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 あの診察から何日経ったのかわからない。

 日光が眩しくて煩わしいから常にカーテンは閉めていて、今が朝なのか夜なのかさえもわからない。

 薬は未だに飲んでいない。

 この薬を飲んでしまったら、自分がそうであると認めてしまう様な気がした。



 ーそれに、この紙さえ剥がれれば、きっと何かが変わるはずなんだ。



「なんで…なんで、剥がれないの…? なんで…っ」


 あれからずっと何度も何度も剥がそうと試みているけれど、やはり剥がれてはくれなかった。

 どれだけ血が出ても痛みは感じない。

 掻きすぎたせいか、爪はいつの間にか折れていた。


「っ___。___、___!」


 いつの間にか無意識に、うわごとの様に言葉を口にする。

 前々からこう言うことはあったけれど、最近は特にひどい。


 自分自身が言った言葉なのに、なぜか私の耳にはその声が聞こえなかった。


 これもきっと、紙のせいだ。






 そんな、ある日。



「ちょっとやだ、鍵開きっぱなしじゃない。不用心ね〜」


 聞き慣れた懐かしい女性の声が玄関から聞こえてきて、思わず引っ掻く手を止める。


「お邪魔するわよ〜」

「お、かあさん…?」


 私が顔を上げると同時に開かれたリビングの扉。

 その扉を開いた女性ー私の母は入ってきた瞬間顔を(しか)める。


「なあに、この部屋暗いわね〜! あ、ちょっと希実子、玄関の鍵開きっぱなしだったんだけど…っ」


 私を視界に収めた瞬間、お母さんの顔はさらに歪む。


「き、希実子?! どうしたのっその傷!!」


 お母さんは荷物を放り捨て、私の両頬を掴む。


「お母さん…なんで、」


 私は状況が飲み込めずにいた。

 だって、お母さんは私の家から遠く離れた実家にいるはずなのに…。


「あんたが連絡よこさないから様子を見にきたのよ! そんなことより、病院行くわよ! 早く立って!」


 お母さんが強引に私の腕を掴んで引っ張る。その力に抗えずに私が起き上がったら、お母さんはさらに目を大きく見開いた。


「あんた…そんな、痩せて…」


 その顔は驚愕(きょうがく)に染まっていた。

 しばらく呆然と私を見つめていたお母さんは、きゅっと唇を引き結んで私の手を強く握る。


 そのまま無言で外に連れ出される。私は訳もわからずについていくことしかできなかった。




 お母さんに連れてこられたのは総合病院だった。

 私の様子をちらりと見た看護師さんは、すぐに奥の部屋へと案内してくれる。

 そこにはいくつかのベッドが並べられていた。


 私はその内の一つに寝転ぶ。

 看護師さんはベッドの周りに設置されたカーテンを閉め、手早く準備を終わらせると点滴の針を取り出した。


「はい、ちょっとチクッとしますよ」


 私の腕に小さな針が刺される。


「しばらくかかりますので、その間寝てて大丈夫ですよ」


 看護師さんは私に(さと)すように話しかけると、お母さんに会釈して部屋を出て行った。

 お母さんは私に話しかけることなく、椅子に座ったまま読書を始める。


 病院はとても静かで、何だかそれがホッとした。


「…寝てなさい」


 私が寝てないことに気づいたのか、お母さんは本から顔を上げることなく私に言う。

 正直、寝れる気はしなかった。

 でもお母さんに心配をかけたくなかったので、私はそっと目だけを閉じた。



 約2時間くらいかかっただろうか。

 シャーとカーテンの開く音に目を開ける。


「お疲れ様でした。針、抜きますね」


 プツッと、私の肌から針が抜かれる。


「一応、お母様には塗り薬も渡しておきますね」

「すみません、ありがとうございます」


 私はお母さんたちを尻目に針が刺さっていた場所をさする。

 前は嫌いだった注射が、今日は何も感じなかった。

 そんな自分に、不安になった。

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