3-27.竜の『武器』
「らあああああ!!!」
「GAAAAA!!!」
俺の斬撃が盾で防がれ、ティストゥートの刺突を躱し……近接戦での激しい応酬が繰り広げられる。
邪魔な盾だな!?
『帯袋』から『護符』を取り出し、装着……先ずはその盾を斬り裂く!
「【鋭利護符】!!」
施された効果を追加した鋭い横薙ぎ。
盾に切っ先が触れ、一部が食い込んだその時。
「GI……AAAAAAA!!」
ティストゥートが盾を上に逸らした?!
くそっ!『月詠』に掛けていた力と照準と……身体の姿勢を崩された!?
魔物と同じく本能で力を振るい、人間の時の経験で武具を操る。思った以上に手強い?!
その隙を逃さず、怪物が戦斧での斬り上げを俺の体目掛けて敢行……っさせるかよ!?
「【双月】!!」
『月詠』から『双月』に切り替え、二本の短刀を交差させてそれを防ぐ。
だが、戦斧の勢いは止まらず俺を中空に持ち上げ……狙い澄ましたかの様に大剣が、上と左右それぞれから迫って来る!?
この、野郎!!
身体を捻り、先ず戦斧の狙いを外して上の大剣に打つけ、左右からの刃を身体を回して捌き、ティストゥートの身体を蹴って離れる事に成功。
開いた距離は僅か……だが!
「【月輪】!【鋭炎】!!」
空中の姿勢制御と同時に『月輪』に換装、更に『護符』に『石』を発動させ……投擲!!
目の前のティストゥートは盾を前に━━地面を蹴って俺との距離を潰して来た?!
魔力を盾での防御に注ぎ込んだのか『鋭利護符』と『炎の石』の効果を纏った『月輪』でも断ち斬れない!?
シールドバッシュは速度と、盾の硬度がそのまま攻撃力に変わる。
「GOAAAAAA!!!」
その防御を纏い『月輪』を盾に食い込ませたまま、ティストゥートが突っ込んで来た!
っこの……やらせるか!
奴の突進が触れる直前に後方に飛び退り、右手は盾に食い込んだままの『月輪』の柄を掴み引き摺り出し、左手は手早く『帯袋』から魔道具を掴んで、奴の盾を蹴って後方に舞い上がると同時に、地面に向かってばら撒いた。
ティストゥートがその魔道具を踏んだ瞬間、刃が飛び出し突進の勢いを殺す。
「GA!?」
よしっ!
『仕込み刃』━━本体に重圧が掛かると仕込んだ刃が飛び出す罠型魔道具で、本来の用途は人間からの逃亡補助の道具だが……刃はガドガさん製で、奴の自重に加え、正面からの防御に気を遣って足元からの攻撃には備えてなかったから足止めでは済まない!……かと、思われたが。
刺さった『仕込み刃』はティストゥートの一踏みで全て粉々に砕かれる。
くそっ、強度優先に作って貰ったとは言え、魔物には通じても怪物には通じないって事か。
此処で『月輪』を『月詠』に戻し、効力が切れた『炎の石』を排出……次の手をどうするか。
「K……U」
……?それまでの怪物の唸りとは違う……これは、ティストゥートの言葉……か?
「K……SU……KO……SU、KOROSU……KOROSUKOROSUKOROSU!!!」
どうやら、憎悪管理をする必要はなさそうだ。
コイツは俺にだけ執着してるみたいだな。
「なら、殺してみろ━━ティストゥート!!!」
「KOROSUUUU!!!」
爆発的な突進で俺に向かって来る!
なら、俺の全てで受けて立つ!!
『速度の種』で最大限上がった脚力で地面を蹴り、奴に向かって猛然と駆け寄った。
「らああああぁぁぁあああ!!!」
「GAAAAAAAAAA!!!」
『月詠』の刃とティストゥートの大剣の刃が大きく打ち合わされ、火花が散った。
奴の攻撃はまだ終わらない。
時間を置かず二の手三の手と大剣の刃を繰り出し、視界の奥では戦斧を大きく振りかぶっている!
『帯袋』から『護符』と『石』を取り出し素早く装着。
こなくそーーーーぉぉぉ!!!
「【月輪】!【地堅】!!!」
通常、投擲に用いる『月輪』の輪の中に入り、『耐久護符』と『地の石』を同時展開。
左右から迫る大剣の攻撃を耐えやり過ごし、……更に迫る戦斧を持つ二本の腕に照準!
「【双月】!!!」
その腕の根本に向けて『双月』の刃を煌めかせた。
だが━━断てない?!
肥大した筋肉に、纏う鎧の防御力が想定より高い!!
それに『耐久護符』も『地の石』もどちらかと言えば防御重視の道具だ。
『月詠』と違って『月輪』『双月』は形を変えてしまう関係上、『護符』や『石』の切り替えが出来ない。『月詠』に切り替えて『石』と『護符』を換装……するだけの時間と距離も稼ぐ事をティストゥートが許さない。
決め手が……ない!?
どうする!?
追い込まれ、極限まで高まった集中力がそうさせたのか━━突破口となる情報が頭に流れる。
「っ!【月喰之牙】!!」
『双月』が一つに重なり以前一度だけ見た事がある形に変化した。
ニーズヘッグと契約した事により手に入れた武器……『月喰之牙』が姿を現す。
同時に背後から三本の大剣の気配が。
振り返り、目視で確認!『技の種』の効果が最大限にある今なら……その攻撃に速度が乗っていても見える!!
三本の剣の交点、俺の身体の中央に『月喰之牙』を据え置き、この剣の能力を発声した。
「【噛み千切れ】!!」
声を受けた剣が瞬時に変化、刀身に生えた鋭い牙が伸びてティストゥートの剣を絡め取り、手に持つ柄を捻ると……三本の大剣が硝子を割った様な音を立てて砕け散る。
「GI!?」
……すごい。
あの大剣だってかなりの強度を持っていた筈。
それを、捻る力だけで壊した。
呆気なく砕けた剣を見たティストゥートの一瞬の硬直を見逃さず、奴の肩を蹴って距離を開け、向き直った時に目にしたのは……またシールドバッシュで俺に突撃してくる奴の姿。
自分の武器が壊されたショックから瞬時に立ち直り次の攻撃に移行するとは見上げた胆力だ……だが!
迫る大盾と並行に『月喰之牙』を構え、もう一つの能力を発動!!
「【噛み砕け】!!」
俺の視界に収まっていた盾に鎧、構えられていた戦斧。
ティストゥートが装備する全てに向けて、『月喰之牙』に備えられた刃が離れ、上下左右から突き立てられた。
まるで……《竜》が顎門を開け、獲物を喰む様に。
「GAH!?」
先の大剣と同じく、装備していた武器防具が全て破壊されたティストゥートが苦悶の声を上げる。
こっちの能力は距離が空いてても当てられる!?ティストゥートが苦しんだのは盾や鎧を砕いた際の衝撃がダメージになったって事か?!
此処で、脳裏に過ったのは『英雄の叡智』からの情報……。
《月喰之牙》
【悪竜】ニーズヘッグとの契約により『月詠』に宿った、ニーズヘッグの牙。
【世界樹】に齧り付き、磨がれた牙はどんな武具も破壊する。
竜の牙で壊された物は絶対に直せない。
逆に生命体は傷付けられず、また竜の力を人の身で使う場合、かなりの魔素を消耗する。
じいちゃんがニーズヘッグと戦った時に教えてくれた━━
『お前の中に巡る魔素はお前を守る為だけに存在する』
その魔素を消費して、『月喰之牙』を使用出来た。
あの言葉通り、俺を守ってくれた訳だが……くぅ!?
《竜》の力の代償か、魔素を消費した事で身体に力が入らない?!
俺の中に形を維持する魔素がないと判断したのか、『月喰之牙』が━━元の『月詠』へと形を戻した。
目眩がして、身体を支える力が抜けて行く感覚。
これは、魔法を過度に使った際の「魔力欠乏」みたいなものか?!
剣を大地に刺して支えにし、急いで『帯袋』から『マジック・ポーション』と『スタミナ・ポーション』を取り出し一気に煽る。
身体に力は戻ったけど、それは『スタミナ·ポーション』の効果。再度『月喰之牙』を使える気がしない。ってことは……魔素って『マジック・ポーション』じゃ回復しない?!魔力と魔素は別物なのか?!
この武器、威力もデカいがリスクもデカい!!
「GU……GAAAAAAAAAA!!!」
装備は失ってもティストゥートの戦意は衰えてない。
自分のプライドを傷付けた俺への敵意で、父親から受けた薬の効果に負けずに抗ってる精神は認めよう。
自分の領地をより良くする為に『世界樹の枝』や『鷲王の羽』が必要だと言われた俺も協力したかも知れない。
けど……自分の事しか考えず他者を蔑み、俺達の暮らしに土足で乗り込み、勝手な理屈を押し付けるコイツに……絶対に負けたくない……負けられない!!
此処からは自分の力だけの……俺の意地とティストゥートの執念の勝負だ!!
「ティストゥートォォォ!!」
「KOROSITEYARUUU!!!」




