3-17.『竜』……2人
それから━━『寝所』内大広間にて、事のあらましを説明する場が設けられた。
俺、シロ、ティア、リリーナ、セリエが席に座り、ヴィオレ・ヴィオラ・ヴィオレットの3人が俺の背後に立つ。向かいに座るのは、酒を呑むユグさんに、目を閉じて思考しているのか寝ているのか分からないニーズヘッグ。少し離れた所にたまたま居合わせたミーミルにウルズ。
そして変わった格好をした金髪の少女がニコニコと俺を見つめている……って誰!?
聞きたい事がわんさかあるが、ヴィオレ達も紹介しなければならないし……俺の報告から始めるか。
俺達が、じいちゃんの遺した【強欲】の城に行く事になった経緯。
そこで見た遊興施設と化した現在の魔王城の姿。
そして……そこに居たヴィオレ達3人の『御主人様』に、じいちゃんの遺言に従ってなった事。
順繰りに説明していった。
「ハイジの奴め……妾の領域で……妾に黙ってそんな事をしておったとは!?」
ユグさんが持つ盃に波紋が立つ。《神霊》、ご立腹である。
ま、まぁユグさんが怒るのも無理ない。
自分の家の中に、許可も取らずに他の家を建てられていたもんだし。全体的にどう考えても……じいちゃんが悪い。
「今に始まった事ではない」
「確かにー。ハイちゃんって昔っからそういうトコあったかもー☆」
ニーズヘッグの感想はじいちゃんを知ってるからだろうが……謎の金髪の少女もじいちゃんを知ってるのか、茶を飲みながら賛同している。……本当に誰なんだ、あの人は?
「グググっ……!……まぁ作ってあった物に今更とやかくも言えんじゃろ。その施設はクロ坊の好きにせい」
「ありがとう、ユグさん」
「「「ありがとうございます、ユグドラシル様」」」
「……まぁ妾の寛大さに感謝するが良いぞ」
「「「勿論です、ユグドラシル様」」」
「お注ぎ致します」
「炙り物は如何でしょう」
「肩、失します」
……じいちゃんからユグさんの扱い方を教わっていたのか?
普段は威厳を見せてもあまり尊敬されないユグさんだが、目にも止まらぬ速さでヴィオレ達が距離を詰め、酌をし、机の周囲に散らばる肴を集められ、肩を揉まれ持て囃されていく。甲斐甲斐しく世話を焼かれたユグさんの顔が……じいちゃんに対する怒りから、徐々に絆され……最終的にメイド3人に甲斐甲斐しく世話を焼かれ上機嫌になって超笑顔になっていた。
「ささ、ユグドラシル様。どうぞもう一献」
「ささ、ユグドラシル様。此方も是非お召し上がりを」
「ささ、ユグドラシル様。次は腰をお揉み致します」
「なはははは!!中々かわゆい奴らじゃのクロ坊!?」
メイド3人の行動が、じいちゃんが作った『籠の中の冒険』と言う施設の存続を認めて貰えた事からの素直な感謝と思いたい。
暫し、接待と言える給仕を受けていたユグさんだが、俺に視線を向けると話を大元に戻した。
「じゃが、結局『魔城灯』は手に入らんかったんじゃろう?」
「あぁ。あるにはあったが、件の魔道具は遊興施設が機能するのに外せない。だが指定されたのは『魔城灯』だけじゃない。『双頭蛇の涙』、『九尾孤の卵』、『世界樹の枝』に……この『鷲王の羽』だ」
机の上に置いた三枚の羽。
先程、ニーズヘッグと戦っていたフレースヴェルグが落としていったもの……正に『落とし物』って言った所だな。
「あの鳥頭の羽を欲しがる奴がいるなんてな」
「ニッグちんニッグちん。割りとフレちゃんの羽って高値で取引されてるみたいだよ?」
「ほう。路銀が入用になったら奴から毟り取るか」
……集るんじゃなくて、今の流れだと文字通り、羽を毟るって事なんだろうなぁ。想像しただけで、フレースヴェルグの悲鳴が響き背筋が凍る。
で、そろそろ聞いても良いですかね。
「それで……貴女は?」
「あぁ、ごめんね!名前はファフニール☆気軽にファルちゃんって呼んでね☆」
「あ、はい……よろしくお願いします」
随分馴れ馴れしいが……ファフニール?
どっかで聞いた覚えがあるんだけど。それを受けてか、突如セリエが立ち上がり、淑やかに一礼して話し出す。
「横からの申し訳ありません。セリエ=オルタンシアと申します。失礼ながら、お2人は《竜》なのでしょうか?」
「ほぅ。何故そう思う?」
「部下に《竜》に詳しい者が居りまして、その時にお名前を伺った事があります」
「へー、誰だろう?……知ってる人かなぁ☆」
「ウァラクという者ですが、ご存知でしょうか」
「……あの変態か」
「セリちゃん、物好きだねぇ★」
「激しく同意出来ますが、コメントは控えさせて頂きます」
気安い自身の渾名も流し、ニーズヘッグとファフニールさんの罵倒に無関心を装い切れずに眉をしかめるセリエ。
部下って言う事は亜澄さんの部下でもあり……つまりは『魔人将』の一人って事だよな?
ニーズヘッグとファフニールさんの顔を見る限り、何か嫌な思い出がある人なんだろうか。ってか、ファフニールさんも、《竜》なの?この人も《竜》って事はニーズヘッグの友達なのか?
あ、《竜》と言えば、まだ確認しなければならない事がある……それは。
「ニーズヘッグ、「契約」とは何だ?」
「あぁ、そういえばさっきしたな」
「ぶーーーー!!!……お主!!クロ坊に何しとるんじゃ!?」
ユグさんが盛大に口に含んでいた酒を吹き出した。
ちょっと待って。あんな勢いでされた「契約」ってそんなに驚くような事なの!?
「……あの〜。その「契約」ってクロさんやニーズヘッグ様がどうにかなってしまうものなんですか?」
「私も興味があります。ウァラクは操れるのであって契約を結んでいる様な事は言ってませんでしたから」
リリーナ、ナイス!
それを聞きたかったんだよ!あのユグさんが酒を噴くほど驚く事って、どれ程の事なの?!
「安心しろ。双方に不利益がある様な事ではない。クロに関しては新しい武器を手に入れた位に思っておけば良い」
「そんな事を言えるのはお主くらいじゃろ!?」
「待ってくれ。そもそも、契約とは一体何なんだ。そこから説明してくれなければ何も理解出来ない」
「……基本的に《竜》とは己の姿に誇りを持っておる。特に……その人知を超えた姿形にの」
「……あの黒竜の姿の事か?」
「そうじゃ。《竜》が行う「契約」とは━━矜持とも言える姿を武器に封じ込め、その力を主人の物とする事。つまり……ニーズヘッグは、今のこの姿が全てよ」
「己の姿に安い矜持を持ち過ぎだ。人と同じ姿になるだけだろ」
「ん〜、でもニッグちんの場合は確か『牙』も貸しちゃうんじゃなかったっけ?」
牙……確かニーズヘッグの最大の武器だって、以前《英雄の叡智》が教えてくれた事があったが、それが使えなくなったって事か?
俺の心配を他所に、ニーズヘッグがその考えを愚考と断じる。
「牙なんぞくれてやっても変わらん、爪も尾も翼だってあるんだ。それに……その牙はお前が使いこなしてくれるんだろ?」
ニヤリと笑い掛け、期待と重圧を掛けて来る。
俺の許可無く、無断で、……とは言え自分の肉体の一部を貸し出されたからには俺には完璧に使用する義務が生じて来る……のか?
くそっ、勢いでされた「契約」とは言え、そこまで言われたら……応えるしかないだろ。
「分かった。……必ず」
「では━━しっかり使える様に懇切、丁寧に、優しく教えてやるか」
こえーよ!?
今まで手加減してたのは分かってるけどそれでも死にそうになってたんですけど!?まだキツくなるの!?
今後の訓練の先行きが不安でしかない。
ニーズヘッグが寄越した怪しい流し目は俺の冷や汗を誘い、また、自らの名を名乗ったセリエにも向いた。
「それよりも……セリエ━━オルタンシア?まさか【怠惰】の直系か?」
「はい。《魔王》アスミィ=オルタンシアの娘です」
「ほぅ……クロ、お前の周りは面白い奴が集まるな」
「偶然だ」
やばい、ニーズヘッグが《魔王》である亜澄さんに興味を持った。
っていうか!俺が周りの人達を集めてるみたいな言い方は辞めて欲しい!?
どちらかと言えばじいちゃんの周りに集まってるんだからな?!
俺への、地獄とも訓練案と……《魔王》である亜澄さんへの対面に想いを馳せるニーズヘッグを尻目に、もう大分呑んで酔っ払っていると思われたユグさんが話の軌道を修正する。
「ほれほれ!話を戻すぞ?では、その羽があればお主等の目的は達したと?」
「あぁ。『魔城灯』も『世界樹の枝』も、ティストゥートにくれてやる義理はない」
「まぁ枝ぐらいなら全然良かったんだが……そうか……あのシュバルべの孫がそんなクズに育つとは……浮かばれんのぉ」
「ユグさんもシュバルべさんって人を知ってるの?」
「ティアが産まれる前は良く酒を酌み交わしておったもんよ」
そうか……じいちゃんの酒飲み友達ならユグさんが一緒に飲んでない訳がないよな。
少し寂しそうなユグさんの表情から察するに、やはり気の良い人だったんだなぁ……シュバルべさん。
「目的が達成されたなら早う帰ってやれ。エルも待ちくたびれとるじゃろ」
「分かった」
「クロ、もう行っちゃう?」
「もうお帰りですか?」
ずっと静かだったミーミルとウルズが、俺の元まで駆けて来て言外に「遊ばないの?」と語り掛けてくる。
きっと俺たちの話の邪魔をしない様に待っていてくれたんだろうなぁ……シロと一緒に菓子を食べながら。
本当に可愛い、この2人。
口元の食べ滓を拭いながら、努めて優しい声で語り掛けた。
「エルさんに届け物をしてからまた来るよ」
「本当?!」
「本当ですか?」
「あぁ、ヘルバから何か、甘い物でもお土産で持って来るよ」
「やったー!」
「リリーナさんも来てくれますか?」
「勿論です!」
『偽りの感情』の見た目が不気味な所為で、イマイチ子供からは好かれない俺を唯一慕ってくれるのがこのミーミルとウルズ。
リリーナにも懐いてるし、2人とも本当にいい子だなぁ。
「ねぇねぇクロちゃん☆」
「何です?ファフニールさん」
「もう固ぁい!ファルで良いってば☆」
俺達がヘルバに戻る算段を付けていると、椅子の後ろに回り込んで紫色の瞳でじっと俺を覗き込むファフニールと名乗る《竜》が話し掛けて来た。
この全てを見透かす様な目で見られるのは……堪らなく落ち着かない。
人を選ばず、気を遣わず、でも不快な感じを与えない。この《竜》、ニーズヘッグと違う意味で、強い。
それと……ち、近いんですけど。
気が付けば、心と身体の距離をいつの間にか詰められている。
「了解、何だファル?」
「へへー☆ウチも着いてってイイ?」
「……?届け物をしたら此処に戻ってくるぞ?」
「イイの!ね、お願ーい☆」
じいちゃんと知り合いって事はエルさんとも面識があるのか?
ニーズヘッグみたいに仲が悪いって事はない……よね?
《竜》と【最恐】の乱闘を止められる者なんてこの場に居ないからな?!
「別に良いが、暴れたりするのは無しだぞ?」
「そんな事しないよー!ニッグちんじゃあるまいしー★」
「おい、何故私を引き合いに出した?」
「ありがとねークロちゃん☆」
ジロリとニーズヘッグの一瞥を受け流し、更なる叱責を受ける前にさっさと話を切り上げるファフニール。
この二人の関係性も分からん。
それぞれが立ち上がり準備をする中、セリエがアモンを召喚。鳥籠を『収納空間』から取り出し、その中からヤタも顔を出して来た。
「お前達には先に戻って貰います」
「アモンもヤタもありがとう。助かった」
「WON!」
「KA!」
「今回のお礼は改めて」
この冒険でアモンには世話になり、ヤタが居なければ『魔城灯』の行方も分からなかった。
時間を取って、しっかり礼をしなければ不義理ってものだろうな。
「ウァサゴとアルファスにも助かったと伝えてくれ」
「分かりました」
ヤタを同行させてくれたウァサゴ、俺の帯袋を拡張してくれたアルファス。拡大すれば2人を連れて来てくれたソロモンさんに、話を通してくれた亜澄さんにも改めて感謝するべきだろう。
同行してくれた仲間に、サポートしてくれた周りの人達。色んな人達に支えられて初めての冒険をする事が出来た。
世の中の冒険者達も色んな支援や補助があって成立してるんだろう……って事が知れたのは良い経験だったな。
……そういえば、フレースヴェルグは泣きながら去って行ったが大丈夫なのか?彼の様子を見るに仕返しだの復讐だのとは縁遠い存在に思えたが。…………まぁ一旦それは棚上げしておくか。
「じゃあ一度『ヘルバ』に戻ろう」
冒険を終えた俺達は、同道する人数を増やし、その進路を『ヘルバ』に。
準備で取った時間もまだ余裕があるし、エルさんやガドガさんに良い報告が出来そうだ。




