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異世界の英雄はもういない  作者: 天山竜
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2-27.『英雄』は答えない


 ガドガさんの工房は母屋から少し離れた裏手にある。

 主人がいる時には槌が鉱物を打つ音が心地良く響いて、向かう時にいつもワクワクしている。

 そんな歩き慣れた道を通って、工房の扉をノックした。

 

 「開いてるぞ」

 「失礼します」

 

 開けた先にいた亜澄さんが此方を振り向いてる。

 彼女の目の前には壁に掛けられた『月詠』と、リリーナの剣『咲耶』が飾られている。俺達が買い物に行ってる間に産みの親であるガドガさんが整備をしてくれていた。


 「此処では私の方が客人だ。そんなに畏まる必要もないだろ」


 苦笑しながら彼女は言うが、女の人が一人居るところにノックも無しに入る程、俺の神経は図太く出来てません。

 自分の弱さを曝け出す必要もないし、話を変えておくか。

 

 「何をしてたんですか?」

 「……あぁ、良い剣だと思ってな」

 「どちらもガドガさんが打った剣です」

 「らしいな。どちらも用途が違い、センスがいい」


 うーん、自分が作った物ではなくてもガドガさんの仕事が褒められるのは嬉しいな。しかも相手は《魔王》。


 「『咲耶』は魔法を使う者に取っては最適だ。属性も合わせられるし刀身に纏わせても耐えられる」

 「へぇ」


 俗に『魔法剣』と呼ばれる技術だな。

 じいちゃんから見せて貰った事があるが、普通の武器だと材質が耐えられなくて折れたり崩れたり、そもそも魔力が伝導しないらしい。さらに、その材質の属性が合わなければ武器に魔力を通しても、魔法が発動しないそうな。

 「剣」ではなく、「杖」は元々魔法を使う目的で作られている為、物理的な攻撃力はないが魔法を使うには最適。だが、『咲耶』は違うとの事。


 「これなら杖と同じ様に魔法を行使出来るし、どんな魔法にも耐えられる」

 「リリーナにピッタリって事ですかね」

 「そうだな、あの娘は魔法適性が異様に高い。ゆくゆくは他の属性も使える様になるだろう」


 す、すげぇ。

 今でさえ二属性……「風」「光」の精霊に愛されてる。

 『半精霊』と言う事実は知ってたけど。亜澄さんからのお墨付きになった。

 じいちゃんみたいに全属性を操る様になったりするのかな?

 

 「それと……この『月詠』。クロはこれに使われている材質を知ってるのか?」

 「えぇ。『ルナタイト』ですよね?剣の形状変化に耐えられる唯一の鉱石だって聞きました」



 『ルナタイト』━━じいちゃんが何処かで手に入れていた鉱石。

 材質が堅いだけなら他にも『ミスリル』や『アダマント』等、他にもあるらしいが、柔らかく堅いと言う別方向の性質を兼ね揃えた鉱石はガドガさんですら見たのは初めてと言っていた。「幻の鉱石」と言い伝えられていた、伝承や噂話が出てるって事は、他にも手にした人がいるんだろうけど……少なくとも俺はこの剣でしかその存在を知らない。



 「そう。ベースに使われている『ルナタイト』も珍しければ、その核になる……」

 「……?まだ珍しい物が使われていたんですか?」

 「……いや、追々知っていく楽しみを私が奪う訳には行かない」


 えっ!?他にも何か使ってるの!?

 ニヤッとしてる亜澄さんが気になり過ぎる!!


 「そう言われると気になるんですが」

 「自分で調べるのも一興だぞ」


 ぐっ、そう言われると何も言えない。

 だが……確かに教えられているだけの知識は身に付かないとじいちゃんも言ってたし、知りたければ自分で調べるか。今まで普通に使っていた『月詠』の成り立ち……興味が出てきたな。


 「それはそうと、私に何か要だったんじゃないのか?」

 「あぁ、買い物が終わった報告と聞きたいことが」

 「なんだ?」

 「亜澄さんは『魔城灯』って知ってますか?」

 「知っている。私の国でも使っているからな」

 「それは複数ある物でしょうか?」

 「いや、私が……と言うより複数持ってる奴がいない特殊な道具だ。《魔王》領周辺の天候を操作し、環境を整える物だがら数自体が多くない物だ」


 はい、消えたー。

 一城に一つどころか、一国に一つの道具じゃねーか。

 『魔城灯』を分けて貰うって事自体が無理だったな。


 「何だ?国でも作るのか?」

 「違いますよ。実は……」



 亜澄さんが工房に居た間に起こった出来事を説明中。



 「なるほどな。確かにその中なら『魔城灯』が難度としては幾らかマシか」

 「でも、それが亜澄さんの国に一つしかないなら、『世界樹の枝』に関してユグさんに聞いてみますよ」


 普通の樹なら自然に折れる事もあるだろうが、『世界樹』もその限りなのか?ユグさんの本体を自ら折って……なんて事はあんなバカ息子の為にはさせたくないし。一応、他の魔物の事も聞いてみるか。



 「それなら『魔城灯』を()()()行けば良いのではないか?」



 ……は?


 「いや、その辺に落ちてる訳でもない物ですよね?」

 「落ちてるかもしれないぞ?」

 「どう言う意味ですか?」

 「何だ知らなかったのか?」


 だって、その領地の天候を操作する道具でしょ?まさかこの森にもあるのか?



 「この場所は元《魔王》領。今はもう居ない……【強欲】の城の近くだろう」



 ……え?

 【強欲】って確か。

 【最強】五百神灰慈……じいちゃん達が倒した魔王のって、事?


 「いや、聞いた事がないですが」

 「確かこの森を創ったのはユグドラシルだろう?今は【強欲】ガロンが使っていた城も何処にあるか分からないが、もしあるなら『魔城灯』も残ってるんじゃないのか?それを聞いたら良いだろう」

 

 ……ん?

 確かに、ユグさんとじいちゃんが共同でこの『賢者の森』を創ったのは聞いていた。

 けど……此処って元々《魔王》が居た土地だったの?

 でも城どころかそんな面影なんて何処にもないじゃん?

 ……おい、ユグドラシル。

 そんな話は聞いてない。

 ……おい、クソジジイ。

 それってかなり大事な事じゃない?

 確かにこの森の近くに大きな国はないし、一夜にして広大な森が出来ても驚いたのは『ヘルバ』の人々くらいと聞いていたが。

 え、じゃあその肝心の【魔王城】は何処にあるの!?

 自分自身の事も知らなければ、自分が持ってる剣の事も分からない。

 それどころか住んでる土地の事すら教えられてないってどう言うこと!?

 大事な事は自分で調べる。それはわかるが……。



 重要な事は前もって知らせておけよ!?

 このクソジジイぃぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーー!!!



 頭の中の叫びに応えるものはもう居ない。

 異世界の英雄は、もう既に何処にも居ないのだ。

 

 


一旦、2部まで終わりました。


読み返すとかなり……手直しが必要。

ちょっと時間頂きまして、3部へと行こうかと。

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