4-5.『新機能』
「これは?」
「『鑑定眼』と言う名の魔道具です。前・御主人様が仰るには『仮面に付けて使う物』と」
「仮面……」
道具の名前と軽い説明を聞き、自らの顔に着けている『偽りの感情』を無意識に撫でる。
じいちゃんが『仮面』と呼んだのは、俺の記憶じゃコレだけだ。
って事は……俺に贈るのが確定してないか?
「恐らくその認識で間違いないかと」
「当遊興施設は御主人様の為に作られたものですから」
俺の考えを読んだヴィオレとヴィオラが賛同する。
ヴィオレットから『鑑定眼』と呼ばれた水晶体を受け取り、摘んで目に近付けると……指先から水晶体の感触が……消えた?えっ!?どどどどこに行った?!
辺りを見回しながら、手で仮面の目の部分に触れると……いつもならただ穴が空いてるだけの場所に、何か薄い膜の様な物が。まさか……『偽りの感情』に吸い込まれたの!?
「御主人様、此方を」
そう言ってヴィオラが差し出して来たのは、俺が倒した魔物の『落とし物』?
そう意識した瞬間、膜に……『鑑定眼』に文字が浮かび上がる。
『黒火蜥蜴の黒油』
・発火性が強く火を付ければ黒色の炎が吹き出す
・持続時間は短いが対象を一瞬で丸焦げにする威力がある
・料理には不向き
『雲状火薬』
・通常の火薬よりも軽く、取り扱いが難しい
・火を加えると大きな爆発を起こす
・威力は炭鉱に用いられる爆薬の凡そ二十倍
そこには道具の名前と効果がずらりと。
……すげぇ、何だ……これ。
『偽りの感情』に新たな機能が付き、道具や魔道具の名前や効果が判る様になったって事?これまでは家に持ち帰り、地下に運んで専用の道具を使わなければ行けなかったんだけど……これなら見ただけで判明するぞ。
何にでも使えるのか?
試しに傍らに突き立つ愛剣『月詠』に目を向ける。
『月詠』
作成者:ガドガ=フリソス
素材:『ルナタイト』『魔白銀』『【強欲】』
・【強欲】の効果により、剣の形状変化に耐え、幾らでも記憶出来る
・どんな形状も【ルナタイト】により変化が可能
・【魔白銀】の効果で刃に属性付与が可能
なるほど。武器、恐らく防具や装飾品にこうして視点・焦点を合わせれば出自や素材、効果まで一目瞭然って訳だちょっと待てえええぇぇぇえええ!!!
……は?【強欲】って……あの【強欲】?
この城を作った《魔王》の名前だよ?それって関係……ある?!
確か亜澄さんの武器の名前が……七つの大罪を司る【怠惰】だって。その七つの内の一つが……この【強欲】……に、なるの?
「如何されましたか?御主人様」
気が付いた時には『月詠』を引き抜き、掲げ、至近距離から見つめていた俺にヴィオレットが話し掛けて来た。
……いかん、あまりの情報に脳内で大混乱が起こったが、今考えても分からないものは分からない。
そういえば、亜澄さんが『月詠』を見て材質がどうのって言っていたが……多分、この事実を何らかの方法で知ったんだろうな。
この問題は一旦棚上げして、聞ける時に亜澄さんかガドガさんに聞いてみよう。
「いや、何でもない。じいちゃんが遺してくれた魔道具の性能が凄くてな」
「それでは此方もどうぞ」
ヴィオレが差し出して来たのは『黒火蜥蜴』と『ボム・クラウド』の『核』。
そういえば魔物の『核』も賞品みたいな事を言っていたな。
とは言っても、この『核』はそれそのままでは俺達の生活には役立たない。特殊な技術で加工して人々の生活を支える物に換えられるって聞いたけど、これを換金できるのはこの辺りでは王都の冒険者組合だけだからな……ガドガさんにでも渡せば少しは日々の恩返しになるだろうか?
「あぁ、ありがと……う?」
差し出された『核』を受け取り、何気なく見た『鑑定眼』に情報が映し出された……んだけど。
『魔石』
魔物の体内に流れる魔素がその成長と共に鉱石化した物体
通称『核』
見分け方:黒→白 色の濃い物が価値が高い
受け取った物はそれなりに深い黒色で、どれだけの価値があるかは分からない……気になった点は別の、『魔石』って呼び名と、魔物に流れる……魔素が鉱石化?
「……『核』の別名は知ってるか?」
「正式名称は『魔石』です」
「通称である『核』の方が馴染みは深いでしょう」
「『魔石』の運用は前・御主人様が最初に行いました」
「……初耳なんだが」
「冒険者組合内では偉業と伝えられています」
「仕事の斡旋だけが生業だったギルドが盛り上がったのは、前・御主人様の功績と言われてます」
「故に、前・御主人様はギルド内で『名誉組合長(イメマス)』と呼ばれてます」
「……マジで?」
「「「マジです」」」
初耳過ぎる情報で頭がクラクラして来たんだけど?
そんな重要で重大な人物がフラフラしてたって事?!大丈夫なのじいちゃん!?
……まぁ、それも置いといて。
「この『魔石』の運用目的は?」
「主に人々の生活を豊かにするものかと」
「食に関する事ではどんな?」
「調理器具、主な例として温めや保存に用いられます」
「……人が服用した例は?」
「一例もありません」
つまり、この『核』、もとい『魔石』は加工は出来る……が、人が口にするのには適さないと。そりゃどんなに腹が減っても道端の石を食う奴は居ない……でも、誰も試した事がない?本当に?
「じいちゃん……五百神灰慈も?」
「はい。前・御主人様曰く『石を食う趣味はねぇ!』だそうです」
ヴィオラの声真似が特徴掴んでて上手いな!ってか聞いた事あったの!?
でもまぁ気持ちは分からないでもない。
どれだけ切羽詰まっても石を食おうなんて思わないもんな。
でも、思いついた事が一つあって……。
「分かった。話は変わるが、ポーションの作り方って知っているか?」
「一般的なのは『輝石』を水に沈め、その水を蒸留、完成した『輝水』にて薬草を煮詰めて完成となります」
……家にある『ポーション製造器』に沈んでる石って『輝石』って名前なの初めて知ったー。……まぁ、恥を上塗るのは止めよう。
「正解だ、ヴィオレット」
「恐れ入ります」
大まかな作り方はヴィオレットの言う通り、水を作って薬を入れる。これだけ。
俺の場合は薬草の種類を変えたり煮出したポーションを固めたり、柔らかくしたり。
で、俺が思い付いたのは……。
「その『輝石』を『魔石』にすれば、ポーションとは別の物が出来上がりそうじゃないか?」
「確かにポーションを作る過程で『魔石』が用いられる事は今までにはありません」
「ですが『魔石』はそれ自体が人体に害があると認定されています」
「その為、人が口にする物に『魔石』が用いられた事はないと記録にあります」
そう、加える物を変えても変化がないならその元……ポーション精製に必須の水から変えてしまってみてはと思った訳なんだけど……え?……『魔石』って身体に毒なの?ちょっとそれは……怖い。
だが、現状何も突破口がないのは事実……ヤバそうでも……試す、しかないか。
ヴィオレから渡された魔物の『核』、改め『魔石』をギュッと握り締める。
覚悟は、決めた。
「家に戻る」
「「「畏まりました」」」
じいちゃんが言っていた。
『思い付いた事は試してみろ、失敗なんて気にすんな!』
了解、失敗しても……大事にならない様に諸々準備して挑んでみるよ。
シロとリリーナは今日帰って来るんかな?
念の為、伝えておくか。
……いや、死なないけど……死なないけどね!




