所に行かないと、面白い店が閉まってしまうかもしれない。

 そう考えた私は、勢いよく駆け出した。



3話目です!


本日の更新は終わりますが、基本毎日更新をします。

よろしくお願いします。




もしこのお話が面白いと思っていただけたり、続きが気になると思って頂けた方。

今後の活動の励みにもなりますので、

ブックマーク登録&評価よろしくお願いします!

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