「明日」
――翌日も、ビブリオでは戦争の後片付けが進められていた。大量のオートマタの残骸に銃弾、薬莢、地響きで割れた食器類、崩れ落ちた螺旋階段……などなど、それらはとても一晩で片付けられるようなものではなかった。それでも、片付けにはテールのオートマタも動員され、数日で片付く見込みである。戦いの時には頼もしく、また、恐ろしくもあったオートマタが台車を引き、住人と協力して片付けをしている光景は……どこかユーモラスであった。
オーディン……巨人はペイ曰く、「テールの憂さ晴らし」によって起動したものの、今は元の場所で膝を抱えて座っている。現在テールのオートマタによって山への偽装工作が進められているので、こちらも数日で「巨人の山」に戻る予定だった。
※※※
――さらに数日後。
ビブリオの住人達は西門に集まっていた。シエル達の旅立ちを見送るためである。
ソレイユは一人一人と別れの言葉を交わし、抱き合っていた。……そう、シエルの旅にソレイユも同行することになったのだ。本人の強い希望によって。
※※※
「……本当にいいのか?」
「いいも何も、シエルが誘ってくれたんじゃない? 一緒に行こうって!」
「それはまだ……言ってないけどな」
「それなら、今言ってよ」
「いや……それはもう、いいんじゃないか? だって、来るんだろ?」
「じゃあ、行かない!」
「お前なぁ……」
「ねぇ、言ってよ。お願いだから」
「……俺と一緒に来るか?」
「うん!」
※※※
「……シエル、顔が赤いぞ。何かイカガワシイことでも考えていたのか?」
「いきなり何を言うんだよ、お前は!」
シエルは隣りに立つテールを睨み付ける。テールの視線の先には、ビブリオの住人達に囲まれている、ソレイユの姿があった。シエルは肩をすくめる。
「……それで、お前も本当に来るつもりか?」
「ああ。正直、本体と切り離された人型モジュールでは、出来る事にも限りはある。とてもメドサンの代わりは務められないが、辞書代わりにはなるだろう」
「随分とかさばる辞書もあったもんだな。それに、燃費もかさみそうだ」
「失敬な。私は極少量の電力で稼働しているのだぞ? 力仕事は向かないがね」
溜息をつくシエルを見上げ、テールが一言。
「……尤も、君はソレイユと二人旅の方が、都合が良かったかもしれないな」
「なんだその、都合ってのは?」
「大丈夫、私に気を遣う事はないぞ? 健康な男女が二人。やることは一つだ」
「やるか!」
「やらないのか?」
「……十八禁だろう?」
「そうだったな」
「なになに? 何の話?」
住人達との別れを告げたソレイユが、いつの間にか近くまで来ていた。
「な、何でもな! 気にするな!」
「明るい家モガ……」
「……もう、喋るな!」
シエルはテールの口を両手で塞いだ。ソレイユは小首を傾げる。シエルは逃げるようにその場を離れ、ペイの車椅子に駆け寄った。
「それでは、行ってきます」
「ああ、くれぐれも気をつけてな。我々はソレイユの故郷として、帰りを待つことにしよう。そして、シエル。君のことも」
「ありがとうございます。ガルディアンを直す方法を見つけて、必ず帰ってきます」
「頼むぞ、若者よ。できれば、私が天国に召される前にな」
「善処します」
シエルがそう答えると、ペイは声を出して笑った。シエルはペイに、そして住人達に頭を下げ、バイクに引き返す。ソレイユはサイドカーに乗り込み、テールはタンデムシートに後ろ向きで腰掛けた。こちら向きの方が、座りやすいらしい。
シエルはゴーグルを下げ、アクセルハンドルを握った。
――かくしてバイクは走り出す。まだ見ぬ明日へと向かって。




