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異世界の英雄はもういない  作者: 天山竜
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3-20.『戦力差』


 日が登る。

 いつグリント軍がヘルバに攻めて来るのか分からなかった為、俺達はフリソス家に泊まらせて貰った。

 約束の日は今日。

 今頃は俺達が突き返した冒険者達もティストゥートの元へと帰ってる頃だが……さて。

 

 「御主人様(マスター)、おはようございます。起きていらっしゃいますか?」


 ドアをノックし、メイド3人の内、誰かがドア越しに話しかけて来る。

 顔が見えないとマジで誰に話し掛けられてるか分からんな。追々判別出来る時が来るんだろうか?

 傍らに置いてあった『偽りの感情(ペルソナ)』を装着し、返事を返す。


 「あぁ、起きてるよ」

 「失礼します」


 部屋に入って来たのはヴィオレ。

 確かグリント軍の偵察をすると言っていたが……。


 「何か動きがあったか」

 「はい。グリント軍と思われる人間達が此処ヘルバに向かってます。その数……五千」

 「大掛かりだな」


 ヘルバの総人口は老若男女合わせて二百にも満たない位なのに。

 一つの村を落とすのに使う兵力なのか?その規模の軍隊は。

 けど……、来るなら戦うだけだ。


 「男女比は?」

 「約六十%は男、四十%が女。部隊長や指揮官は軒並み女かと」

 「これで今、グリント領が他の国や魔物に襲われたらどうするんだ」

 

 ちゃんと住んでる人を守る兵力を残しているんだろうな?

 それとも……『鷲王の羽』を手土産にジルコニアって所にまとめて亡命でも考えているんだろうか?……ま、領主じゃない俺がそんな事も考えなくて良い。


 「どの位でここまで来る?」

 「時間にして、二時間五十七分四十五秒後に到着します」

 「……そうか」


 正確だな!?

 かなり細かいが約三時間後には接敵って事だな。

 敵の情報はあるだけ越した事はない。実際にどんな布陣かは見てみないと分からないが、そこら辺もヴィオレなら把握して━━


 「偵察機の映像を出しますか?」

 「……?頼む」


 偵察機って?

 俺の言葉を許可と取ったヴィオレが腕を振ると、幾つもの映像が部屋一面に出て来た。

 すげー!?何これ!?

 リリーナの『シルク・ヴェール』にユグさんが映像を映した時みたいなのがいっぱい!?

 一つ一つのサイズはコンパクトだが数が多い!!


 「無人偵察機を三十機放ち、敵の一挙手一投足を把握しております」

 「凄いな」

 「お褒め頂き光栄です」


 魔法……なのか?それとも別の何かなのか?

 その映像は鮮明で、騎士や騎馬の装備は勿論、何処にどの様な部隊がいるかも把握出来てしまう。

 ……反則的な偵察だな。

 その映像を見ていくと、グリント軍の後方に見慣れた顔があった。

 ティストゥート=グリント。

 周りを固めるのは恐らく近衛騎士だろうが……その隣に居る初老の男は誰だ?


 「データベースにて照会……彼がレナード=グリントです」


 ヴィオレが俺の視線を追い、声に出さない疑問に答えを返す。

 あれが……。

 じいちゃんの友達だったシュバルべさんの息子って事だな。

 ティストゥートの結婚に随分執心してるみたいだが、この村に手を出そうとした事を後悔させてやる。

 じいちゃんの村に悪意を持って近付いてる事実と、家族を傷付けられそうになった出来事が頭を過り、……俺の中で黒い……暗い感情が鎌首をもたげる。

 

 「失礼します」


 ふにゅ。

 ……ん?

 突然、背中に訪れた柔らかな感触に、俺の腹を抱く二本の腕。

 何故かヴィオレに抱き付かれてなにしとるんじゃああああああぁぁぁ!


 「……何をしてるんだ?」

 「エルシエル様から申し付けられ、御主人様(マスター)に不穏な空気を感じたら落ち着かせる為にこうしろと」

 

 あの人何勝手に申し付けてんじゃぁぁぁあああ!!!

 解こうにも意外と力が強く、抵抗してもビクともしない!?むしろ……段々、ちからが……つよぐ……!!


 「落ち着かれましたか?」

 「落ち着いた。だから、そろそろ離してくれ」

 「畏まりました」

 

 ぬはっ!……はぁはぁはぁ。

 ふっと腹に回っていた腕が解かれ、柔らかな感触が遠のいた。

 人造人間(ホムンクルス)ってこんなに力が強いものなの?あのまま腕に力が込められたら……いや、辞めとこう!

 一瞬、自分の身体が上下に断たれた姿を幻視して、ゾッとしたわ。


 「この身体では、御主人様(マスター)を温める事は出来ないかもしれませんが、それでも」

 「そんな事はない」


 実際、腹を絞められた場所は確かな熱を持っている。

 遭難したわけではないし、暖かいかどうかを聞かれたら、んー……暖かいんじゃないだろうか。


 「本当ですか?」

 「あぁ。だが別に凍えていた訳ではないからな?さ、皆の所に行こう」

 「……畏まりました」


 いつの間にかレナードに抱いていた感情も過ぎ去り、心が平静を取り戻している。

 頭に血が昇ったら血流を止めれば正常になるんだろうか?

 ともあれ、今見た情報をエルさん達に共有しなければ。

 ヴィオレが操っていた映像が消えたのを確認し、エルさん達の待つ居間(リビング)へと向かい始める。

 

 

 「……お嬢様方が感じてるのはこんな感情なんでしょうね」



 ヴィオレの呟きはクロの耳には届かなかった。

 来る戦いに意識を持って行かれ、人造人間(ホムンクルス)の感情の芽生えに気付かない。

 何はともあれ……ヘルバを挙げた戦いが今、始まる。



 ※※※※※※



 「……来たわよ!」

 「つぎ……しろ」

 「まだアタシが見てんでしょうが!?」


 あれ?このやり取り、前も見たよ?

 何が面白いのか、双眼鏡を巡るやり取りを今回もしているティアとシロ。もっと凄い技術が目の前で展開されてるのに。


 「これは、壮観ですね」

 「ま、魔法なんですか……これ」

 「どちらかと言えば〜、「技術(テクノロジー)」ってところかしら〜」


 セリエやリリーナが驚く中、エルさんがのんびりと解説をしている。

 俺達の前には、先程ヴィオレが見せてくれた映像が複数展開され、今はまだ見えないグリント軍を多角度から映し出していた。

 エルさんはこう言った物を見るのは初めてではないっぽいな。

 技術(テクノロジー)……か。うん、しっくり来るな。


 「後、三十二分十五秒で敵影が視認出来るところまで来るかと」

 

 俺の傍らに立つヴィオレが正確な時間を俺達に告げる。

 後方にはヴィオラ・ヴィオレットも待機して指示を待っていた。


 「念の為、村は森の奥に退避させておる。戦えぬ者も一緒にの」

 「助かるよ」


 俺に声をかけて来たのはユグさん。

 ヴィオラが築いた防壁の上には、『ヘルバ』の主戦力が勢揃いしている。

 ニーズヘッグとファフニールは人間同士の(いさか)いには興味ないと、エルさんの家で寛いでるらしい。

 まぁ、自らの休息を邪魔されるなら話は別と言っていたから、最低限守る為には動いてくれる……のか?

 「狩人」の面々は防壁中部に陣取り、「守手」は防壁下部で補給や予備の戦力として動いてくれてる。

 

 「ではエルシエル様、此方を」

 「ありがと〜」

 

 ヴィオラがエルさんに渡したのは防壁内部や、『ヘルバ』に設置された集音器に声を届ける『拡声機(マイク)』と呼ばれる魔道具らしい。『彼我の会話(カタルシス)』……デンワにも使われている技術が使われているんだとか。何だか興味湧いてきたな、「技術(テクノロジー)」。

  そのマイクを受け取ったエルさんが落ち着いた声で話し出す。


今日は18時頃にもう1話。

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