3-13.『新層』へ
俺も少しくらいは役に立たないと……それが後始末って何とも格好が付かないけどね。
すれ違うティアに数本の『マジック・ポーション』を手渡し、大蛇の氷像に向かって歩み出す。
「【月輪】」
『月詠』から『月輪』に形態を変え、大きく振りかぶり……全力で投げる。
それと同時にダッシュ!
俺が投げた『月輪』が凍るヒュドラに向かって一直線に向かい、その牙を剥く。
だが……。
ギィン!と氷に噛み付くが、動きを封じる為に繰り出した魔氷は、皮肉な事に今はヒュドラを守る鎧と化し、その強固さに阻まれる。
セリエが作り出した氷、相変わらず硬いな。けど━━そこも織り込み済みだ!
貫く事を諦めた『月輪』が走る俺の手元に戻ろうと此方に向かって来る。
いつもならここで手を伸ばしその剣身を受け止めるが……今、俺達の間にあるのはリリーナの魔法『ボルテクス・オーブ』。
踏んだり、触れたりした者……或いは物を、指定された方向に打ち出す魔法に触れた『月輪』は……再度反動を付けてヒュドラに向かった。
引かれ、放たれる矢の様に射出された『月輪』が再びヒュドラに挑む。
その速度は俺が投げた時の比じゃないぞ!!
一筋の閃光と化した刃がヒュドラの首を切り裂いた。その直線上には━━また別の『ボルテクス・オーブ』。
内に向かう風珠だけでなく、ヒュドラの周りに浮かぶ外に向かう風珠にもぶつかって……風の檻の中に放り込まれた『月輪』が、荒れ狂う刃と化した。
光が鏡にぶつかると反射する様に、魔法に触れる度、威力を増して、何度も……何度もヒュドラに襲い掛かる。
「私の魔法にこんな使い方があるなんて!」
「……きれい」
「まぁ確かに綺麗なんだけど……エグいわね」
「差し詰め合体魔法……【閃光の檻】と言った所でしょうか?」
『ボルテクス・オーブ』に触れる度、速度と回転を上げる『月輪』なんだけど……速ぇ!?『速度の種』『技の種』を使ってやっと追える速度になっている!?
刃の嵐に囚われたヒュドラは斬り刻まれ、その体積は残り僅か……その時。
身体を分断された折にヒュドラの『核』が剥き出しになった!?
アレを壊せば!!
俺の手の中に戻ろうとする『月輪』をこっちから走って向かえ入れぇぇぇええ!反動が強いぃぃ!!!
「っっっく!!【月詠】!!」
暴れる『月輪』を『月詠』に戻し、掴み取った反動で流された俺の真後ろにある『ボルテクス・オーブ』を踏み抜き、今……俺に蓄積された全ての力をヒュドラに向けて一直線に翔ぶ。
これで……終わりだぁぁぁああああ!!
「はあっ!!!」
出て来たヒュドラの『核』を一刀両断。
断たれた怪物の心臓が粉々に砕け、残った身体が灰と化し……嵐が止む。
今度こそ、俺達の勝利だ。
「クロさん!お怪我は!?」
「……やった……ね」
「自分の魔法で作り出した氷がここまで壊されると、逆に気分が良いですね」
「結局アンタが美味しいとこを持ってったわね」
俺が着地した地点に皆が駆け寄る。
「いや、止めを刺しただけで俺がやった訳じゃない。リリーナの援護、シロの撹乱、セリエとティアの魔法があっての勝利だ」
「……あっそ」
「ティアさん?賞賛は素直に受けるのが大人の女性だと思いますよ?」
「分かってるわよ!あと胸見ながら言うんじゃないわよ、ぶっ飛ばすわよ?!」
「私も……お役に立てたんでしょうか?」
「……むぐ……ないす……まほう」
「はい!ありがとうございます!!」
各々が各々を労いながら(シロは何か食いながらだし、セリエとティアは至近距離で睨み合ってはいるが)今回の勝利を喜び合う。
俺一人じゃこうは行かなかった。じゃあ、この中の誰か一人でも欠けていたらと言う考えでも同じ。シロ、リリーナ、ティア、セリエが揃って初めて手に出来た成果に、言葉にならない達成感が胸に広がった。
リリーナの言葉じゃないが、俺でも皆の力に……なれたと思って良いのかな。
「しっかしアンタもタフねー。この中で一番動いてんじゃない」
「流石男の方と言った所でしょうか?こんな頼り甲斐は他に見た事ありませんよ」
「クロさんは少し休んでいて下さい!警戒は私がしますから!」
「……これ……くえ」
……なれた、みたい……だな。
こんな魔法も使えない俺でも、皆の力になれると言うのは嬉しもが!シロ、俺の口に食べ物突っ込んでくんな!?
詰め込まれた食物を苦労して咀嚼し、飲み下すと同時に首謀者の首根っこを掴んで説教を始めようと息を吸い込んだところで。
「あら?……これがヒュドラを倒した報酬でしょうか」
セリエが呟き、俺達の視線を空に導く。
「うわぁ!?」
「キレイ!……けど、アレって何が光ってるワケ?」
「調査は後で存分に致しましょう」
嵐が晴れた俺達の頭上に煌めくのは、雲一つなく見渡す限りの夜空の星々……に、似た何か。
此処は城の中だから本物の星では無いだろうが、俺達が普段目にする星に見劣りしない景色が俺達の勝利を祝福してくれている様だった。
「くろ……あれ……なに?」
「ん?」
花より団子、空より地面……いや周りを警戒してくれていたと考えたいシロが指差す方角には……何かが落ちてる?あの場所は確か、ヒュドラの頭が落ちた場所か?
だとすれば『落とし物』?
「あれが本当の……ヒュドラを倒した報酬か?」
「え!?どこどこ!?」
「位置的に、最初の方に落とした頭でしょうか?」
夜空(室内だが)鑑賞を切り上げて、全員でその場所に向かってみると道具が三つ。
頭骨に牙、あと……紫色の液体が入った瓶?これって……。
「『ヒュドラ』の毒か」
「十中八九そうでしょうね」
液体と言っても、入ってる容器を傾けるとやけに遅く揺れる……粘度の高い物で、これを入れてる瓶がヒュドラの毒液で溶け出しそうな気もするが、『落とし物』にそんな心配も要らないか。
セリエの意見と合致したのは良いとして、これらの道具は使い道あるの?
「誰か『鑑定魔法』って持ってる?」
「私は持ってないです、……すいません」
「謝る必要なんてありませんよ。持っているのは専門職に付いてる者くらいでしょう」
確かに。
他の街や国では結構優遇されてるみたいだしなぁ。けど、俺は家に帰れば調べられる。
「とりあえず持ち帰って調べてみよう」
「……は?」
「……どうやって?!」
セリエはともかく、ティアが驚くのは意外なんだが。
「じいちゃんが遺した魔道具に『鑑定』が出来るものがあって、それで調べれば名前と効果は分かる」
「はー!?何それ初耳なんだけど!?」
「じいちゃんが自分で持ち帰った物を調べない訳がないだろ?『呪い』とか『祝福』が着いてても多分出来るぞ」
「もしかして……前に魔物の『核』を調べた時も?」
「あぁ」
「……アルファスが聞いたら飛んで来そうですね」
まぁ、調べるには色々……準備や魔道具が必要だけど。
サヴラブの死霊術も分かった位だから大抵の物は調べられるだろう。
偉大な蒐集家は手に入れた物の事は自分で調べなきゃ気が済まなかった。そんな道具を使わなくても魔法を使えば解ったんだろうが━━
『こうした方が、何かカッコいいだろ!!』
と、効率を重視せず、見栄を張って自分で魔道具を作っては調べてを繰り返し行なっていた。……その魔道具や設備があるお陰で、俺もポーション関係が作れているんだけど……変わった《英雄》だったよ、五百神灰慈は。
「その話、とても興味があるので後日改めて。今は少し休みましょう……シロさんも限界の様ですし」
「……(くぅ)」
シロの腹の虫が鳴った……さっきから静かだったのは少しでも行動や言動を減らして熱量消費を抑える為か。……いや、さっき何か食ってたろ。だがこの先を考えれば皆の休息は必須、となると。
「嵐も去った。この辺りで一度しっかり休もう。俺は周辺の探索を━━」
「休息が必要なのはアンタもよ」
「そうです!一番動いてるのはクロさんなんですから!」
「……だが━━」
「周囲の探索や警戒は既にアモンに任せてます。さ、先ずは場所を決めましょう?」
「……くろ……やすめ」
「━━分かった」
皆の優しさに自分が包まれてるのを噛み締めながら、甘えさせて貰うけど……俺は皆程活躍も出来てない気がするんだよな。
セリエが魔物の戦利品を自らの『収納空間』にしまうのと同時に取り出したのは……コテージ。
開けた場所に、場違いな山小屋が建った!?
すげぇ……俺の『帯袋』の総量なんて比べ物にならない物が出て来たよ。
戻ったアモンが、他の外敵も居なそうとの報告をセリエが受け、食事と仮眠を取る。
外泊……と言うか、冒険をやってる人はこれが日常茶飯事なんだろうなぁ。
そう思うと少し……感慨深い。
※※※※※※
「VOF!」
「あれか」
全員が休息を入れてる間にアモンが見つけて来た、上への階段。
現在地は五階……この塔、城がどの位の大きさか分からないから残りを逆算する事も出来やしない。エルさんにもっと内部の情報を求めれば良かった……教えてくれなそうだけど。
俺達に与えられた三日と言う時間も、既に三分の二が経過している。
今回の探索が成功するか、それとも失敗するか……ここからが勝負だ。
「ご苦労様、アモン。少し貴方も休みなさい」
「WAF!」
そう言うなり、アモンがセリエの体に溶け込み、彼女の腰には細い腰鎖が身に付いた。
あれにアモンが入ってる……魔道具……なのか?
『オルタンシア帝国』の魔道具は、設計や意匠と言った装飾が何ていうか……芸術性に溢れているな。あの腰鎖も多分アルファスが手掛けた物だろうけど、ガドガさんと会わせたらとても楽しい時間になりそうだ。
「暫しアモンは休ませます。お任せしても?」
「……げんき……ばくはつ」
ビッ!と親指を立て任せろと言わんばかりのシロ……そりゃ……セリエが持ってきた食料の半分を平らげ、一人だけ交代が来ても寝続けたんだから元気が爆発してくれてなきゃ困る。
まだこの城がどこまで続くのか分からない上に、残された時間も後わずか。
それに……この【強欲】の魔王城には聞くところによれば『爬虫類型』と『設置型』が出るらしい。
今まで出て来ているのは『爬虫類型』のみ。この先にはそれに加えて硬さに定評がある『設置型』……ゴーレムだの、ガーゴイルと言った魔物が出る事が予想される。気を引き締めなければ……。
「よし……行こ━━」
「KAAAAA!!」
へ?
今までずっと上を見ていたヤタが急に、入っていた籠から飛び出し、俺達を置いて先行し出した!?
ちょっと!まだ魔物がいる可能性が!?
「ヤタ!」
「急にどうしたの!?」
「お、追いかけましょう!?」
セリエの声も聞く耳持たず、全員ティアと同じ感想を持ち、リリーナの言葉で行動を再開する。……が、それほど登らない距離を飛んだところでヤタは静止していた。
その目の前には……壁?




