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少し長めです。

「キミちゃん今日機嫌いいね、なんかあったの?」


 テンションが高いのがダダ漏れなのか、カナ先輩がニヤニヤとこちらを見てくる。


「ちょっと…ふふっ」

「あやしい〜〜!! なになに気になる教えて〜!」

「えへへ、実は…」


「鞘村〜ちょっと来て!」


 こう言う時に限って呼ばれたりする現象は、結構あるあるではないだろうか。


「うわ…呼ばれちゃった…。ちょっと行ってくるからまた後で教えてね!」


 タイミング悪いな〜…と呟きながら先輩は呼ばれた方へと行った。




「私そんなに分かりやすいのかな…」


 思わず呟きが漏れる。自分的にはそんなに顔に出しているつもりはないけど、カナ先輩にはわかるほどには出ていたのかもしれない。


「集中集中っ」


 定時まで後4時間。この数時間がもどかしい。

 でも今は仕事中。気を引き締めるために軽く自分の頬を叩く。


 よーし、あと4時間頑張るぞーー!



「依、今日定時だっけ?」


 突然背後から掛けられた声に思わずビクッと肩が揺れる。

 恐る恐る振り返った先には思った通り、課長が立っていた。


「あ、課長。はい、そうですが…」


 …正直悪い予感しかしない。


「あ〜ごめんなんだけどさ、ちょっとこの仕事やってくんない?」

「…私がですか?」

「依に話しかけてるんだから依しかいないだろ」


 少し馬鹿にしたように鼻で笑われる。


「そう、ですよね…」

「できるよな?」


 その圧力すら感じる言葉にお腹がキリキリと痛む。


「えっと、それって私以外にできる人いないんですかね…?」


 いつもなら二つ返事で了解している私が珍しくOKをしないからか、課長は少し眉を寄せる。

 でも、流石に私も今日は譲りたくない。…できれば。


「みんな忙しそうなの見てわかるでしょ、俺も今日は無理」


 機嫌の悪そうな声に自然と動悸が早くなる。心なしか冷や汗もかいている気がする。


「でも、あの、私、今日はちょっと用事があると言いますか…課長にも定時で帰れるように以前からお話しさせていただいていたと思うんですけど…」

「うん、そうだけど話が変わったの。というか、社会人なんだから基本は仕事優先だからな? …はあ、こんなこと言いたくないけどさ、臨機応変に対応していかないとこの先仕事できないよ?」


 言い返したいけど、うまく言葉が出てこない。


「まあそんなに難しい案件じゃないし、すぐ終わるから」

「あ、はい…分かりました…やっておきます」

「おう、よろしく」


 結局いつものように引き受けてしまった…。

 難しくないって言ったって、それは課長だからで、私は下っ端だから課長の”簡単”な仕事も私には難しい。


「はあ…、今日も、残業か…」


 簡単に資料を読む。確かに、いつも課長が振ってくる仕事よりは難しくなさそうだが、それでも私には十分に難解案件だ。

 はっきりと無理と言えば済む話なんだけど、それができれば苦労はしない。


「ただいま〜って、え、どうしたの何かあった?」

「カナ先輩…」


 私が事の顛末(てんまつ)を話すとカナ先輩はものすごく怒ってくれた。それだけで少し気分が晴れた気がした。



 それから私は少しでも早く帰れるように仕事に打ち込んだ。

 けど課長に振られた仕事以外にも自分の元々の仕事もあるわけで、たった4時間で進められる量は高が知れていたりする。



 こう行った時ほど、あれだけ来なくてもどかしかった定時はびっくりするほど早くくるもので、



「じゃあ、お先に」

「あ、はいお疲れ様で」


 背後から聞こえてきた声に反射的に挨拶して振り返ると、そこにいたのはなんと課長だった。


「…え、あれ課長…?もう、帰宅ですか…?」


 思わず聞いてしまう。


「おう、明日娘の誕生日でさ。俺明日は会議で帰れないから今日は早く帰ってこいって言われちゃってな〜。これから娘の誕生日会なんだよ」



 そう嬉しそうに話す課長の言葉に、相槌を打てない。


 そんなこと言ったら、私だって今日誕生日なのに…。とか。なんで課長は定時で私は残業なの? とか。


 考えたくないことがどんどん心を埋め尽くす。



「そうなんですか…おめでとうございます」


 何とか気持ちを飲み込んで愛想笑いを浮かべる。

 課長は機嫌が良さそうに定時退社して行った。



 私はパソコンに向きなおりキーボードに手を置くけど、そこから暫く動けなかった。



 家族を大事にするのは確かに大事なことだ。お子さんもまだ幼いなら尚更。だから仕方ない。

 私と仕事量も違うし、仕事の速度だって違うし、課長が仕事が早くて私が仕事が遅いだけ。仕方ない、仕方ない。これは、仕事だから…。

 それに課長はいつも仕事頑張っているし、残業だって…。たまには定時だって大事…




 …でも、じゃあ、わたしは…?




「___。」






 気づけば勝手に手はキーボードを打っていた。体はしっかりと覚えているみたいだ。

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