終幕
場所は変わって応接室。
テーブルを挟んで私と課長は向かい合う。
「…それで、話って何?」
トゲトゲしい声に、体が震えそうになる。
張りつめた息を吐き出して、私は鞄の中から一通の封筒を取り出して課長の前にそっと置いた。
そこには「辞表」の2文字。
応接室に沈黙が響く。
課長は中身を見ることなく、目の前に差し出された封筒をじっと眺めていた。
「理由は?」
突拍子も無い質問に、一瞬息を呑み込む。
「えっと…」
「理由は? 依の口から言えよ」
封筒の中身に書いてありますと言おうとしたら、それに被せるように課長が言う。
私はその言葉に考え込む。
ー辞める理由はたくさんある。
だけど…、そうだな。一つ、理由を挙げるとするなら、
「…死にたく、ないからです」
きっと今、私の顔は晴れやかだろう。
「…はあ?」
課長は心底意味がわからないと言うように声をあげた。
あれから無事に私の辞表は受理された。
私は満期が来るまでの1ヶ月、休むことなく仕事に励んだ。
あの応接室での会話以降、課長は私を気味悪がって近づこうとしなかった。
でもそのおかげで、無理難題な仕事を押し付けられずに済んでいるので願ったり叶ったりだ。
課長に仕事を振られないおかげなのか、前のような無茶な残業はなく仕事を終われている。
私のアパートはお母さんが引き払ってしまったので、今はカナ先輩の知り合いのお家に1ヶ月だけ間借りさせてもらっている状態。
仕事の満期を満たしたら、私は実家に帰るつもりだ。
あっちでのんびり仕事でも探そうかと思っている。
まだ鬱が完全に治ったわけではないし、全ての悩みが解消されたわけでもない。
不安に押しつぶされそうな夜もある。
自分の気持ちがわからなくなる時もあるし、上手くいかなくて泣きそうな時もある。
特に何かやりたいこともないし、自分に何ができるのかもわからない。
自分のことなのにわからないことばかりだ。
それでも、私は生きていたいから。
これからは自分を抱きしめて歩いて行こうと思う。
他の誰でもない、私自身を大切に。
きっと長いであろうこの先の道のりを。
全部全部抱えて、共に歩いていこう。
だってこの人生は、私のためにあるのだから。
ここまでお付き合いくださり、ありがとございました。
自分と向き合うことは、人生において永遠の課題だと思っています。
自分を好きになることに苦い気持ちになる人もいるのではないでしょうか。
生まれてから死ぬまで、"自分"と一生付き合っていかなければなりません。それは時に耐え難く、あなたにたくさんの試練を与えるでしょう。
でもそれを乗り越えた先に待っているのは、きっと今まで以上に豊かな人生だと思います。
この作品が少しでも、あなたの心に寄り添えるものになっていたらと願うばかりです。
どうか、あなたの人生が、あなたにとっての幸せに溢れますように。




