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それからの仕事は、周りのことが気になり過ぎて仕事どころではなかった。
みんなが私のことを話している様に聞こえた。
みんなが私のことを見ている様な気がした。
誰かの笑い声が私に対して向けられている様な気がした。
さっきの課長みたいに、実は私も裏で何か悪口言われているんじゃないかって、そんな些細なことが気になって仕方なくて。
全ての雑音が、全て私に向けられている感覚。
みんなが敵のように見えて、疑心暗鬼が止まらない。
朝から感じる異様な不安に呑み込まれてしまいそうだった。
急な心の変化についていけなくて、理性は混乱する。
何だこれ、なんだこれなんだこれ
今までこんな不安を感じることもなかったし、周りの視線や声が気になることはなかった。
なのに今日はやけにそれが気になって仕方ない。
やっぱりいつもと私が違うから?メイクをしていないから?紙が気になるから?
考えても考えても答えは見つからない。
でも不安を解消したくて勝手に心は焦る。
私、ほんとにどうしたんだろう…
頭の中を何かがずっとぐるぐると回っている。そのせいで先程から仕事中だというのに一切仕事に手がつけられない。
落ち着け、落ち着け…大丈夫大丈夫、私は、私は強い子、強い子だから…っ
「なんだ依、今日は来てたのか」
「ひぅッ………あ、か、かちょう…」
突然話しかけられたせいで、心臓を鷲掴みされたような衝撃を受ける。咄嗟に漏れ出た悲鳴に蓋をするように口元を手で抑えたまま、恐る恐る振り返った先には課長が立っていた。
慌てて口元から手を離す。
課長が怪訝そうに眉を顰めると、なぜか動悸が早くなった。
「あっお、おはようございます、その節は…ご迷惑おかけして、すみませんでした」
「もう体調は大丈夫なんだな?」
間髪入れず聞かれた質問に、こちらも反射的に頷く。
「そうか」
興味のなさそうな声に、冷や汗が垂れる。
「じゃあこれ」
そういって私の机に大量の資料が置かれた。
思わず目を見張る
「えっと…これは」
「2週間後までにやっといてくれ。できるよな?」
有無を言わさない無言の圧力に、私は黙って頷くことしかできなかった。




