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「私、死にたかったんだ…っ」



 そう言葉にした瞬間、まるでダムが決壊したように心の底から自分の気持ちが溢れ出てきた。




 死にたい。辛い。悲しい。怖い。痛い。仕事やめたい。わかって欲しい。愛されたい。寂しい。褒めてもらいたい。認められたい。




 今まで無意識に抑えてきたいろんな感情が、激流のように私の心の中に流れ込んできた。



「ぅ、ふ…ぅぅっ、あ、あぁぁっ」



 私はそのまま、激流に身を任せるように泣き続けた。






 何時間、泣き続けたんだろう。

 体中の水分が全部抜けたんじゃないかってくらい泣いた。

 そのせいで瞼が重い。


 私は徐に立ち上がると、久しぶりに自室を出て台所に向かった。

 町内会に出かけているのか、お父さんもお母さんもリビングにはいない。


 好都合だった。



 私は台所にある包丁を一丁、抜き取る。

 落とさないようにしっかり柄を握って自室に戻ると、ベッドに座って包丁を目の高さまで掲げた。

 鈍く光る刃が私の顔をぼんやりと映す。




 ーあとは、これで、首をプツッと切る、だけ。




 ゴクリと条件反射で唾を飲み込む。


 でも包丁を持った手が動くことはなかった。

 小刻みに震えるだけでその刃が自分に向くことはない。



「っ、はあ」


 いつの間にか止めていた息を吐き出す。

 とりあえず一回諦めて包丁を横に置く。


「何してるんだろ、私…」


 自嘲気味の笑いが溢れた。




 …顔でも、洗おうかな…。




 先程の涙が乾いて、頬に伝った涙の跡が固まっていた。


 鏡を見るのはちょっと気が重いけれど、仕方ない。


 私は重い腰を持ち上げて洗面台に向かった。



 なるべく鏡は見ないように洗面台の蛇口を捻る。

 顔を水で濯いだあと、タオルで軽く拭き取る。


 でも、日頃のせいで鏡を見る癖ができてしまった私は、無意識に鏡に目がいってしまった。





「………え?」





 鏡に映っていたのは、



 瞼が腫れて、顔中に引っ掻き傷がついて、痩せ細った女の人の顔。




 ー自分の顔、だった。






「かみが…なく、なってる……?」




 あれだけ剥がそうとしても剥がれなかった、「死にたい」と書かれた紙は、どこにも見当たらなかった。




 何度目を擦っても、何度瞬きしても、鏡に映るのは驚愕に歪められた顔色の悪い自分の顔で。



「…あ、あは、…んふっ、あはは…」


 思わず、笑いが溢れた。



 ーなるほどなぁ、…これは、確かに異様な目で見られるわけだ…。



 鏡に映る私の顔は、あまりにも細くて、顔中の傷が痛々しくて、今にも死にそうなほど顔色が悪くて、

 とても、嬉しそうだった。



「ひっどい顔だなぁ」


 あははと溢れる笑いと一緒に涙も溢れる。


 そのまましばらく鏡に映る自分の顔を眺め続けた。



「…ん? あれ…?」


 眺めていると、左の頬の下らへんに小さな付箋のような紙がついているのに気づく。


 鏡に顔を寄せて見てみると、そこには小さな文字でこう書かれていた。




 ”死にたくない”




 と。



「…そっか」


 そっと、小さな紙を指で撫でる。

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