19
それから数日間は一切動けず泣くことしかできなかった。
食欲もなくて、処方された薬も飲むきは起きなかった。だから栄養剤だけを飲む。
何もしたくなくて、やる気も起きなくて、どうすればいいかもわからない。
スマホにカナ先輩からのメッセージが届くけど、何だか煩わしくてスマホの電源を切った。
音がない方が、今は心地よかった。
あれからずっと考え続けている。
なんで、うつ病と診断されてしまったのか。なんで周りにはそう言う風に見えてしまったのか。
どうして誰も私の言ってることを信じてくれないのか。
朝も、昼も、夜もずっと考え続けた。
考えすぎて夜はろくに寝られなくて最近は不眠続きだけれど、どうでもいい。
原因が知りたい。こうなってしまった原因が。
「………あ」
ふとあることに思い当たる。
私は気だるい体を起こし、洗面台に向かった。
洗面台の前に立つ。鏡を見るのは1ヶ月ぶりかもしれない。
鏡に映るのは、相変わらず私の顔ではなくて「死にたい」の紙。
そんなことにもイライラした。
私はそっと顔を撫でる。
考えた結果、思い当たるとしたらもうこの紙しか思いつかなかった。
思えば、この紙が見える様になってから状況はどんどん悪くなっていくばかり。
「そうだよ…全部、この紙のせいだよ…」
私は自分の顔に爪を立てる。放置して伸びた爪が肌に食い込む。でも、痛みは感じない。
「こんな紙さえなかったら…!!!」
紙が、どうしようもなく忌々しく感じる。
剥がしたくて、剥がしたくて、剥がしたくて。
私は無我夢中に顔に爪を立てた。
でも、どれだけ引っ掻いても、どれだけ爪を立てても、鏡に映る紙に傷がつくことはない。
剥がれる様子も全くない。
それが無性に腹立たしい。
「なんっで…!!!??」
悔しい悔しい悔しい。
こんな紙さえなかったら、人目を気にする事もなかった。
今もきっと楽しく生活できてたはず。
「死にたい」なんて思った事ないのに、なんで私の顔についてるの?!
なんで剥がれないの!!!!
「もうっなんなの!!?!!?」
涙と一緒に真っ赤な液体が床に落ちる。
引っ掻きすぎたのか、私の爪の中は赤く染まっていた。
「う、っ…」
もう何度目かわからない涙を流す。
こんな自分が嫌だ。
仕事もできなくて、自分の意見も言えなくて、それなのに何かのせいにばかりして。
弱くて、惨めで。
逃げることしかできない自分が許せなかった。
こうして泣いているだけの自分も許せない。
自分が嫌いだ。大嫌いだ。
鬱だって認めてしまえば、自分の弱さを認めたことになる気がして、それだけはどうしてもできなかった。
だって、何度言ったって、私はうつなんかじゃない。
病気だって患っていない、家だってあるし、仕事もあればお金だってある。
こんな恵まれている私が、鬱でいいはずがない。
こんな幸せな私が、不幸だと自分を哀れんでいいはずがないんだから。




