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セロトニン  作者: すっぴー
1/1

幸福のカプセル

第一話:氷の女

「ソルミア様、おはようございます」

頭の中で訴えるように、アラームが鳴っている。昨日飲み過ぎたせいか騒音にも聞こえた。

ベッドから起き上がり、窓のぞくとビルの下には人でごった返している。二日酔いのせいか見るだけで眩暈がする。いつものようにセロトニンカプセルを飲む。すぐに身体が軽くなり幸せな気分になり落ち着く。ただのボディーメンテナンス。

朝食を注文し、温かい卵とこんがり焼けたベーコンの香りが食欲をそそう。

「今日のスケジュールは?」俺は父が送りつけたガラクタに話し掛ける。

「本日は、12時からSmileFuture社の幹部様たちとの報告会、16時からシドニー・カーランド様とのお約束があります」そう無機質なものが話しかけてきた。父によれば来年の2168年に発売されるガラクタらしい。

すでに11時を回っていった。俺はソファーに座りながら、他の幹部が俺の頭のデータベースに入ってくるのを待つ。

いつもの報告会。頭にどうでもいいことが流れる。

「今年のセロトニンカプセルの下半期の売上は独占市場。ボディーメンテナンスとしての首位は獲得しています。政府からも援助金をもらえ広告は政府が全面支援するとのこと・・・」

頭のデータスイッチを切り、早く終わりたい。何故なら今日は久しぶりに人と直接会う日だからだ。シドニー・カーランド。以前買収した会社の社長の娘。データベース上ではやりとりはしていたが、会うのは初めてだ。

報告会を終えて、外にでる服を選びながら持ち物を確認していた。(今日は特別な日だし)

そう自分を納得させ、もう一錠セロトニンカプセルをもっていく。

シドニー・カーランド。彼女もカプセルの嗜好者だ。食事の後の展開は分かっていた。

約束していたホテルロビーに着くと、一人の女性がBarのカウンター席に座っていた。

ロングのブロンドヘヤーと手に付けていた指輪ですぐに分かった。その指輪は青く輝く海のようだった。彼女は、俺に気づき少し目線をやると手に持っていたカクテルを飲みなおしていた。

俺は彼女の横の席に座り「直接会うのは、初めてだね。キリルだ。よろしく」そう言うと、彼女は、他人行儀で「シドニーよ」それだけだった。こちらに当てる目線は氷のように冷たくまるで俺のことを嫌っているかにも思えた。

俺は気にせず当たり障りのない話をするが、振り向いてくれない。俺は言った

「なにか悪いことしました?」

シドニーは俺の目を見て一言いう「あなたもカプセルは好きなの?」

なぜそのような質問をするか、疑問であった。何故ならロビーではカプセルを飲む者もいれば、注文すらできる。質問の意味が全くわからなかった。

俺は「飲まない理由がわからない」素直に答えた。

彼女は、悲しそうに少しこっちをみてカクテルを飲み干す。

「失礼しますね」彼女はそう放つとコートを着ようとしていた。

俺は理解するのをやめ、怒りにもみちた感情になっていた。(もういい。彼女は帰らせよう。カプセルをのんでこの感情を消そう)

時間を無駄にしたと思いながらカプセルを手にすると、彼女が気づき

「キリルさんは、そのカプセルを捨てられますか?」悲しい目線が突き刺さる。

俺は彼女を引き留めたいばかりで「もちろん」と一言。カプセルをトニックウォーターの中に沈めた。(続)






























第二話:約束

「では仕切り直しですね」彼女はコートを置いた。

「シドニー・カーランドよ、初めましてキリル・ソルミアさん」俺を見る氷の目は溶けていくようにみえた。不思議な感覚だった。何故か別世界からきたような人みえたこと。そして抱いていた怒りや負の感情が自然になくなっていくことを。

「私はここの人間には興味がないのよ。自分勝手でつまらないわ」

ここ?。とにかく話を合わせよう。

「俺も退屈していてさ、久しぶりに人と会うが楽しみだったんだ。データベース間で話し合うのは苦手でね。このチップ除きたいよ」

「俺の会社はさ・・・」

彼女は静かにグラスを置いた。「そんな話をする人が苦手なの」

「え、、っと、、」言葉が詰まってしまった。

「ごめん。あの、、この前チップ間で話した時の迷子の子供がね、親御さん見つかったらしくてね・・・」俺はなにを話しているんだ。今度こそ帰られてしまう。唇を噛んだ。

彼女はそれを聞いて、「迷子の女の子の話は興味あったの。なんで急に目の前に違う惑星の子供が来たのか不思議だったの。最近ニュースにも出ていたわ。原因は不明だそうよ」彼女はその話には食いついてきた。

「ただ、女性との会話は初めてかしら?」冗談を含ませて返してきた。

「ははは、、、かもね。」

目線が合わさり互いに頬を軽く緩めた。

「そろそろ失礼しますね」上着を羽織って立ち上がった。

結局ダメだった。自分の不器用さに言葉もでない。

しかし彼女はこう続けた。

「もしあなたがそのカプセルを一週間飲まなかったら、またお会いしましょう」

とっさに俺は分からないが「必ず」と答えた。彼女にもう一度会いたかったからだ。

「その時までに、私を笑わせる話でもしてくださる?」微笑みながら、カウンターを後にしていった。

俺は独り残されたカウンターでグラスに沈んだカプセルを眺めていた。

(彼女に会えるなら我慢しよう)そう思いジャケットをきた。外はまだ18時。辺りは賑わっていたが、脇目も触れずそのまま自身のビルへと戻った。

「ソルミア様、お帰りなさいませ。」ガラクタが話しかけてくる。

ソファーに深く腰をかけ、彼女のことを考えていた。少しの時間だったのに、とても満たされた気持ちになっていた。シドニー・カーランド。

(彼女をもっと知りたい。次は面白い話できるかな)

すーっと、天井を眺めていた。

「ソルミア様、カプセルのお持ちしました」ぶしつけに雰囲気を壊す音が聞こえる。

「いらない。一週間はおれにカプセルを持ってこないでくれ」俺は言い切った。

実際、隠れて飲んでもバレることはないのに俺がそれを許さなかった。

「ですが、ソルミア様・・」それ以上は聞かなかった。

窓から見える景色は眩しくとても綺麗だった。満足げに笑みを浮かべていた。

これから地獄が待っていることを知らずに。

(続)































第3話:感情の雨


シドニーのことを考えていた。もうあれから4日過ぎた。彼女に連絡しても返ってこない。

一週間後には連絡を返してくれるのだろうか。


俺は生まれた時から何でも手に入った。子供の頃にはすでに頭にマイクロチップをいれており、隣の惑星の人とも交流をしていた。ただいつも心はなにか穴が空いていた。それを埋めてくれたのがセロトニンカプセルだ。なにかも前向きに考えることができ、そのおかげで重圧を乗り越えて今の座に上りつめた。父の支援もあったことは否めないが。

この惑星の人口の87%はマイクロチップを入れている。決して安価なものではないが普及している。俺が社でも入社員には無償で提供している。セロトニンカプセルと同じく。

「お母さんに会ってくる」俺はそう一言メモを残して、雨の中、雨具も無しに出ていった。

無性に動きたかった。外の空気を感じたかった。そして安心して、話せるお母さんに会いたくてしょうがなかった。

「雨すごいね、今日。お母さんは大丈夫?みてみて、お母さんが好きなラベンダー持ってきたよ」俺はそっとお母さんの元に置く。

「最近気になる女性がいるんだ。でもうまく話せなくて・・」俺は自然と涙目になっていた。

「お母さんはよく言っていたね、将来俺はいい男になるって。今はどうかな・・・」

「・・・・また来るね」俺はこぼれる涙を雨で消しながら、後にしていった。

自宅に戻りシャワーを浴びる。温かい水に打付けられ、何もせずぼーっとしていた。

カプセルをやめてから、急に感情的になったり、絶望感を抱いたりするようになっていた。

食欲もでない。報告会も度々休むようになっていた。

深夜、グラスを片手に、静まり返った町をみながら、トニックウォーターを飲んでいた。

手が滑ったのかグラスを落としてしまった。震え?なのか?ただの疲れだ。

眠れないのは分かっているが、ベッドに横になる。俺のその目線はカプセルの場所へ釘付けになっていた。

だがあの時の彼女の悲しい視線が脳裏によぎる。俺は枕に顔をうずめた。


7日目を迎えた。

朝、父から何通もの連絡がきていたことにやっと気づく。返事はいつもしない。

彼女からの連絡もない。意気消沈した。

(だが同時にボディーメンテナンスがどれほど大事か理解できた。今後の会社を運営するヒントにもなるだろう)自分に無理やり言い聞かせて説得する。


冷え切った卵とベーコンはまだ片付けていない。

報告会に出席し、今度自分のデータを調査するようにと放ちスイッチを切る。

矛盾しているが、同時にカプセルに対しての違和感を覚えていた。感情が目まぐるしく動き、苦しかったが生きている心地もした。悲しさや辛いことがあるからこそ、人は幸福を享受できる。カプセルを飲まなかったからこそ感じられた感覚だ。

(彼女には感謝しないと)


「ソルミア様、カプセルをお持ちしました。7日目です」

「・・・用ができた。外出する。」俺の行く場所は決まっていた。


あの時彼女にあった場所、同じカウンター席でトニックウォーターを頼む。まだ14時。

・・飲み過ぎたせいか、寝てしまったようだ。ぼんやりと目を開けると人の手が見えた。

その左中指にはめている指輪は、あの青い綺麗な指輪だった。

「飲み過ぎじゃありません?」

俺は顔を上げると、静かに笑みを浮かべた。

(続)





















第4話忘れていた感覚


(なぜ君は来てくれたの?なんで連絡してくれなかったの?どうして・・)

聞きたいことが山ほどあった。俺はすべてを一つの言葉にまとめる。

「また会えて、嬉しいよ」彼女を見つめる。

彼女はそっと隣に座る。なにも返事をせずに。でも、、、

・・・それだけで充分だった。

「あなたと同じものを頂くわ」彼女はそう呟くと、髪をかき上げ、遠くをみる。

俺は、カウンターの席の下でこぶしを握りしめて

「俺は会社を辞めようと思うんだ。セロトニンカプセルとは断絶する」

彼女は黙っているが俺は続ける。

「忘れちゃいけない感情があった。無くしちゃいけないことがいっぱいあった。嫌な事も全部含めて、本当の自分があった」俺は心に思っていることを伝えたかった。

(君が俺に人として生きている証を教えてくれたことを)

「きみがいなければ気付かなかった・・・ありがとう」

感謝の気持ちや嬉しさが混在した感情で目頭が熱くなり下を向く。

彼女がそっと俺の頬に手をあて、涙を拭いてくれた。

「もう大丈夫よ」そう一言。


それからの話は、笑いが絶えなかった。好きなお酒の話、音楽の話。この一週間がどれ程長く感じたか。

そんな、くだらない会話が最高に幸せだった。いつぶりだろうこんなに笑ったのは。

「素敵な指輪だね」彼女の手をそっと触る。

「お母さんがくれた宝物なの。いつも着けているの。傍にいてくれる気がして」

「・・・ああ、わかるよ」

彼女は続けてこう話した。

「私がこの惑星の人間じゃないって言ったら、どうする?」真剣な目でこちらを見る。

「そんなこと関係ないよ」直ぐに俺は答えた。

お互いふと見つめ合ったが。目線を外し、ぎこちなく、二人ともお酒を飲み干す。

「また明日、この時間に君に会えるかい?」

「ネットベース間では連絡はとらないわよ?」彼女は笑う。

「そのつもりだ」俺はそう答え、立ち上がる彼女にコートを着せる。

「じゃあねキリル」

「ああ、またシドニー」



次の日、俺は会社を辞めた。

それからは、会社に取らせた自分のデータを回収し、セロトニンカプセルが如何に依存性の高く、危険なものであるか訴え、スピーチをしていた。彼女はそれを隣でみている。

この運動には徐々に賛同者が集まるようになっていた。

最初から皆、声をあげたかったが言えなかったんだ。ただ怖かっただけなんだと思った。

危険なのは承知していた。でも、ただ真っ直ぐ生きたかった。自分の感情に素直になりたかった。

父からの身を案じるメッセージは無視していた。


夜、いつものようにスピーチのための原稿を書いていた。

その時、また手に持ったグラスを落としてしまった。

・・・今思えばこの症状に早く気付いていれば良かった・・・

「ソルミア様、失礼致します」後ろから近づいてくる。今度捨てよう。

「あとにしてくれ、いまは取り込み中なんだ」俺は原稿に没頭していた。


・・・プッッス・・・何かが首刺さった。

急に全身が染みる感覚になり、意識を失いかけた。

力を振り絞り、後ろを振り返る。

「すべてお前が悪い」ガラクタから発せられた声は父のものだった。

ずっと監視されていたことにも気付かず、俺は倒れ込んだ。



頭がグラグラする。身体は思いっきり振られ、ひどい夢から目を覚ます。

目に映ったのは、ゴミの山に埋もれていた自分の手足。壁にはSmileFuture社のロゴが書かれていた。

俺はゴミ処理ロケットに乗せられていた。あの迷子の女の子も一緒に。

(続)










第五話魔法の言葉


打たれた薬のせいか、痺れで、まだ立ち上げることもできない。懸命に女の子に話かける。

しかし声がだせない。俺が世間から抹消されるのは、理解できる。今や、企業や政府の邪魔者だ。

でもなぜ女の子まで。

親に保護されたのではなかったのか?

整理しようとするが考えがまとまらない。

街で女の子と会った時のことを思い出していた。

彼女の口元が頭の中でフラッシュバックする。別の言語で「助けて」と。

他の惑星語を勉強してきたのにも関わらず、とっさにあの時理解できなかったことに酷く罪悪感を覚えた。

しかし、彼女に直接何が起きたのか聞くまで、わからない。彼女はぐったりしている。


他に人はいないようだ。


・・・ガンっ!!!

また積み荷が放り込まれた。背筋が凍った。シドニーだった。

(シドニー!!!!)

身体を引きずりながら彼女に近づく。

シドニーも同じく衰弱している。だが生きている、大丈夫。



状況から察するにロケットはまだ打ち上げられてないらしい。


ただこのままだと、宇宙のごみとして燃え尽きてしまう。

(頼む、おれ。動いてくれ!)

俺は全身が痺れながらも

唇を血がでるほど噛み、無理矢理、身体を動かす。

なんとか操縦席にたどり着く。誰かに知らせないと。

もうロケットは離陸する直前だった。しかし、俺の直感がこう言う。


(ここでこのまま出て行っても、どうせ殺される。みんな)


俺はロケットの中で、他の手段を考える。

とにかくこのロケットが燃え尽きる前に、どの惑星でもいい、不時着したかった。

二人だけでも助けたい。おれの責任だ。おれが巻き込んだ。

ネットベースに繋なぎ、船内マニュアルをダウンロードすることも、理解できない。

必死に、必死に読み直す。焦燥感と死の恐怖で頭がまわらない。諦めかけていた。

(クッソ)


「・・・大丈夫よ」弱い声であったが、すごく温かく安心する彼女の声が聞こえた。

「シドニー!!良かった。ケガはないかい!?待っていて今助けるから」俺は微笑む。

彼女が自分の指輪を外して、

「キリル、あなたにつけていて欲しいの」

「ほんとうは、私はあなたに惹かれていたの。でも会話が苦手でね。素っ気ない態度でごめんなさい」

俺は彼女の髪を撫で、

「あとで、ゆっくり話したい」そっと彼女の指輪をつけなおす。

彼女は静かにうなずく。


(絶対に助ける)


俺は冷静になることができた。

このゴミ処理ロケットは、目的地に着くと消滅するよう設計されている。

軌道さえ変えられれば、作動しない。また見た目は一般輸送船と変わらない。

企業のロケットを撃墜する惑星はない。

(大丈夫)

レバーを握り、ロケットの発射を待つ。

激しい揺れとともに、打ち上げられていく。

軌道に乗り始めた時、俺はレバーを強く傾けた。


船内に警告アラートが鳴り響く。

(大丈夫)

俺は確信していた。

急な方向転換により重力で気を失いそうになる。

目は閉じない。レバーから手を離さなかった。


ロケットは小さな惑星へと方角を変えた。


二人の元に戻り、ぐったりと座る。

なぜだろう。

心は解放され、安心感があるこの感覚は。

こんなにも滅茶苦茶な状況なのに。

俺は安堵した表情で心の中で

この後どうなるか、なんてわからない。でも

・・・そう。


・・・そう思いたかった。

その惑星でセロトニンカプセルの真実を知るまでは。


(続)



























第6話 素直な気持ち

もうすぐ惑星エフェリアに着く。

未知の世界だ。

着陸時の衝突に備えて彼女たちにゴミでありあわせの

シートベルトで巻き付ける。

「汚いが我慢してくれ」


自分も衝突に備える。


落下地点を想定するに小さな集落の近くに落ちる。

周りは砂漠のようだ。


ものすごい衝撃とともに、地面へと叩きつけられる。

俺は勢いで、船内の壁に打ち付けられる。


船内が止まりだした。

着地できたのか?

とにかく二人を連れ出さないと。抱えて出るが、胸のあたりに激痛が走る。今は無視し、夜の砂漠の岩に横たわらせる。


集落のエフェリア人が異変に気付き、こちらに向かってくる。

寒くて、手がかじかみながらも鉄パイプを持ち警戒する。


少しずつ彼らは近づいてくる。


警戒心はあった。しかし俺は鉄パイプを捨て

「助けてください!」俺は叫んだ。

「少女と女性が弱っています。助けてください」

懇願する。


現地の人たちが何かを話かけるが、すべては聞き取れなかった。極度の疲労で。

一言だけ理解できた。「彼女たちを安全なところに移動する。このままでは低体温症になり危ない」

「お願いします」藁にもすがる思いだった。



「君は大丈夫かい?」エフェリア人が心配する。



「後からいきます」そう告げた。彼らには殺意が感じられず、二人ならきっと大丈夫だろう。

俺はもう関わらない方がいい。彼女たちを危険に合わすだけだ。

胸を痛み押さえ、空を見上げる。

俺の役目は終えた。心残りは・・・ない。言い聞かせる。


そこに一人の女性が走ってくる。

「ふたりをどうか助けてあげてください。上げられるものはございませんが、どうか、どうか」それしか俺は言えることがない。

なぜか彼女は涙ぐんで続ける

「私の愛しき娘を返してありがとうございます」

「え!?酷い傷。すぐに手当しないと」

彼女があの少女も親なのか?


俺は彼女の手をはらう。「いいんです。私の役目は果たしました。ふたりをお願い致します」

「まだ終わっていません。あなたはここで死なせたりしません」

俺も集落へと担ぎこまれた。

集落ではふたりは看病されている。おれは、合わせる顔がなく外の空気吸いにいく。

診断によれば、俺はただ肋骨が折れているだけだそうだ。

俺は荷物をまとめていた。(どこか離れよう)


「行くの?」シドニーの悲しい声が聞こえる。

「君を巻き込みたくはない。俺の近くは危険だ。企業にもここに降りたことはバレている。俺が注意を引く」俺は彼女の目をみれない。


「お話してくれるんじゃないの?あれはうそ?」ぼっそと言う。

俺は振り向き、「噓じゃない」


(自分の気持ちには嘘がつけないものだな。。)


「星を眺めないかい?綺麗だよ」シドニーは嬉しそうについてくる。

バルコニーで星空を見ていると

彼女は言う「助けてくれてありがとう。女の子も回復しつつあるわ」

「良かった」俺は彼女にどう接したらいいか分からない。


「キリル、私が船内で言ったこと覚えている?」

「もちろん」

「あのね。とっさに出た言葉だから。キリル、私はあなたを縛るつもりはないからから・・」

困惑した顔で言う。

「あなたはあんな状況だからこそ、返してくれた言葉だって分かってる」


・・俺は彼女を抱きしめて、唇を合わせる。

彼女の唇は温かく優しかった。

お互い激しく求めあう。


「ずっとこうしたかったんだ」彼女の頬を撫でる。

「私もよ、キリル」



横になり、「これからどうする」俺は呟く。

「あなたと一緒なら」彼女は笑顔でこちらをみる。

空気が澄んでおり、まぶしいくらい星がみえる。


「寒いし、もどろっか」

「そうね」


室内に戻ると、少女が回復していた。

「あの時は助けられなくてごめん。」

「何が起きたか、教えてくれるかい?」


少女は、また酷く困惑しており会話できそうにない。


私から話そう。集落の長?の方が重い口を開ける

「我々は、セロトニンカプセルの犠牲者だ。何人ものエフェリア人が実験台として使われていた」

俺は唖然とした。

「少し話長くなるがいいかな」彼は続ける。

「もちろん、全部教えてください」迷わず答える。


俺は彼の話を聞き終えることには、怒りの感情が爆発していた。

(続)

































第7話 幸せのホルモン


キリル「一体ここで何が起きたのですか」

「部屋を変えよう」そう彼は呟き、俺はついていく。

窓を眺め彼は言う。

「ここに来る時、君もここの風景をみたね」

「はい」

「惑星エフェリアは、ここのような辺境の集落がいくつもある。惑星の日照時間も少なく、その上、土壌も豊かなものではない。私たちは主にジャガイモで食いつなぐ日々を過ごしている。」

「ただある時、巨大船が降りてきた」

「それが全ての始まりだった」彼は後悔と悲しみの感情が溢れる中、続けた。

「巨大船から出てきた彼らは食べ物を配給してくれた。フルーツが多かった。特にバナナを与えてくれた。この惑星にとって糖分の豊富なものは高級食材だ。」

「それから、定期的に配給が来るようになり、ビタミン剤も分け与えてくれた」

私たちは皆、企業の慈善活動に好意的に思い、感謝していた。


「ある時、その企業は私たちの健康状態を確認したいと言ってきた」

誰も疑うことはなかった。そして企業は1か月後にもう一度確認すると発言し、配給を続けた。


健康診断の日、私たちは子供を優先させ受けさせる。

「だが彼らは、悪魔の化身だった」怯えた声で話す。

「船からは、悲鳴が聞こえた。あるものは投げ捨てられ、あるものは連れ去られ帰ってこなかった」

涙で言葉が詰まっているようだ。


「女の子のお腹を見てきなさい。君には理解できるはずだ」

彼は外の空気を吸いにどこへいってしまう。


俺はまだ怯えている少女の手を握り、「大丈夫だよ」と少し服をめくる。

少女のお腹を見た瞬間、今まで抱いたことのない怒りがこみ上げてくる。

目に映るのは、バイパスの管で傷だらけになった少女の腹部。


俺にはどういうことかすべて分かった。

企業は糖分とビタミンを与え、人々にセロトニンを生成させ、その後抜き取っていたのだ。

80%のセロトニンは始め、小腸にある。脳に到達する前に管を通し抽出したのだろう。


少女の顔を改めてみる。目は遠くを見ている。疲労や怯えているだけだと思っていた。

・・・違った。

彼女は人として生きるために必要なセロトニンまで全て抜き取られ、自分の身体で生成することもできない状態のまま、干からびていた。


「本当に申し訳ない。助けられなかった。ごめんなさい。ごめんなさい・・・」

少女の元で俺は泣きじゃくる。

俺の肩をシドニーがさする。

母親は「この子が戻って来てくれた。あなたのおかげでね」泣きながら話す。


なにが「幸せのホルモン」だ。人を家畜のように無残に扱って。

俺が会社で働いていた時、こんな非道的なことが裏で起きているなんて、つゆ知らなかった。

目の前の仕事だけをするだけで、俯瞰的に物事を確認できていれば防げたことだ。


俺のせいだ。

知らなかった、見ていなかったなんて言い訳は同罪だ。いやそれ以上だ。


俺は全ての話をしてくれた彼の元に向かう。

「少女を見てきました。お話ししたいことがあります。私がその企業の社長でした」

彼は振り返る。その手には包丁を持っていた。

「わかっていたよ。私は災害とも言えるこの企業のトップを殺したい一心、復讐を糧に生きていた。そして君が降りてきた」

「言いたいことはわかるね?」彼は言う。

「謝るのもおこがましい程です。私の全責任です。大変申し訳ございません。」

自分の不甲斐なさと無力さと共に、彼の前に静かにひざまずく。


彼は俺に向かって包丁を振りかざす。

(続)





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