2-14.『元凶』出現
「【静寂】」
その瞬間、彼女の周りから何かが消えた。……様な気がしたんだが、何をしたんだ?
「あははは!貴方の魔法は全て封じました!今自分に掛けている付与も、回復も、強化も!全て効果を失いましたよ!?この【呪印】の効果に依って!!」
ベッと控えめに出された彼女の舌には何らかの印がある。
そういえばじいちゃんが言っていた。
『魔法を使う者が何を一番恐れるか、それは魔法を封じられる事だ』
生活でも戦闘でも、生命線になるのが良くも悪くも魔法。この世界ではそれが封じられた途端に何も出来なくなる奴が多いとか。
彼女の言葉から察するに、あの舌の印には魔法を封じ、その効果を打ち消す力がある様だ。
━━でも━━
『……ま、お前には全く関係ない話だがな!』
「そうか」
「なっ!?」
恐らく切り札だったんだろう。
俺が素っ気なく返した一言に彼女が絶句した。
剣も、回復も、俺がやった事全部、魔法じゃない。そう……
「俺は、魔法が使えない」
「このっ!?【絶対──】」
その隙は逃せない!!
「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
生まれた停滞時間で一気に加速して彼女に迫る。
『双月』の刃を彼女の首筋に当て、停止。
セリエの狂騒は収まったらしく、俺をただじっと見つめていた。
「殺さないのですか?」
「俺に亜澄さんの子供を手にする理由はない」
「随分甘いのですね、此処で殺しておかなければまだ続きますよ?」
「そんな事をしたら亜澄さんが泣くだろう」
「泣いたりしませんよ?あの方は━━」
「泣くさ、絶対に」
「……」
家族が居なくなる辛さを、亜澄さんは二度……同じ人で味わった。
一回目は異世界で、もう一回はこの間。
これ以上、あの人を悲しませる事はしたくないな。
「子供でこの強さ、ですか。イオガミハイジはもっと強いと言う事でしょうか」
「少なくとも俺よりは数段強いよ、《英雄》は」
「……そうですか」
「貴女も本気ではなかっただろ?いや、本気が出せなかったと言った所か。闘い方が全て魔法を使う者向けだったし魔法の暴走がなければこの結果にはなっていなかったかもしれない」
もう大丈夫だな。
首に当てていた刃を引き『月詠』に戻す。
……また襲って来るなんてこと、ないよな?
「貴方、戦場でそんな事をしていればいずれ死にますよ?」
「そんなものに参加する気はない」
確かに要らぬ情けを掛ければ寝首を掻かれる事があるとじいちゃんにも教えられた。
だが、少なくとも俺は。
「家族を守る為の力で、家族を傷付けたくはない」
「か、……家族?」
「亜澄さんの娘なら俺達は親戚だろ?」
何に動揺してるんだ?
いや、まぁそれよりも。
「一度、自分の母親としっかり話してみろ。これまでの事も、これからの事も」
「……神と話せと言っている様なものです」
「言ってない。神なんて曖昧な存在じゃないだろ」
自分を産み、育てた存在はそれに近しいのかもしれないが、もっと近い距離に居るべきだろ……親子は。
「でも……」
「亜澄さんもそれを望んでる」
「どういう事ですか?」
「どういう事も何も──ぐっ!!」
「え?」
ズドン!
重い衝撃と共に吹き飛ばされた。
何だ!?
間一髪、強い「悪意」を感じて防御、……し切れなかった!
腹に食らった鈍痛を無視し、その悪意の元に視線を移す。
「誰だ!?」
「何者です!?」
俺とセリエが同じ方向に、同じタイミングで声を掛けた。
「ぬふふふ。まさかセリエ様が《英雄》以外に負けてしまうなんて━━誤算でした」
何もない空間から1人の男が現れる……いや、人じゃない?
「あら、『魔人将』にも入れなかったはぐれ者が何の用ですか?━━プルフラス」
「誤解のない様に言わせて頂きますが、入れなかったのではなく入る気がなかったのですよ?」
プルフラスと呼ばれた男。
身体は人間だが頭は……鷹?
思い出すのは先日戦ったアロケス。あいつは頭が獅子だった……。
『魔人将』が何を意味するのか……亜澄さん達の国の軍隊か何か何だろうか?
そしてこいつは、セリエの言葉から国の奴なんだろう。
「それに……この地に《英雄》が居ると情報を流したのは私ですよ?もっと感謝して貰いたいですね」
「何?」
「お前は馬鹿なのですか?私はお母様が此処に飛んで行ったから知る事が出来たのですよ?」
「それそれ!アスミィ様が赴かれたと聞いたのは他の『魔人将』から聞いたでしょ。あぁ、ネコとカラスにも言いましたからあの2人も近くに来ているのでは?」
「……待て。それはアロケスとバルバドスと言う奴の事か?」
「おや、ご存知で」
つまり、この森に争いを運んで来た首謀者がコイツらしい。
「目的は何だ」
「勿論、皆様の願いを叶える為ですよ。セリエ様は《英雄》を殺したい、アロケスは強い奴と戦いたい、バルバドスはアスミィ様を探したい。そのお手伝いをさせて頂きました」
「そんな事をしてお前に何の得があると言うのです?それを笠に着て『魔人将』にでも取り立てて貰おうと?」
「いえいえ、恐れ多い。私はただ……」
プルフラスの空気が……変わる。
「新たな《魔王》になりたいと」
コイツ、何言ってるんだ?
「お前は何を言ってるんですか?その方が恐れ多いですよ?頭大丈夫ですか?お前の力程度で《魔王》を名乗れると思っているなら身の程を弁えなさい?その発言を死んで詫びなさい?」
ホント亜澄さん絡むと容赦ないなこの人!?
「怖いですね。ですがその意見も分かりますよ?幾ら強いと言ってもまだアスミィ様には勝てない事は認めます。ですが……それは排除してから考えましょう」
「お前が?お母様を?今ここでその首を落とせばそれで終わりですが?」
「御冗談を。セリエ様に出来るとお思いですか?」
「試してみますか?」
セリエの顔はにこやかだが纏う殺気が膨れ上がる。
やべー怖いがこのまま進ませる訳には行かない。
「ちょっと待て。その争いを何故この森に持ち込んだ。五百神灰慈には関係ないだろ」
《魔王》になりたいなら亜澄さんに直接挑めばいいだろ。
何でわざわざ他の奴に情報を漏らしてまでここにコイツは来たんだ。
「確か……貴方は《英雄》のお孫さんでしたか?血縁ならお話しましょう!」
白々しい。
この場で俺とじいちゃんの関係を話したのはセリエだけだ。
何らかの方法でセリエを見張ってたな。
「誠に遺憾ですが、今の私ではアスミィ様には及びません。ですがそれは万全の体制での話。もし……手傷を負い、そこまで行かずとも魔力を大量に失っていれば?結果は全く変わります。そこで登場して頂くのが貴方のお爺様、《英雄》と呼ばれたイオガミハイジ様になる訳です」
何か、段々ムカついて来た。
コイツは自分の目的の為なら他を犠牲にする事を喜々としてやる性根の様だ。
他力本願、自分の手を汚そうとしない奴に家族が使われた。
……コイツは……。
「『消滅の落暉』を引き起こしたお2人ならばその実力は拮抗しているに違いありません。《魔王》が討たれればそれでよし、討たれずとも戦えばそれなりに魔力も消耗するでしょう。そこで登場するのが私です!出来ない仕事は他に任せ、出来たものだけ頂いて行く。正に良い支配者だと思いませんか?」
「思わん。お前が「王」を名乗る国があるなら誰も従わない」
「従わせれば良いだけですよ。「洗脳」だろうと「支配」だろうと」
「良く分かった」
決定だ。
「お前は俺の『敵』だ」




