4-4.在りし日の『記憶』
『前の世界でか?……別に俺は大した人間じゃなかったぞ?』
それでも聞きたい。
じいちゃんってどんな人生を送っていたんだ?
『んー、全部中途半端な奴だったなぁ。勉強も運動もそこそこ、人付き合いは悪いし飽きっぽい。何かをしても直ぐに投げ出して、逃げ出して。色んな奴に絡まれて、殴り合って、勝ったり負けたり……しょっちゅう喧嘩に明け暮れて。大人になって仕事をしてみては長続きしなくてよ』
駄目な大人じゃん。
『なははは!そうだな!!今思い返してみればもっと頑張れた様な気もするが、それだってこの世界に来て経験を重ねて、この歳になってそう思えるだけよ!過去は変えられないからこそ、今はこうして……好きに生きてんのさ!』
……戻りたいって思った事はあるの?
『それは世界か?それとも時間か?』
…………両方?
『はん!どっちにしてもそんな仮定に意味なんてない。現実として俺はこの世界に来たし、過去に戻る事も出来ない。時間は万人に平等だからな』
………………そっか。
『まぁ戻してやるなんて誰かに言われても俺は絶対に戻らねー。だって今、メチャクチャ楽しいんだぜ?好き勝手して、生きて、頼りにもされて。前は戻りたいって思ったかも知れないが、少なくとも……今は頼まれたって戻ってやるもんかよ?』
そう言って、【最強】五百神灰慈が俺に笑いかけた。
こんな会話、多分してない……筈。
こんな話をしていたら、俺は絶対に忘れてない。
こんな笑顔は……毎日の様にしていたけど。
過去や今を嘆くより、未来にどう繋げて行くかを考えろ。
それがじいちゃんの教えだった。
俺がじいちゃんに聞いておけば良かったって思った事を、都合が良い夢にして見ているんだろう。
『だからお前も……クロも好きに生きてみたら良い。失敗とか後悔しても、それら全部笑い話に出来る位、食って遊んで寝て……お前の人生って奴を楽しめよ?』
こんな事も言われてない……けど、好きに生きろとは言われたな。
じゃあ……好きに生きる為に……今、死ぬ訳には行かないな。
そうだ。
たかが遊びで死んだら【最強】に笑われる。
こんな……ところで……寝てる訳には、いかない!!
「っ!」
気が付くと目には、広大な天井が映る。
此処は……どこだっけ。
ぼんやりと目で周りを確認、自分が仰向けに倒れている事を自覚する。
のろりと身体を起こすと……傍には地面に突き刺した『月詠』。
周りの景色は……見慣れない荒地?俺達が暮らす『賢者の森』ではない。
確か……俺は━━
「「「御主人様、おめでとうございます」」」
唐突に背後から声!?
バッ!と跳ね起きいつでも戦える様に『月詠』の柄に手を掛け……ってあれ?
皆が皆、同じ造形の顔をして、同じ黒紫色の髪に同じ服を着用しているが……1人1人、個性がある。
「レベル二百を超えました」
「初めてでこんな難易度を踏破されるとは」
「流石は私達の御主人様です」
見知った顔に力を抜き、握った剣の柄から手を離す。
短い髪に黒タイツの『管理』ヴィオレ。
長い髪にニーハイソックスの『運営』ヴィオラ。
髪を後ろで括った生足の『警備』ヴィオレット。
……思い出した。
此処はじいちゃんが【強欲】の魔王城を改造した遊興施設『籠の中の冒険』……その一階部分だ。
段々思い出して来たぞ。
ニーズヘッグから俺の『魔素』を回復させるものを作れと言われ、その研究に行き詰まった俺をヴィオレがこの遊興施設での気分転換に誘ってくれて……その後。
「なぁ、俺は気分転換に来たんだよな?」
「はい、その通りです」
心成しか楽し気なヴィオレ、
「前に来た寒々しい一階部分の気温や情景が変わっていたのは見事だ」
「畏れ入ります」
心成しか嬉し気なヴィオラ、
「俺に見合った遊びを頼んだんだよな」
「然様でございます」
心成しか誇らし気なヴィオレット。
「それが何で危険度が高いの魔物が出て来たんだ」
確かに気分転換としては最高だったよ?
『魔城灯』の力に依るものなのか、風景が一瞬で変わる様は見ていて心が躍ったし、ずっと座りっぱなしで思いっきり身体を動かしたいと思っていたところだったから。
でも可笑しいな?!
出て来たのが『魔物図鑑』の中でもヤバい部類に入る黒い炎を吐く『黒火蜥蜴』!?
更にその横には現実に組んだら最悪と言われてる、物理攻撃が効かない上に弱点は火属性の魔法のみ……でも火を使うと爆発する『ボム・クラウド』が五体も!!
「普通に死にかけたんだが」
「ですが御主人様は見事攻略しました」
「そこらの冒険者なら死んでもおかしくありません」
「これは賞賛するべき快挙です」
3人から拍手喝采を受け、俺も満更じゃなく……そうじゃないの!?
死にかけた……そこをまず詫びて!?
百歩譲って『黒火蜥蜴』は勝てる要素があったよ。
でも『ボム・クラウド』は魔法が使えない俺との相性が最悪だったんだよ?!しかも斬ったら増えるわ誘爆するわで意識も失うわ!
「どう考えても俺に見合ってなかったろう」
「何を仰いますか」
「遊びは命懸けでやるものだと教えられましたし」
「御主人様の力量に合ってました」
ギリギリだって言ってんだよ!?
「何はともあれ」
「此方が今回の褒賞になります」
「お受け取り下さい」
そう言って差し出して来たのは……ヴィオレが魔物の『核』に、ヴィオラが『落とし物』、ヴィオレットが……?
「これは?」
「レベル二百を超えた方への副賞になります」
「へぇ」
ヴィオレットから差し出された物を受け取り質感を確かめると……布?広げると出て来たのは━━
「私の下着です」
「止めろ」
慌ててヴィオレットにつっかえす、何やってんだオイィィィ!!
え、何、指定されたレベルを超えるとこんなのを渡す様に言われてんの?誰に?決まってる、この3人に命じる事が出来たのはたった1人しか居ないあのクソ変態ジジイは何を考えてんだよぉぉぉおおお!!
「ちなみに私のと」
「私のもあります」
「誰のが宜しいですか?」
「本当に止めろ」
何でヴィオレとヴィオラも用意してんだよヴィオレットは選択を迫って来んな!?あの【最強】の変態にどんな事を言われてんだ!!!
「これ以上は前・御主人様が嘆くと判断しました」
「申し訳ありません、冗談です」
「ですがお望みでしたらこれも━━」
「要らん、しまえ」
「「「畏まりました」」」
前・御主人様である五百神灰慈も変態扱いで嘆いていたけど言い訳出来んぞ変態ジジイ!!
悪質な冗談を仕込んだのはジジイか?!それとも産みの親か?!どちらにしても二度とすんなよな!!
「……その冗談の仕入先は知らないが、俺にも他にも今後一切禁止する。分かったな」
「御主人様からの命令受諾」
「了解致しました」
「この冗談は今後一切致しません」
本当に分かったんだな?信用するからな!?
「冗談はさておき、此方が景品になります」
「……開けてみてくれないか」
差し出されたのは小さな木箱。
先程の冗談の後だからか、警戒してしまうな。
木箱の蓋をヴィオレットが開けると、中からは小さな……水晶体?




