僕だけが知っている(幼馴染男女。付き合ってない)
「……」
ピチチチ、ぱたたたた、ぱたた
電線の上で、複数の鳥……スズメよりも大きくて、鳩よりもスリムな何か……が、留まっている。
しっぽをパタパタと揺すって。囀りながら。
「……」
それをじぃっと見上げる一人の女子高生。
ただ黙って、じぃっと。
眉を寄せて、不機嫌そうな、あるいは真剣そのものの眼差しで。
朝。この道は、バス停に通じる道から一本外れていること、宅地造成されてはいるものの、家がまったく建つ気配の無いあたりという、この二つの理由から、ほとんど人通りが無い。
そんなところで、突っ立って小鳥を見ている女というのは、何かちょっと得体の知れなさを感じるものだ。
もっとも、そいつは俺の幼稚園時代からの知り合いなのだけれど。
だから俺は、怖くないし、不気味にも思わない。
「何やってんだ、お前」
俺が声をかけると、するすると視線がこちらへ戻って来た。
「おはよう、忠一」
鳥を見てた、と言って、また彼女は視線を鳥に移す。
「ねえ、めっちゃパタパタ聞こえない?」
鳥を指差して、彼女が言う。
「聞こえるな」
「特に、羽根を広げてそうな感じでもないのにね」
「しっぽだろ。あと、ほんのちょっと羽根も動かしてる」
俺も、同じように視線を上げて言った。
視線の先で数羽の鳥が、パタパタとしっぽを上下に振り、羽根をもぞもぞと動かしている。
「何してるんだろ」
「水を切ってるんじゃないか」
「水?」
「ほら」
俺は、新しい小鳥がやって来た方向へ指と視線を動かした。
その最中にも、そちらから二、三羽小鳥はやって来る。
「あれ、水浴びしてんじゃないか」
フェンスに囲まれた空き地。まだまだ家が建つ様子の無いそこには、それなりに草が生い茂り、草のない所には昨日の雨が水たまりを作っていた。
水たまりの周りには、小鳥たちが集まっている。
「……なるほど」
彼女が小さく呟いてうなずいた。
寄った眉が、ふわりとほどけた。
「謎が解けた」
そして、こちらを見て、ふふっと微かに笑う。
──誰が、この顔を知っているだろう。
学校でもさっきみたいな仏頂面で、景色を見たり本を読んだりして過ごしているから、『何考えてるかわからないミステリアス少女』なんて言われているけれど、実際はこうだ。
不思議に思ったことについつい視線を奪われ、わかったら喜んで。
単に、それだけ。子どもみたいなやつ。子どもと違って、それを誰かに言いふらしたりなんかしないから誰も知らない。
俺以外は、誰も。
「いい年して何やってんだか」
「だって気になるじゃない。というか、同い年にいい年って言う?」
彼女が、可笑しそうに笑った。あどけない笑顔。本当に、昔から変わらない。
俺以外の前でも、そうしていればいいのに。
とは、何故か思わない不思議。
「高二なんて、いい年だろ。……ほら、学校行くぞ」
「あ、待ってよ忠一」
彼女が、俺の横に並ぶ。控えめな笑顔で「鳥たち、可愛かったね」と言う。
俺は「そうだな」と言いながら。その笑顔をじっと見ていた。
END.