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プロローグ

「――ねぇ君、怪我は無いかい?」

 

 その日、世界の均衡は崩れた。

 たった1粒の”神の息吹”によって――

 

 

  

 

 

 そういえば、今日の天気は最悪だった。 

 鉛色の雲が空を覆い、いかにも雨が降ってきそうな”災厄”の空。

 こんな日にも遊びに行かなければならないのか、と私は肩を落とす。

 でも、隣町に住む友達の誕生会に呼ばれたのだから仕方が無い。

 もとより神の家系に生まれた私には、そういう場所からは逃れられぬ宿命なのだ。


「いってきま〜す!」


 そうして私は、道端の石ころを蹴り飛ばしながら歩き始めた。

 しかし、途中まで楽しんでいたそれも、向かい風が強過ぎてそれどころじゃない。

 別に友達と遊ぶこと自体は苦じゃないが、正直言って”面倒くさい”。

 家から友達の家までの約4キロの道。

 普段なら特別遠くもなく近くもなくの関係なのに、今日はこの天候のせいで気分が全く乗らない。

 言い換えてみるとすれば、失恋中に友達の痴話を聞かされるくらいな物だろうか。


 ……うん、それは言い過ぎたかな。


 頭の中で軽い反省会を開きつつ、空いた時間を埋めていく。

 普段からこんな事をしているのかといえば、否と言ったら嘘になる。

 だってこうしている内に、いつの間にか目的地についているのだから。

 しかも他人との関係を持ちたくない私にとって、このスキルは超重要なのだ。

 

 

「ふーちゃん来たよ!」


 そうしている内に、向かいの家の中から私を見つけたとの声が聞こえてくる。

 寒空の下、外に出てまで駆けつけてくれたのは、私の数少ない友人のマーシャだ。

 彼女は、オーダーメイドで作られたゆるいキトンの袖を振りながら、上機嫌に抱きついてきた。


「マーシャ、その格好にあってるよ。でも、それで外は寒くない?」


「大丈夫! それより今日は来てくれてありがとーね。ふーちゃん!」 


 ふーちゃんとは、私の名”フェルデリア”を彼女なりに呼びやすくしたものだそうだ。

 しかし、私の家が神の家系である以上、他の者に嘗められてはいけないという掟が存在する。

 その中で、彼女を含めた幾数人の友人にだけ許した呼び名。

 そんな事もあって、実はちょっとだけ気に入ってたりもする。


「ほらこっちだよ! まだパーティーが始まるまで時間があるらしいから、みんなで一緒に遊ぼ!」


 彼女は私の腕を強く引っ張って、家の中に引きずり込む。

 先程までやる気のなかった私も、気がついた頃には楽しみ始めている。

 そうだ、私は彼女のこんなところが気に入って友達になったんだ。

 今日はもう、面倒くさいとか振り切って楽しもう。

 そう心に誓った。


 ――その時だった。


 私の嫌な予感は的中し、この街は火の海に呑まれた。

 名も知らぬ誰かが開放したという、(いにしえ)のドラゴンによって。

 それからの事ははあまり覚えていない。

 確かマーシャ達を先に逃して、神の一族である私は……。


「ズキンッッ」

  

 記憶を取り戻そうとするたびに、頭によく響く騒音。

 どこかで後頭部でも打ったのだろうか。

 平衡感覚がおかしい。

 というか体にうまく力が入らない。


 更に、私が想像していたよりも自体は深刻なよう。

 どうにかしてここから逃げ出そうとしても、片足が怪我をしていて立つことすらままならない。

 まさに絶体絶命の危機だ。

 

 

「――ねぇ君、怪我は無いかい?」


 その時、辺り一面が業火に包まれた戦場の中、私の前に突如として神が現れた。

 それは、薄い羽衣を身に纏った、きれいでかっこいい神様。

 彼女は逃げ遅れた私を見つけて、声をかけてくれたのだ。


 昨日までは沢山の天使たちで栄えていた歓楽街が、今はその面影もない。

 辺りに立ち並ぶ家は燃え、一見閑散としている場所からは、悲惨な嗚咽が聞こえてくる。

 

 今すぐにでも助けに行きたい。


 戦場(こんなところ)にわざわざ舞い降りた彼女のことだ、きっとそう思っているはず。

 だってこうしているうちにも、被害は一向に増していくばかり。

 そんな状況の中、彼女は傷だらけな私の足を羽衣で結び、応急での治療をしてくれた。


「これでOK! でもごめん、あとちょっとだけ待っててね。……今終わらせちゃうから」 


 そう言って、彼女は重い腰を上げるように立ち上がった。

 私を看てくれた余裕そうな対応とは裏腹に、今にでも古のドラゴン(あいつ)を殺してしまいそうな(よど)んだオーラを漂わせているのがわかる。

 彼女から溢れ出す魔力と威圧感によって、まだ子供だった私はうまく思考がまとまらない。

 今かけるべき感謝の言葉も、自分の名前すらも。


「なるほど、あっちで暴れているのが例のあれか……」


 彼女は私の安否を確認した後、ドラゴンが暴れている方角に指をさした。

 すると、辺りに浮かび出したのは”()()()()()()()()()()()()”たち。

 赤色から青色までの様々な色に輝くそれに、私は無意識に心が踊りだす。

 幾度と手で空を切っても、決して掴むことは出来ない。

 

「舞えよ舞え、輝く数多の星々よ。世界を照らし、希望の因果に衝突せよ」


 彼女の詠唱に合わせて、天高く舞い上がる星々。

 巨大な魔法陣が、それらを喰らうように包み込む。

 そうして全ての星が包まれた時、それらは小さく圧縮され、1粒の光にになった。

 

 わかる。

 これは、いくら幼稚な私でも、思考ができない私でも。

 この世に生を持った全生物が、瞬時に理解できる事。

 宙に浮かぶあれは、いくつのも魔法の結晶。

 しかも、1つ1つが国を滅ぼせる程の威力を持った最高位魔法の。


 ――最強だ。


「燃やし尽くせ『烈火彗星弾(ロード・マジスティン)ッッ』!!」


 その場にいるだけで命がすり減りそうな怒号と、魔法が空気中を切り裂く轟音。

 彼女の目からは、赤黒く稲光る閃光が散っている。


 そして、その魔法がドラゴンと衝突し、周りの木が吹き飛ぶほどの突風を生み出す。

 結果は言うまでもない。


 "()()()"。


 その言葉が1番に似合うほど、ドラゴンは木っ端微塵に消えてなくなった。

 

 本当は、こんな事思ってはいけないのかも知れない。

 本当は、望んでしまってはいけないのかも知れない。 

 

 ……けれど。


 もう、夢見てしまったからには止められない。

 私も、この方みたいになりたい。 

 ”()()()()()()()()()()()()()()”。


「いつか、私にもなれますか? お姉さんみたいな、かっこいい……。いや、最強の神様に!」


 私の言葉を聞いて、彼女はくすりと笑った。

 それは、子供の私に対する哀れみからか。

 それとも、自分を褒められた照れくささからか。

 私が彼女の全容を知るすべはない。

 

 でも――


「えぇ、きっとなれるわ。私のなんかよりも、ずっっとかっこいい神様に」


 彼女は。先刻とは違う笑みを浮かべながら私にそういった。

 その日から、1日でも彼女の言葉を忘れたことはない。

 これから何年も未来の、最強の自分のために。


どうも、神無月雄花です。

今回は、ネトコン様に参加させていただくということで、楽しんで書かせていただきました!

本日3話投稿となっているので、引き続きお楽しみください!


もしこのお話が面白いと思っていただけたり、続きが気になると思って頂けた方。

今後の活動の励みにもなりますので、

ブックマーク登録&評価よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったです! [一言] 追ってまいりますので、執筆頑張って下さい!!!
2023/07/09 22:54 退会済み
管理
[一言] がんばってください! 続き楽しみにしてます!
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