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異世界の英雄はもういない  作者: 天山竜
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3-12.根付く『桃嵐』

 張られた結界から飛び出して一気に加速する。

 

 「JYAAAAAAAAAA!」


 俺達を捕捉した『ヒュドラ』が自分の周りの嵐を更に強めた!

 くぉ!だが……こんな事で止められると思うなよ!?



 「……ぐれい……ぷにる!!」

 「【鋭利護符(シャープ・シール)】【炎の石(フレイム・ストーン)】……【月輪】!!」

 


 シロが傍らで自らを強化。

 俺が『月輪』に鋭さと炎を纏わせ、ヒュドラに向かって投げる!


 「ふっ!!」

 「JIAA!?」


 風を切り裂き、炎刃と化した『月輪』がヒュドラの首の一つに食い込んだ。

 切り裂けない!?さっきより防御力が上がってる?『力の種(パワー・シード)』使って『護符』も『石』も加えたんだぞ?

 コイツ……再生する度に強くなってる!?

 だが目的は時間稼ぎ、切り裂けなくても良い!!

 

 「戻れ!!」

 

 ヒュドラの首を落とそうと回転数を上げ喰らい付いていた『月輪』に指示を飛ばし、手元に戻す。

 それを見た他の首が……敵意と殺意を漲らせて俺に狙いを付けて殺到する!?



 「【ぐるああああああ!!!】」



 巨大な顎を開いたまま、ヒュドラが一瞬の硬直。

 『グレイプニル』を使用し、強化されたシロの『スタン・ボイス』がヒュドラに噛み付く!

 出来た隙を見逃す手はない!?

 

 「【月詠】!!」

 「【グルルル】……がぁぁぁ!!」


 考えを同じくした俺とシロの攻撃がヒュドラの胴体で重なる!

 俺の『月詠』とシロの『ウルフ・ネイル』がその巨体を斬り付ける。見た目、かなり深い傷を負わせられた。証拠に傷口からは夥しい出血も確認出来た……だが、既に殺意だけがヒュドラを支配しているのか呻き声も上げずに俺とシロを睥睨する!?

 

 「JI……JIAAAAAAAAAAAAAA!!!」


 シロの技能(スキル)に因る拘束が解けたヒュドラの九つの首が、俺達に殺到して来た!

 先程までとは段違いでその速度が上がってる?!


 「離れ━━」

 「【ボルテクス・オーブ】……【パーティー】!!」


 俺がシロに向かって指示した声を出し切る前に……俺達の周りに風の球が、俺達を護る様に発生……って……多っ!?

 リリーナの魔法『ボルテクス・オーブ』はこんな大量に出せるのか?!


 「JAAA!?」


 それに触れたヒュドラの頭が弾かれる。

 これまで見てきたこの魔法は俺達を進行方向に加速させる位の認識だったが……こんな使い方もあるのか?!

 ……腕を上げた……なんてレベルじゃない。

 うかうかしてられないぞ、妹よ。


 「行くぞ」

 「……ん」


 リリーナが俺達の周りに出してくれた風玉を踏み抜き、ヒュドラの膝下から離脱し、シロと別方向に走り始める。

 見ると、ヒュドラの周囲を囲うように『ボルテクス・オーブ』が大量に現出している。

 これは……風玉の「檻」か。

 多分、それぞれの風玉に方向(ベクトル)が設定されているんだと思う……リリーナの魔法力が上がり威力も数も段違いで増している。支援(サポート)の面でこんなに頼れる味方が居るってなんて心強いんだ。

 別れた俺とシロに、首がそれぞれ三本……そして、悉く自分の邪魔をしたリリーナに向けて残り三本の首が毒吐息……いや毒の光線の体勢に入ってる!?

 

 「リリーナ!」

 「【光の砂糖を風で集めて、出来た衣は繭になり私達に食べられるのを待っている】」


 俺も三本の首に追い掛けられてるから助けに入れない!?

 リリーナが魔力を編んで『シルク・ヴェール』の準備を進めてるが、防ぎ切れるのか!?

 

 「JIYAAAAAAAAAAAA!!!」

 「【シルク・ヴェール】!!」


 ヒュドラが毒光線を放つのと。

 リリーナが魔法を展開するタイミングが一緒。

 耐えて……な!?

 毒がリリーナを飲み込んだ……と思われたが、周りに逸らされてる!?

 目を凝らせば『シルク・ヴェール』がリリーナを包み込み、頂点を『ヒュドラ』に向けた円柱型に。そうか、「受ける」のではなく……「流す」形を作ったんだ!!

 多分あの羽織外套(シクロス)の効果もあるとは思うけど、リリーナの魔法自体が全体的に強化されてる?!

 

 「ぐうぅぅぅ!!」

 「JIAAAAAAAAAAA!!」


 だが、ヒュドラが吐く毒の勢いが弱まる事がない。

 くそ!何とかしなきゃ!?

 その時……前方に浮いてる『ボルテクス・オーブ』を発見。

 それを隔て、前から走って来るシロと視線で合図(アイコンタクト)

 

 「「「「「「JYAAAAAAAA!!!」」」」」」


 俺達の背後から計六本の頭が口を開けて迫って来た。

 ここだ!!!

 バッと飛び上がり『ボルテクス・オーブ』に向かって飛ぶ。

 同じ様に、同じ風玉にシロが飛び付く。

 今、俺達が走ってるのは外周。内周の『ボルテクス・オーブ』が外に弾くなら……外周の向いてる先は!

 天啓の様な考えに従った俺達を飲み込んだ風玉が、勢いよく━━()()に向けて射出!そして俺達を追っていたヒュドラの首が……。


 「「「「「「JGYAAAA!!!」」」」」」


 飛び出した俺達の勢いに着いて来れずに纏めて正面衝突。

 この捻出出来た時間で……。


 「シロ」

 「……ん」


 お互いの足裏を合わせ別方向に軌道転換……狙うのは……。

 

 「おおおおおおおおお!」

 「がああああああああ!」


 リリーナに向けて毒を吐き続けていた三本の首。

 その内、右側で大口開けてる一本の頭を『月詠』の剣脊で全力で叩き、毒の軌道を中央へ。

 左側に陣取っていたヒュドラの頭はシロが殴り飛ばし、俺と同じく射線を真ん中に逸らす。

 さすが……俺の意図を汲むのが上手い。

 リリーナに向かって吐いた毒の光線を……自分でも受けてみやがれ!?



 「JIYAAAAAAAAAAAAAAA!!」



 左右から自らの毒吐息を受けたヒュドラの頭が溶解……コイツの毒、本気で威力が高いな!?

 毒の耐性を持っているとは言え、殺意に満ちた自身の攻撃を受けた首の一つが腐って落ちた。放って置けば、またさっきみたいに根元から噛みちぎって再生される。

 なら、他の首も『月輪』で頭を斬り飛ばして時間を更に稼ぐか?…………いや!

 

 「【アタシの呼び声に応えろ精霊】」

 「【この想いを届けて】」


 ティアとセリエの起句が辺りに響く。

 魔力を感じ取れなくても、その高まりが大気に伝播し俺の肌を震わせる。

 来た!?

 

 「シロ!リリーナの所へ!!」


 ヒュドラの近くに居たらヤバい!!

 駆け出し、急いでリリーナの近くに行く俺とシロ。その間も……詠唱は続き、ドンドン魔力が高まって行く!? 


 「【音を引き連れ光を纏い、閃光と化して現れよ。その力の全てを差し出し命を聞け】」

 「【無限の時を寄り添い、永遠の時を共に過ごしましょう。この身、この心、この全てを捧げる愛を此処に誓う】」


 自らに迫る危機を……周りに溢れ出る魔力を肌で察知したのか、ヒュドラが自切に依る回復よりも、自分を守る事を優先し、嵐の壁を強固にして展開した。

 目に映る位、強められた豪風は並の武器や魔法では切り崩せる気配が無い。

 

 「……!あれでは魔法が!?」

 「いや、大丈夫だ」

 

 リリーナが作ってくれた簡易塹壕(シェルター)の中で切迫した声を漏らす。

 仮に、あの嵐の壁が『アダマント』級の堅牢さだとしても……。


 「あのヒュドラが出した防壁は言わば竜巻。外から中に行くのは容易じゃないが……」

 「……まんなか……がらあき」


 そうだ、その壁じゃ……上から降るティアの雷は防げない!

 


 「【神鳴(カミナリ)】!!!」


 

 目を焼く閃光がヒュドラを包み込む。

 防衛本能に逆らわず目を閉じ、開けた時に映ったのは……黒焦げになった多頭の大蛇。

 原型を留められているのは奴の魔法防御が高い証拠か?

 だが追い討ちを掛ける様に……。



 「【冬の牢獄(イヴェール・プリゾン)】!!」


 

 続くセリエの範囲殲滅魔法。

 瞬く間に氷の彫像と化したヒュドラ。

 この2人が組むと……ホントとんでもない結果を出して来るな!?

 やっぱ━━魔法って凄いわ。


 「ど……どんなもんよ!」

 「流石に……疲れました」


 お互いに極大魔法を放った2人が俺達に合流した。

 ティアの『神鳴』はヒュドラを満遍なく焼き、セリエの『冬の牢獄(イヴェール・プリゾン)』が傷口どころか存在そのものを氷漬けにした。

 この凄まじい魔法の前に沈黙しない敵はいないだろう。


 「……すげー」

 「すすす凄まじいですね!?」

 「ふふん!でしょ!!」

 「私にかかればこんな物です」


 シロとリリーナが目の前の光景に興奮し、ティア・セリエが『マジック・ポーション』を飲みながら胸を張る。

 いや、2人が胸を張るとその凹凸が顕著に……。


 「……何考えてるの?」

 「後は砕くだけだと」

 「アンタの頭蓋骨も砕きましょうか?」


 電光石火の間に俺の目の前まで来たティアに胸ぐら掴まれたぁぁ!?

 何も見てない、考えてない、感じてないです!?!?


 「まぁ私とティアさんの胸囲の差は置いておいて」

 「置いとかないでよ!重要よ!?」

 「まだ嵐が続いてると言う事は……」

 

 そう……嵐は弱まったが、まだ止んでない。

 ヒュドラはまだ……生きてる!


 「あの状態で!?」

 「……もう……げんかい」

 「壊すだけならもう一発……!」


 一歩前に出たティアの肩を掴む。

 多数あるとは言え『マジック・ポーション』も有限だ。

 まだ先があるかも知れないし、皆の魔力を温存しとくに越した事はない。

 氷漬けのヒュドラの周りには、まだリリーナの『ボルテクス・オーブ』が無数に存在してる。

 それを使わせて貰おう。



 「後は俺がやる」




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