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異世界の英雄はもういない  作者: 天山竜
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2-15.『能力』の乱用

 

 亜澄さんはじいちゃんを助けたかった一心で。

 セリエが動いたのは形に問題はあれど母親である亜澄さんの為。

 2人共、自分の家族の為に動いていた。

 その部分に共感出来る。が、コイツからは……プルフラスからは自分の「欲望」以外何も感じられない。


 「敵の敵は味方では?貴方となら協力出来そうですが?」

 「ごめんだな。まだ彼女の理由の方が納得出来る」

 「別に貴方に納得して貰おうとは思いませんが?」

 「分かってる。だが先ずは……」

 「そうですね、先ずは……」

 「「お前に退場して貰う(貰いましょう)」」


 俺とセリエの指先がプルフラスを同時に差す。


 「良いでしょう、2人まとめて遊んであげますよ」


 意識を「説得」から「戦闘」に切り替える━━。

 気に入らない奴は全力でブッ飛ばせ。

 そう【最強】に育てられ、【最恐】に教えを説かれたんだ。

 先ずはその余裕面に……一発ブチ込む!!

 右拳を握り締めプルフラスに急接近。


 「速いぃ!?ひぇ!!」


 眼前に躍り出るとガラ空きの奴の頬を力一杯ぶん殴━━!


 「……なーんちゃって」


 ったと思ったら擦り抜けた!?


 「楽しんで頂けましたか?ではお帰りを」

 「この……!」


 突如背後に現れた気配から繰り出された蹴りを防御。

 しかしさっきと同じ様にその勢いは抑え切れず、またも後方に吹き飛ばされセリエのすぐ横で着地。

 アイツの魔法か?しかし詠唱なんて聞こえなかったぞ?

 

 「正直に正面から行くなんて、貴方は猪ですか?」

 「うるさい」


 すいませんね!?

 迂闊に近付いて返り討ちに遭って戻ってくるとか……ちょっと恥ずかしいわ!!

 

 「あれは何だ」


 恥を誤魔化し、ついでに先程の現象について隣に並び立ったセリエに問いかける。

 先程攻撃を受けた感じでは《魔王》である亜澄さんは勿論、セリエの方が断然強そうなんだけど。

 攻撃力はあれど速度はそんなに速くないし、アイツからは強者から出る「圧」の様な物も感じない。

 だが、さっきの動きはなんだ?

 魔法と言うよりも、セリエが使っていた『呪印』と呼ばれたものに似た感じが……


 「……何故貴方が私に気安く話し掛けて来るのかは後で問いましょう。厄介なのは奴の「力」ではなく、『能力(アビリティ)』です」

 「あぁ、なるほど」



 『能力(アビリティ)』とは。

 魔法や技能(スキル)と違うところは生まれ持った力と言うのが最大の特徴。かと言って魔法や技能よりも威力があるわけではなく、主に補助的な力が多いとじいちゃんから習った。

 となると、プルフラスの能力は幻術の類なのか?


 「彼奴の能力は『模倣(コピー)』。他人の能力を自分の物にしてしまう……何ともズル賢い能力です」

 「……そんなに脅威か?」

 「人間種に能力(アビリティ)の発現者は少ないでしょう。ですが我々魔族は能力を発現しやすいのです。現にオルタンシアの兵達は全員能力持ちですよ」

 「ちょっと待て。それって何人くらいの話だ?」

 「我がオルタンシア帝国の軍属は約千人、『魔人将』はその一握りですが」


 せ、千!?

 そいつらの能力を全部覚えていたとしたらアイツの能力は千個あるって事!?


 「どこまで兵の『能力』を盗んだのかは分かりませんが、周りからは【千変万化】と持て囃されて調子に乗っていた様です。が、実力はあります。何せ先代《魔王》の側近だった者ですから」


 先代の……それって確か、亜澄さんの元旦那?


 「私の魔法は『魔人将』に師事し、個々の能力を魔法でアレンジしたもの。ですがプルフラスのは盗品。オリジナルより精度は落ちますがそれでもその数は油断出来ません」


 つまり、何人もの魔族を相手にしてる感覚と言う訳か。

 確かに厄介な能力だな。


 「お話は終わりましたか?では、次はこちらから参りましょう。【分裂(アバター)】」


 ただでさえ面倒臭いプルフラスが2人になった!?



 「「行きますよ!!」」

 


 『月詠』を引き抜き、こちらに迫る一体のプルフラスを待ち受ける。

 

 「貴方に恨みはありませんが、死んでくださいね!」

 「お断りだ」

 「【巨体(ハルク)】!!」


 奴の腕が異様な速度で巨大化、これも能力か!?


 「せぁ!」


 プルフラスの腕と俺の剣が正面から打つかる。


 「ぬふふ、中々お強い━━ですが!」


 初めは右だけだった腕の巨大化は左手にも表れ、左右両側からの斬撃となって押し寄せる!?

 だが、追えない速さじゃない!


 「……ふっ!」


 『月詠』のまま、繰り出される攻撃をいなしながら思考する。

 能力(アビリティ)が多いのは確かに脅威、だがそれは「メリット」ばかりなのだろうか?

 一つの能力を持っていれば戦術の幅は広がるし、確かに魔法の様に詠唱は必要ないから使いやすくはあるだろう。また……技能(スキル)の様に威力はないが使い方を考えて行けば相手の油断を誘い易い。能力の特性や効果、または欠点を知っていけば闘いを有利に導くことが出来る。

 だが、今の状況は?

 そんなに……俺、不利になっているか?

 相手が2人に増えた、相手の腕が巨大化した。……それだけじゃないか?


 「まだまだ……行きますよ!【倍化(ダブル)】!!」

 

 奴が両手を振り下ろし、剣で受け止める……が、重い!?攻撃強化の能力か!?

 鍔迫り合いは部が悪い!

 正面に蟠る力を横に逸らし、側面へと抜ける。

 同時に『帯袋』から俺が細工した小剣を四本取り出し投擲!


 「むっ?」


 肥大した腕に四本の刃が刺さるが相手は露ほども痛みを感じない。

 けど、この()()()の真価は此処から。


 「中々速いですねぇ。ですがこの程度で━━」

 「【爆ぜろ】!!」

 「!?」


 俺の声を受け取った四本の小剣がキーンと耳鳴りに似た音を出した次の瞬間同時に、起爆!

 プルフラスの視界を炎と煙で塞いだ。

 『爆擲刀』━━棒型手裏剣(くない)に起爆符を巻き付けた俺の手作り魔道具。

 刃の部分はガドガさんに打ってもらった物だから鋼でも貫ける!!


 「くっ!小細工を━━」

 「能力自慢の様だが似た事なら俺も出来るぞ」


 その隙を突いて俺が『帯袋』から出したのは一枚の『護符』。

 『月詠』に装着し、未だ煙から抜け出せないプルフラスに向けて突撃した。


 「【衝撃護符(インパクト・シール)】」

 「こんなも━━のぉぉぉお!?」


 俺が繰り出した突きをその腕でガードしたプルフラスは衝撃波をまともに受けて後方に吹き飛んだ。

 この『衝撃護符』は攻撃効果を付属してくれるんだよ!


 「がはっ!?」


 森に生えた一本の巨木に背中を打ち付けられ、強制的に酸素を排出され苦悶するプルフラス。

 ここで……畳み掛ける!

 猛然と奴に向かって駆けながら『帯袋』から石を一つ掴み取って『月詠』にセット!


 「【炎の石(フレイム・ストーン)】!!」


 飛び上がり、石に声で入力……炎を纏った剣を叩き込む!


 「え、【逃避(エスケープ)】!!」


 地面に振り下ろされた爆炎の衝撃……くそ、逃した。

 気配を探れば……上!



 「……調子に乗るなよ……クソガキ共が!!」



 見れば、俺の攻撃を躱し切れなかったのか体の半分は焦げ、半分は……凍ってる?



 「貴方……そんな物もあったのですね」


 セリエのやけに涼しげな美声が背後から……ってマジマジと『月詠』を俺越しに覗き込んでる!?


 「形状の変化に、性質や属性を付与出来る武器……興味深いです」


 今戦闘中だから辞めて!?近過ぎて身体が触れてる!どことは言わないけど肩に当たってるからぁぁぁ!?


 「……元《魔王》の側近にしては歯応えがないな」

 「あぁ、だから言いましたよね?厄介なのは「能力」だと」


 セリエが姿勢を正し、プルフラスに向けて冷笑を向ける。

 遠ざかったセリエの身体。俺の神経が焼き切れるかと思ったぜ……ほっ。


 「お前ら纏めて殺してやる!」

 「口調が変わってますよ?もう冷静さを保てないのですか?」


 煽るな煽るな。

 しかし、これが元《魔王》の側近だとしたら人選がどうにかなっているんじゃないか?まだアロケスとか言う獅子顔の方が強かった気がするんだが……。


 「セリエぇぇぇぇ!……ふー、いけませんね。かなり取り乱してしまいまし━━」

 「乱れに乱れていましたよ?自分の力がそんなに弱いからってそんなに気を落とさないで下さい。皆分かってくれますよ……貴方が雑魚だと」


 ブチ!

 あ、プルフラス……キレた。


 「ブチ殺す!!!」

 「出来もしない事を連呼すると尚更弱く見えますよ?さて……」


 しかしこちらも……負けずに、静かに……キレている。

 地形が凍る怒りを露わにした亜澄さんと違って、周りの植物が物理的に凍る事はない。だが、生きてる者は分かることだが、体感温度が明らかに下がる。……さ、寒い。

 けどまぁ、そうだよな。だって━━



 「お母様に吐いた暴言、お前の死をもって償いなさい」

 


 家族を消すなんて言われたらそりゃこうなるか。


 「ぬふふ……ぬはははは!」


 空中に居るプルフラスが突然哄笑を上げる。

 何だ?とうとう気が触れてしまったか?


 「私が何故、前《魔王》の側近を出来ていたか分かりますか?」

 「興味がないですね」


 バッサリ行った!?


 「私は!あの方の影武者であり、有事の際には代わりになる事を命じられていたのです!!」


 セリエに一刀両断されたにも関わらず物ともしない!

 聞いてないのに語ったよ、精神つよー。

 まぁそれは良いとして、代わり?

 一国の主と言う立場の奴がそんなものを用意するのはじいちゃんから聞いた事があるが……それって容姿が酷似していないと難しい物なんだろ?大抵は実力がある人が魔法で姿を変えるのがセオリーらしいが、それでも真似れるのは姿だけ。力や魔法なんて類は変えれないからプルフラスが言った様な全権代理なんて力がない奴には無理だろ。


 「此方の方も思っていますが、お前程度の実力に付いてくる者などオルタンシアには……まして『魔人将(レメゲトン)』には居ませんよ?」


 考えを読むな!?

 考えたけど巻き込むな!?


 「ぬ……ぬふふ、そうですね。凡百の兵士ならそうでしょう……ですが!私には━━」

 「知能まで下がってしまっていたならごめんなさい?頭を強く打ち過ぎたかしら?」

 「いちいち煩い!!物言わぬ姿となって生涯黙れぇ!」


 煽りの天才がいるー!!

 アイツが言おうとしていたのは能力(アビリティ)……さっきまで使っていた【模倣】か?

 などと考えていたら、感情が爆発したプルフラスの身体から蒸気が吹き出した?!

 何をする気だ!?



 「【完全模倣(フルコピー)】!!!」

 


 溢れ出た煙が奴の周囲に集まり……収束して行く。


 「……この『魔力』は」


 セリエの呟きがやけに耳に残る。

 何だ……何が起こった。


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