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異世界の英雄はもういない  作者: 天山竜
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8. 『秘密』の地下室



 「……こ、此処は!?」

 「この家の倉庫かな」


 リリーナを伴って訪れたのは、じいちゃんが集めに集めた道具を全て収めた家の地下にある倉庫だ。

 とにかく広い、デカい。

 俺が灯りを点けると……上の母屋よりもこっちが家か!?と思う位にデカい地下倉庫が現れる。

 魔術で収納したり、吹き抜けになって居たり。グルリと本棚に囲まれて広さの全景が分かる分、余計にその広大さを感じさせる。ここがじいちゃんの倉庫兼実験室で、今は俺が管理や使用をしている場所だ。


 「きたの……ひさびさ」

 「シロはそんなに来ないもんな」

 「ここ……あたま……いたくなる」

 「ただ本が嫌いなだけだろう」

 「よめない……ほんは……ほんじゃない」


 暴論言うな!?

 確かに難しいのもあるけど……そもそも本なんて読まないだろうが!

 壁いっぱいに広がる本棚には様々な種類の書籍が収められている。様々な人が書いた様々な冒険譚に英雄譚……物語が書かれたものは勿論、医術薬術占星術、中にはじいちゃんが書いた魔物図鑑や料理のレシピなんてものもあったりする。

 知識が雑に、無駄にあるじいちゃんを作った一端がこの本達にあると思うと、俺も読む気持ちが高まって、この蔵書の半数は読了した。

 この中にある魔導書だけは俺が読んでも意味がないけど……見る人が見たらお宝の山なのではなかろうか。

 それはさておき━━


 「リリーナが使うのは剣?鞘を見た限りでは細剣(レイピア)かな?」

 「……え?あ、はい!って言っても腕前はたかが知れてますけど……」

 「レイピア……レイピア」


 じいちゃんの職業が魔法使いだから意味はない……が、どうやら蒐集癖があったらしく溜めに溜めた道具の中には絶対に使わないであろう武器や防具なんかも後生大事に取ってあった。

 これ、売り払ったら幾ら位になるんだろう……手間だし、街に行かないからしないけど。

 お、あった。そんなに数は多くないな……三本。見つけたレイピア達をリリーナに見せてみる。


 「この中で何か感じる物はある?」

 「え?感じるもの……ですか?……えっと……これ、でしょうか」



 『武器や防具にも意思があるんだよ』



 言ったのは俺の『月詠』を作ってくれた鍛冶師の人だ。

 それこそ一山幾らの木剣や鉄剣、農具とか包丁でもそれぞれ相性と言うのがあるらしい。

 何気なく持ってみた道具が手に馴染んだりするのはその武器や道具が、持った人を気に入った証拠なのだと言う。

 作り手や生み手の意思が宿った道具は、主と認めた者にその力を与えるらしい。

 俺は作り手じゃないから分からないが……気に入った奴に力を貸したいと思うのは分かるかな。


 「それは不快とかそういう感じ━━じゃ、なさそうだね」

 「はい」


 分かるからこそ、こうして見繕ってしまうわな。

 リリーナが選んだレイピアは、見ただけでも美しいと感じる装飾を施している。

 別に華美な訳ではないんだけどシンプルな造りはとても丁寧で、それが柄に施された何かの花をとても可憐に際立たせて。

 ……うん、とても……似合う。


 「この花、お母さんが好きな花……」

 「へぇ」

 「それに凄く手に馴染んで……何だか温かい気がします」


 このレイピアに気に入られたんだろうな。


 「じゃあ今日からそれ使って」

 「はい。……………えぇ!?いやいやいや、こ、こんな良い剣、私にはとても!」

 「その剣も、薄暗い地下で眠ってるより、自分が気に入った人に使われたいだろ」

 「剣に……気に入られる?」


 驚いた様に瞳を大きく開け、剣に目を落とし、やがて微笑む。

 俺も以前ならそんな事、考えもしなかった。が、今は感覚的にだけど少し理解出来る。

 人と武具、お互いの命を守り合うパートナーみたいなものだから。

 者と物の違いはあれど、命を託すのは一緒なら気に入ったものに託したい。


 「では……お借り、します」

 「あぁ、どうぞ。と、次は防具か」


 確か装備してたのは軽鎧だったけど、武器ほど防具はないんだよなぁ。

 サイズもないだろうし……。装飾具でも大丈夫かな。


 「魔法の属性は?」

 「私は風と光です」


 精霊に愛されてるなー。

 人に寄って持つ属性は違う。

 大体相性の良い精霊の属性を一つ持つくらいなんだけど……精霊に好かれる人は稀に何種類も属性を持つと言われている。

 二つ属性を持つ人に俺は初めて会ったよ。

 ……まぁ、なんでも使えます!みたいな人はじいちゃん位だろうけど。

 属性は四大精霊(火、水、風、地)が主流だと言われ、それ以外の属性はかなり珍しいらしい。

 光、か。だったら防具として使えそうなのは……。

 お、あった。


 「これを身に着けておいてくれる?」


 リリーナの前に差し出したのは、一本のネックレス。


 「えっと、これは?」

 「光の精霊と親和性が良いタリスマン。確か物理防御も魔法防御もそれなりに高かったと──」

 「タリスマン!?」

 

 ……ど、どうしたの?タリスマンに何か嫌な思い出でもあった?


 「そそそそんなに高価な物は流石にお借り出来ません!?」


 …………そうなの?

 世間の相場は良く分からないが、装飾具は属性合わないと使えないし、そもそも俺は使えない。


 「嫌なら無理強いはしないけど、別に大した物でもないから構わないよ?」

 「大したものです!嫌とかでもなく!」

 「それに、俺もシロもそれは使えない。さっきのレイピアじゃないけど、倉庫の肥やしになるより使った方が道具も喜ぶ。どれだけ高価な物でも使う為にあって、それを使える人がいるなら使うべきだ。命より大事な物はない……って、じいちゃんの持論だけどね」

 「何だか……凄いお祖父さんだったんですね」

 「……あぁ」


 何て言っても世界を救った英雄だから。


 「……ぅう……分かりました。それでは此方もお借りします……な、なるべく使う事がないように……します!」


 ん?俺の話し、聞いてた?

 いや、命を守る物なんて使わないに越した事は無いんだけど……そうも言ってられないよなぁ。


 ━━もし、仮に。

 あの黒オーガが造られた奴だとして、それを倒した事がアイツを送った奴に伝わったとしたら……また何かしら行動を取る可能性は捨てられない。

 流れで戦ってしまったが、こうなった以上は見捨てられない。

 途中で放り出したらじいちゃんの『女は守るものだ!』の教えに反するし、何より師匠にバレたら……ヤバい。

 ━━俺の身が、物理的に。

 ……自分の安全の為に……頑張ろう。


 「取り敢えず、此処でリリーナが備えられるのはこれ位か。鎧の代わりは村で見よう。後は……」


 そこからは必要最低限の物を見繕っていく。青ポーションに魔法が使えるなら赤ポーション、森ではぐれた場合の発煙筒だの音響弾、後は俺が大体持ってるからこんな所か。

 それらを一つにまとめて鞄に入れてリリーナに渡した。


 「取り敢えず必要そうな物はこの中に入ってる」

 「……こ、これだけでかなりの金額になるのですが……」

 「金額……?」

 「お借りした分はちゃんと返します!ありがとうございます!!」


 律儀な子だなぁ。別にポーション類も、渡した武具も使って命が守れるならそうした方が良いのに。

 なんだっけ……『命あっての物種』だっけな。

 消耗品は人の命とは比べてはならないみたいな事を教えられたから、使う時はしっかり使ってね?この前みたいに使わず気絶とかは無しの方向で……ね?


 「俺はもう少し準備するから、先に上に戻っててくれ」

 「えっと……少しだけ、見学してても大丈夫、ですか?」

 「あぁ、別に構わないよ」


 爆発物とかも別で管理してるがそれには安全策(ロック)が掛かっているし、そもそも信用してない人は此処には居れないから問題ない。

 リリーナに言いながら、俺も自分の準備に向かう。割りとポーション類も使ったし必要にもなるだろう。精製して作って置かないとか。

 基本的にポーションの補充も調達も自分で。そこから先のアレンジも、自らの手で行う様に教えられてる。

 これは錬金術と呼ばれる範囲の物だが、幸い、知識さえあればこれ等は出来る。必要な道具はここに揃ってるし、技術が必要なだけで、実際の魔法は必要ない分野だから俺にも出来る。

 これがまた面白くて、何を足して何を混ぜると何が出来上がるのか、端的に言えばそんな感じの「学問」なのだ。知識だけで出来るものとあって俺はのめり込み、錬金術もどきに関してならじいちゃんに比肩するものになったと━━


 「これは何をしてるんですか?」


 ……意外に近くから声がする。リリーナの声がした方を振り返って近い近い近い!

 肩越しに振り返ったらリリーナの顔が近過ぎる!そんなに接近しなくて良いから!


 「……使って少なくなったポーションの補充……」

 「もしかして、……ぽぽぽポーションをご自分で作ってるのですか!?」


 近い顔が更に近くなった!?

 俺の視線に気付いたのか、その視線を感じる距離が近い事が恥ずかしかったらしく、リリーナが顔を赤らめて……ちょっと上目遣いに、え、何で下がってくれないんでしょうか……?えっとどどどどうしたら良いんでしょうか。


 「あ、あの━━」

 「くろ」

 「ひょえ!」


 ぐぇえ!何故かシロが背後から俺の首に抱き着いてる!って言うか……ちょっと絞まって来てるんですが!頸動脈!頸動脈を解放して!?


 「シロ、ちょっと苦しいんだけど」


 そろそろ首を解放しろ!!


 「しろ……てつだう」

 「なら、リリーナを案内してあげろ」

 「わかった……」


 っだは!!

 やっと離しやがった。


 「こっち」

 「あ、はい!では、行ってきます!」


 向かう先には物語、童話、英雄譚などが並べられた本棚。

 ああして後ろ姿だけ見てるとまるで姉妹の様だ。……どちらが姉で、どちらが妹なのかは考えるまい。リリーナが引いてくれなかった理由も分からなければ、シロが首を絞めて来た理由も分からない。……人間とは、……女とは、複雑な生き物なんだな……じいちゃん。


 さて。

 師匠とユグさんのとこに行くなら、こいつの事も聞かなきゃな。

 手に取ったのは1つの瓶。

 中には検査液に漬けられた、あの黒オーガの『核』。

 その表面に浮かんでいるのは━━



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