21
点滴が終わるとお母さんは私を連れて私の家に帰宅した。
「お母さん何日か、泊まるからね」
それだけ言うとお母さんは冷蔵庫を漁り出す。
有無を言わせない気配を感じて私は口を結んだ。
「あんたの冷蔵庫、何にもないわね。明日材料買わないと…」
私はただ黙ってお母さんの背中を見つめる。
「そんなとこに突っ立てないで早くお風呂に入りなさいよ。…ちょっと匂うから、どうせお風呂入ってなかったんでしょ?」
何日かぶりのお風呂に入る。
数日に一度、シャワーを浴びるだけで済ませていたけど最近はお風呂に入ること自体頭になかった。
湯船に浸かっても、心が休まる訳じゃなかった。
自分が今何を考えているかもイマイチわからない。
自分自身なのに、今は自分のことが一番わからなかった。
「上がったの。ちょっとなんで髪乾かしてないの? もう、こっちきなさい」
体を拭くまでは良かったけど、髪を乾かす力は起きなかった。
私はされるがまま、お母さんに髪を乾かしてもらう。…何年ぶりだろうか。
「何年ぶりかしらね、あなたの髪乾かすの。小学生以来かしら?」
お母さんも私と同じことを思っていたみたいだった。
その後は沈黙が続く。
しばらくして、お母さんは徐に口を開いた。
「…希実子、鬱だったのね。机の診断書、見ちゃった」
肩がビクッと跳ねる。
「…私、うつなんかじゃ…ない…」
お母さんはしばらく何も言わなかった。
「…明日、精神科連れていくからね」
「…」
本当は行きたくなかったけれど、私は黙って無言を貫くことしかできなかった。
翌日、私は久しぶりのまともな食事を口にした。
久しぶりに食べるお母さんのご飯は、やはり味は感じなかった。
私とお母さんは挨拶だけを交わした後は、お互いずっと黙ったままだった。
私は簡単に身支度を済ませるとお母さんの待つ車に乗り込む。
到着した先はあの日と同じ心療内科クリニックだった。
前回と同じように問診を受け、簡単なアンケートに答える。
正直に言うと、2度とやりたくなかった。
でもそんな我儘が言える歳ではないから自分の気持ちを押し殺して全部に答える。
その結果は、
「やはり鬱ですね。それも、以前より悪化してますね」
やっぱり鬱だった。
そもそもここは心療内科だから、ここに来る時点でみんな鬱だと判断してるんじゃないか、と相手に不信感を抱く。
「処方したお薬はちゃんと飲んでますか? あれを飲まないと悪化してしまったり、長引いたりする可能性があるので、必ず飲んでください。またお薬の量増やしておきますね」
先生の声にさえイライラしてくる。
でも、私が何を言ったところで「鬱だから」と片付けられてしまうのだろう。
だから私は黙ってお薬だけを受けとった。
お母さんは診察室に入ってから最後まで、何も言葉を発さなかった。




