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 家に着いて、私はもらった薬を投げ捨てる。

 お母さんは変わらず黙っていた。


 お母さんがいることで部屋には明かりがついている。

 それが嫌で、私は膝を抱えて丸まった。


 しばらくそうしていると、美味しそうな匂いが部屋に漂う。


「…おかゆ、食べるでしょ」


 机の上には白い蒸気をあげるお粥。

 せっかく作ってくれたんだから食べないわけにもいかず、私はお粥に手を伸ばした。



 私が食べるのをただ黙って見つめるお母さん。

 何を考えているのかさっぱりわからなかった。


 私は私で、昼間の診断結果のことが脳内でぐるぐる回っていた。



 ーまた、鬱だと診断されてしまった。

 お薬も増えた。

 やっぱりこの紙が剥がれていないせいだ。

 どうすればこの紙は剥がれる?

 引っ掻いても引っ掻いても顔に傷が増えるだけ。




 …このまま、この紙が剥がれなかったらどうしよう…?




 そんな不安が胸の内を支配して途方もなく怖くなる。

 体は勝手に震え出して、視界がぼやき始める。



「希実子」



 突然頭の中に入ってきた声に引っ張られて、私は意識をお母さんに向けた。


「手、止まってるわよ。早く食べなさい」


 お母さんは淡々とそれだけを告げてまた黙る。


 私はとりあえず、目の前のお粥になるべく意識が集中するように食べた。



 お粥を食べ終わっても薬は飲まなかった。

 代わりに栄養剤を飲む。

 処方された薬を飲まないことについて、お母さんに怒られると思っていたけれどお母さんは何も言ってはこなかった。


「…薬、飲まないこと…怒らないの…?」


 いつの間にか気づいたらお母さんに尋ねていた。


 お母さんは私の目を見る。

 その視線に耐えきれず私は目を逸らす。

 お母さんは数秒間黙ったのち、口を開いた。


「…お母さん、別に薬を飲んで欲しいとは思わない。希実子の…、好きにしなさい」


 それだけを言うと、お母さんは食器を片付け始めた。


 その言葉に安渡する。


「ありがとう…」

「…」


 お母さんは、やはり何も言わなかった。




 それから数日間、お母さんは私の家に滞在した。

 私の部屋はみるみるうちにお母さんの手によって片付けられて、久しぶりに綺麗な部屋を見た気がした。

 でも今はそれが落ち着かない。

 そんなことは口が裂けても言えなかったので、ただ黙ってお母さんの好きなようにさせた。


 私の顔には変わらずあの紙がついている。

 鏡に映る紙を見るたび、腹が立って、不安になって、悲しくなって、その度に泣いていた。

 お母さんには一度、「ずっとメソメソしないで」と怒られてしまったけれど、勝手に涙が出てくるのだ。自分では止められなかった。

 それに気づいたのか、一度怒っただけであとは何も言って来なかった。


 でも、私が顔を引っ掻く時だけは、その度にものすごく怒った。


 けどこの行為も最早無意識のうちにやっていることがあるので、私には止められなかった。

 止めようとも思わなかったし、私の気持ちもわかろうとしないで怒ってくるお母さんに苛立ちさえ覚えていた。

 そんな苛立ちを覚える自分自身にも、嫌気がさしていた。

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