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実家に帰ってきてからは、以前よりもまともな生活を過ごしている。
朝になると問答無用でお母さんに起こされて、家族みんなで朝ごはんを食べた。
仕事に行くお父さんをお母さんと一緒に見送る。
それからお昼の時間までお母さんは家のことに追われている。
私はというと、お昼の間は何となく、庭にあるテラスから外の風景を眺めるだけの日々を過ごしている。
田んぼに植えられた稲の穂が、ちょうど金色に染まり始めていた。
そんなある日の午後。
「ごめんくださいな、吉野です」
玄関の方から聞こえてきた女性の声に、一瞬身が竦む。
バタバタバタと実家の2階からお母さんが駆け降りる音が聞こえると、私は見つからないようにリビングに逃げた。
リビングに逃げ込んだ私は、そのままソファに座ってしばらくぼーっとしていた。
玄関の方からお母さんと女性が話し込む声が何となく聞こえてくる。
何だか盗み聞きしてるみたいで少しの罪悪感を覚えた私は、自分の部屋に上がろうとした。
その時だった。
「あらキミちゃん?」
玄関にいると思っていた女性が、なぜかリビングの前に立っていた。
私はびっくりして女性の顔から目が離せない。
その女性は昔から私の家の隣に住んでいるお隣さんの吉野さんだった。
私がびっくりして動けないでいるのと同じように、吉野さんも私の顔を見て驚いているようだった。
その視線は私の顔をジロジロと眺めるように動く。
吉野さんの目の奥には、好奇の色が宿っていた。
それに気づいた瞬間、金縛りが解けたように顔を背ける。
「ぉ、久しぶりです…」
私は軽く会釈をして、逃げるように自分の部屋に駆け込んだ。
心臓がどくどくと嫌な音を立てる。
背中には冷や汗が伝っていた。
ー物珍しい動物を見るような、視線だった。
思い出しただけで心が軋む。
あんな目を向けられたのは初めてだ。
まるで自分が普通じゃないと言われているようだった。
日が暮れた頃、お母さんが私の部屋をノックする。
「ご飯よ」
食卓を囲む台所は今日も会話はない。食器同士がぶつかる音とリビングから流れてくるTVの音だけ。
「…」
いつも食欲はないけど、今日はいつにも増して食欲が湧かなかった。
頭の中を昼間の視線がぐるぐると回る。
人の目が、こんなにも怖いと思ったのは初めてだった。
「手、止まってるわよ。早く食べなさい」
咎められて箸を動かす。
お腹が満たされる感覚はなかった。




