3-28.『終局』
装備がないティストゥートの攻撃で注意しなければ行けないのは……コイツが出現した時に見せた魔法だ。
あれだけは撃たせない!
凄まじい速度で駆けて来るティストゥートの頭上に、もっと早い速度で飛び上がる。
『月詠』に『鋭利護符』と『水の石』を装着、直ぐに発動!
「【水断】!!」
狙いは奴の頭頂部!
俺の気配を敏感に感じ取ったティストゥートが腕四本で交差防御。
けど『鋭利護符』と『水の石』で鋭さを強化した『月詠』なら断て━━!?
二本の腕を切り裂き、三本目の腕に刃が食い込んだ刹那……守りに使っていなかった五本目の腕での振り上げ!?
「がっ!?」
ティストゥートの拳が胸に突き刺さり、内臓と肋骨が損傷したのを感じ取る。
更に三本目の腕を捨てて自ら上に跳び、残った三本の手に生やした爪で切り裂きに来た?!
繰り出される猛攻を紙一重でかわす。が、攻撃の数が多過ぎる!?
「SINEEEEEE!!!」
「……この……やろう!!!」
脚に力を込めてその横っ面を蹴り飛ばし、一瞬だけ無防備に拡がった腕に向けて……!
「【双月】!!」
『鋭利護符』と『水の石』の効果があっても『双月』では、その腕を刈り取れない……と思うなよ!
「うらああああああああああああ!!!」
重力に惹かれ落下を始めたティストゥートに向けて斬撃の嵐を畳み掛ける。
身体を護る鎧が無く、今は魔物になってるとは言え人型なら「腱」に当たる箇所を傷付けられれば!?
「GIAAAAAAAAAAAA!?」
連撃に連撃を重ね、奴の腕がだらりと下がる。
傷を刻み、動きを止め……攻撃と防御手段を奪い取った。
此処しかない!?
短い空中戦、その終わりに俺は止めを、ティストゥートは反撃を狙った瞬間が重なった。
「【月詠】ぃぃぃ!!!」
「G……GRAAAAA!!!」
『月詠』の刃は魔物と化したティストゥートの首を胴体から離し。
ティストゥートの馬の足が俺の顎を蹴り付けた。
「ぐっっっ!?」
顎を打ち抜かれ脳が揺さぶられた?!
間を置かずに鳩尾に焼け付くような、衝撃。
ぐはっ!
あの野郎……馬の前足二本で俺に蹴りをくれてきやがった!!
蹴り上げられた反動で宙に舞い、薄れる意識の中でティストゥートが地面に落ちる音を聞く。
遅れて、俺も地面に打ち付けられ━━
「ごほっ!!」
……込み上がって来た血を吐き出し。
……ぼうっとした目でティストゥートを見る。
身体から頭を切り離され、今は小刻みに痙攣を繰り返すだけだ。
終わった。
奴が魔法を放つ前に倒せた。
後は、エルさん達に任せよう。
安堵して意識を手放そうと目を閉じかけた俺を引き止めたのは……風。
全身が痺れ上手く動かせず、首だけでその発生源を見た。
「っ!あれは……なんだ?!」
横たわった筈のティストゥートの胴体が宙吊りになっている?
そこから……夥しい魔力が黒い玉となって蟠っている!?
魔法?あの最初に見せた?なぜ?
まさか……。
あれがティストゥートの意思で放った魔法ではなく、ただの魔力による暴走だったら?
さっきは形を成すのに膨れ上がった魔力をティストゥートと言う器が解き放ったから収まった。だが今回は……器が壊れ、中に溜め込んだ魔力が暴走している現象が起こっているのだとしたら?
防波堤が決壊する様に、あの規模の魔力が暴発したら!?
「……くっ……そ。【月……輪】!?」
弱く握られていた『月詠』を『月輪』に変え、未だ感覚が戻らない身体を引き起こす。
させない。
必然だろうが、偶然だろうが……俺達が暮らす森には……。
あれだけ膨れ上がった魔力……言うなれば「自爆魔法」を今斬れれば、此処だけで被害が済むかも知れない。
それなら……それだけで……俺が立ち上がる理由になるだろうが!?
「……ああぁぁ!━━」
「はいストーップ〜。選手交代よ〜」
……え?
優しい声が俺の耳に届き、優しい手が俺の頭に置かれる。
「後は任せて〜、休んでなさい〜」
目の前に華奢ながら安心感のある背中が現れた。
金糸の髪を靡かせ、手には神々しい手甲を嵌めた俺達の師匠。
「皆頑張ってくれたから〜、私もやる気を出さないとね〜」
痛みと安心感で彼女の詠唱が聞こえないが、後は任せても大丈夫だな。
身体から力が抜け、瞼が重力に逆らえない。
力と意識を失う刹那、エルさんの……偉大な【最恐】の魔法発動の瞬間だけを感じた。
「━━【因果収天】〜」
何の気負いもせず放たれた魔法がどんなものだったのかを見れない。
最後の最後で力尽き、肝心の後始末が必要な時には使えない。
なんか……重要な場面でこんなんばっかりだな……俺。
今度こそ必死に繋ぎ止めていた意識を手放した。
◆◆◆
「過保護だなーニッグちんは☆」
「何の話だ?」
戦場となった箇所を望める高い樹の上。
そこに居るのは人の戦に興味がないと言った竜、二人。
「またまたぁ☆エルちゃんが出なかったらニッグちんが割って入るつもりだったでしょ☆」
「どうだかな」
ファフニールの言葉を、ニーズヘッグは肯定も……否定もしない。
ただクロには褒美をやってもいいと思ってはいた。
「それより……見たかファル?あの小僧、私の牙を二回も使ったぞ」
「ね〜?ビックリ☆アレって相当魔素を使うんでしょ?」
「ハイジは疲れるからと……一度使って以降は使わなかったな」
「それって……クロちゃんの方がハイちゃんより上って事?」
「少なくとも魔素量だけは……な」
自分が与えた武器を使った(まだ使い熟したとは言えないが)褒美に手を貸すくらいは吝かではない。そんな思いが胸中を巡るくらいには彼女の心は弾んでいた。
もっとクロを鍛えれば。
もっと上手く竜の武器を扱えれば。
その状態で、もしクロと灰慈が戦ったら……。
そんな「たられば」な事を考えると、ニーズヘッグは心の底から沸き上がる好奇心を抑えられずにいたのだ。
「それに……クロちゃん、何か硬くなかった?」
「私の攻撃にも耐えた事があったな。中々頑丈な身体に育ってる」
「それは!妾が与えた『種』の功績じゃな!」
ニーズヘッグとファフニールが振り返った先には、【世界樹】ユグドラシル。
「クロが摂取している『種』はただ己の能力を上げるだけではない。彼奴が後遺症に苦しんでる間、肉、骨、筋を鍛え続けられる優れ物じゃ!……ハイジは「超回復」とかと言うておうたかの?」
「でもあれ……人間に取っては「毒」なんじゃない?☆」
「毒を以て毒を制すって所じゃな」
「その辺りもハイジと打ち合わせしたのか?」
クロの教育方針をニーズヘッグに探られるが、ユグドラシルは別の話を切り返す。
「んな事より……あのケンタウロス擬き。あの力を作ったとしたら……」
「……ふん、まぁ良い。確かに最初から完全な姿になっていたら、この戦いもこう容易くは行かなかっただろう」
「あれってさぁ……もしかして★」
「誰か知らんが厄介なものを作ろうとしておる様だの」
ユグドラシルやニーズヘッグは一度戦い、その力を体感していたからこそ……ティストゥートが手にした力を作り出したものを警戒する。
「……以前は《竜》を操り、この前は歪な《魔王》をけしかけ、此度は人為的に作られた《魔王》か。面倒事の予感がプンプンするのぉ」




