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異世界の英雄はもういない  作者: 天山竜
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3-10.『怪物』強襲

 

 上に向かう階段で休んでいたリリーナ達に追い付けたのはそれから二時間後。

 道中、『スタミナ・ポーション』が大活躍だったな。

 で、皆が俺を慮って小休止を入れてくれているのだが……。


 「何でアンタがお姫様抱っこされてたのかイイ加減教えなさいよ!?」

 「ですから、魔力を温存し、皆さんに追い付く為にクロさんが申し出てくれたと何度も言っているではないですか……ふふ」

 「くーっ!……アタシ、今後絶対に暑さに強くなるから見てなさい!?」

 

 君ら、延々とその話をしてるね。

 俺が言い出したって所以外は全部本当の事なんだけどなぁ。


 「シロはもう平気か?」

 「……ぜんかい……でも……せりえの……あれ……きぼう」

 「大丈夫そうだな」

 「クロさん、もうお水飲まなくて良いんですか?」

 「あぁ、もう大丈夫。ありがとう」


 シロもティアもすっかり本調子、此処まではリリーナとアモンが頑張ってくれたみたいだ。

 一階から二階までの間、それに今腰を下ろしている二階から三階までの此処。どうやらこの階段付近には魔物が寄り付かないらしい。……こんな、安全地帯(セーフティゾーン)を作る利点が分からないが、これが【強欲】の《魔王》の趣味なのか?

 

 「ヤタ……まだ上か?」

 「KA」

 

 連れて来たヤタが変わらず上を見ている。

 そりゃ現在地はまだ二階だから。外から見た感じ先は長そうだけど……此処は一体何階まであるんだ?

 一つ一つのフロアの天井は高いし、百階!とかはないとは思うんだけど……思うんだ……けど。

 ……行かなきゃ分からん!

 よし!?


 「先に進もう」

 「あの抱かれ方、大事にされてる感じがして良いですね」

 「クロ!アタシにもお姫様抱っこ!!」


 先進むって言ってんだろうがそろそろ気持ちを切り替えろぉぉぉ!?

 



 それから━━



 三階……打って変わって豪雨の階。

 横殴りの激しい雨で視界も悪く、魔物が出て来ても匂いが流され、シロやアモンの鼻が使えない。苦戦するかと思いきや、セリエの魔法で雨を凌ぎリリーナが探知し、ティアが襲い来る敵を射落とし撃破。

 ……俺の活躍の場が全くなかった。



 四階……灼熱の階。

 二階のじっとりとした暑さはない為か、此処ではシロが普通に動け、率先して戦いに参加。本人曰く、「この……あつさ……きらいじゃ……ない」らしい。まぁ暑さ全般に弱いらしいティアは再びふらつく(グロッキー)状態だったけど。

 三階も四階も、魔物の数は多いけど『アダマン・タートル』級の敵は居なかった。やはり、奴が特別だったのだろうか?



 そして……五階。

 入った瞬間、俺達に襲い掛かるのは━━暴風。

 


 「この風、どこから来てんのよ」

 「これが「台風」と言うものでしょうか!?」

 


 ティアがバサバサ靡く髪を抑えながら呟き、その言葉を受け取ったのは何故かテンションが高いリリーナだ。

 台風……じいちゃんの話では向こうの世界で何度も起こった天変地異の一つだったとか?

 確かに進もうとしても、風が強くて前に進み辛い。

 加えて、三階と同程度の豪雨が風に煽られ更に強く感じられる。柱や壁に被害がない様だが、この天気はどうなってんだ?

 目の前に広がる人工物が朽ちた街━━『廃墟』に響くのはそれを叩く雨音のみ。


 「もしや……『魔城灯』が城の中で機能しているのでは?」

 「……どういう……こと?」

 「本来、『魔城灯』は魔王領の天気、天候を操る魔道具な筈。ですが作用する場所が無くなった『魔城灯』が、城の中のみにその効果を発揮している可能性は考えられません?」

 「確かに。それならこれまでの階の異様な様子も頷けるか」


 あまりに音がうるさいので、セリエとリリーナが音と雨を凌ぐ簡易的な結界を張って貰い、こうして話しが出来てる一幕で浮かび上がった疑惑。

 ……セリエの言う通り、範囲が城の中だけならその効果が絞られ、異常気象でも起こせそう。

 だが、元からそう言う仕様なのか?それとも暴走?あるいは……。



 「この城の何処かに……『魔城灯』を操作する奴が居る?」



 俺の声がやけに響いた。

 

 「もしかして……まだ《魔王》が生きている……とか?」

 「いや、それはない。【強欲】のガロンはじいちゃん達が確かに倒した。それはエルさんも証言してくれている」

 「では……別の誰かがこの城に住み付き『魔城灯』を操作しているのでしょうか?」

 「此処はユグさんの領域だ。その可能性も低いとは思う」

 「元々このお城に居た人では!?」

 「ガロンに付き従ったのは知性の無い魔物だとセリエが言っていたな」


 ティア、セリエ、リリーナの意見を一蹴しといて何だが、操ってる奴の目処が全く立たない現状は……かなり怖い。

 

 「『魔城灯』を使うのに魔力は必要なのか?」

 「お母様に聞いた話では起動と補充の時のみとの事です。ガロンが討たれてからかなりの年月が経っていますから補充もなく作動し続けるのは難しいかと」

 「それでもこんな天候が続いているのでしたら……やっぱり誰か居るんでしょうか?!」


 分からない。

 誰がも、何の為にかも。


 「……いけば……わかる」


 そう言ったのは辺りを物珍しそうに眺めていたシロ。


 「……いく……しか……ない」

 「そうだな」


 分からない事をあれこれ考えていても仕方ない。

 俺達の目的は『魔城灯』を持ち帰る事だ。

 交渉出来る相手が望ましいが……今は立ち止まってる場合でもないし、時間も限られている。

 『月詠』抜き放ち、暴風雨が吹き荒れる先を切先で指す。


 「進もう」

 「そう来なくっちゃ!」

 「話し合いが出来なければ戦いましょう」

 「で、できれば穏便に……」

 「……そのまえに……ごはん」


 ここで!?この状況で!?お前が行こうって空気にしたんだけど!?

 シロの言葉に皆の緊張が弛緩した……その一瞬。


 「待って下さい!?何か来ます!!」

 

 何だ!?

 辺りを警戒してくれていたリリーナが警鐘を発した。

 次に襲って来たのは……衝撃!?


 「ぐっ!?」

 「「「「クロ(さん)!!!」」」」


 俺だけが何かに吹き飛ばされ、結界の外に出て風雨に晒される。『月詠』でガード出来たからダメージはないが、精神的な衝撃は隠せない。

 何だ……何が起きた!?

 風に攫われて来た何かにぶつかった?……違う。明確な敵意を持った何かが俺に打つかって来たんだ!その発生源となる……俺達が進むと決めた先を見ると……巨大な影が鎌首を擡げた……その数、九つ!!



 『魔物図鑑』で観たぞ、あれは!?



 「……『ヒュドラ』!?」



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