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異世界の英雄はもういない  作者: 天山竜
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2-13.『殺意』の動機


 彼女の言霊に導かれる様に、頭上の空間に黒い穴が空きそこから出て来たのは……。

 


 「KEEEEEEEEEEE!!!」



 炎の━━鳥?


 

 「紹介しますね、これが私の武器にして部下━━『フェネクス』です」

 「……魔物?いや、幻獣?」

 「半分正解、半分間違いと言ったところでしょうか。言いましたよね?部下と」


 召喚に応じたフェネクスと呼ばれた鳥がセリエの真上で羽ばたき旋回してる。

 離れた場所にいてもその鳥から発せられる熱を感知出来る事から……相性悪くないか?

 通常の考え方では火の属性を持つ魔物の弱点は水と考えられている。

 彼女の持つ属性と、あの鳥の見た目じゃ連携は上手く出来ないんじゃ……?

 

 「お察しの通り、私の剣術なんてお遊び程度の物ですが魔法に関してならそれなりと自負しています。そして、この子が私の力を引き出してくれる良き相棒なのですよ」

 「どう見ても相性は悪そうだが?」

 「さぁ、どうでしょう?」


 語るように、諭すように、言葉で翻弄しながら……その両手を炎の鳥に差し出した。



 「【宿りなさい】」

 「KEEEEEE!」



 セリエの声に反応した炎の鳥はその翼を広げ舞い降り、彼女を包み込んだ。

 『武器』それに『宿る』。

 そのヒントから導き出される答えは……!!



 「お待たせしました。これが【魔装・フェネクス】です」



 変わった。

 は?どう言うこと?

 生き物が装備に変わった事も疑問がある。

 が!何より属性が変わってるんですけど!?


 「その翼、さっきの鳥の物なのか?」

 「そうですよ?このフェネクスは装備者、私の属性に合わせて変化する知性を持っているのです。上を立てる良い部下と思いませんか?」


 炎を纏った鳥の翼は、彼女の言う通り水の翼へと変化していた。

 絶えず巡る水の翼はまるで羽衣。

 それを備えた彼女の姿はさながら天女……その美しさに目を奪われ……そうになってる場合か!?こっちは命を奪われそうだって状況だよ!?

 


 「では二幕を始めましょう」



 翼を広げたセリエがふわりと宙に浮いた━━来る!!



 「【絶滅(エクスティンクション)】【豪雨(アヴェルス)】」



 放たれたのは、目の前が青く染まるほど大量の水の羽!? 


 「【双月】!!」


 『月詠』から防御主体の『双月』に慌てて切り替え、迫る羽の雨を撃ち落とすが……数が多過ぎる!!

 致命傷にはならないが被弾も少なくない。

 守り切れなかった部分に羽が刺さり、血が滲んで行く!?


 「ぐっ!?」

 「空から降る雨を貴方はそうして避けるのでしょうか」


 上品に口元を隠しているが、眼下で踠く俺が滑稽なのか笑いが漏れてるぞ!?


 「舞踊の心得がないなんて嘘ばかり。とてもお上手ですよ?」


 やかましい!!

 お前のリードで振り回されるこの現状、覆してやらー!!


 「もっと行きますよ?」


 翼から攻撃が放たれるタイミングは一定だ。

 その数の多さに圧倒され、その羽ばたきの速さに驚かされたが……絶えずふり続ける雨じゃない!

 先ずは射線を外す!


 「あああああああ!!!」


 注がれる羽の雨を打ち落とし、居た場所からの移動を試みる。


 「ふふ、苦し紛れに行動しても……!?」


 じいちゃんから教えられたのは生き残る為の術。



 『利用出来るものは何でも利用しろ!意地汚く生きてみせろ!!』



 了解。

 此処が何処だか思い出せ。

 ここは俺を育んだ『賢者の森ワイズマン・フォレスト』。

 自分の家の庭なら、その全てを利用しろ!


 「森の中に……悪足掻きがお好きな様で」

 「雨の時は屋根があるところに駆け込めばいいだろ?」


 セリエの翼から放たれる攻撃の雨が苛烈さを増した。が……森の中に逃げ込んだ俺には、樹々に遮られてその雨が届かない。


 的を絞られない様に走り回りながら『帯袋』から『傷治療薬(ウーンド・ポーション)』を()()()取り出す。

 『液体(リキッド)』と『(キャンディー)』。

 今負ってる傷を液体で回復、反撃に備えて遅効性の飴を口に含む。

 魔法の中に『常時回復(リジェネ)』と言うものがあると聞いた時に思い付いた『治療飴ポーション・キャンディ』だ。

 あの雨自体は殺傷性がそこまで高くないから、受けた端から回復していけばまだ逃げれる!


 「ちょろちょろと……些か目障りですね」


 「羽」と言う形状から攻撃自体はフェネクスと言う『魔装』のものでも、「水」と言う特性から考えれば使用してる魔力は恐らく彼女のものだ。数、速度、範囲、威力。全てを考慮してあのランクの魔法を長時間使用出来る魔力が彼女にあるのか。《魔王》アスミィ=オルタンシアの娘であるならば可能性としては高い。だから……無駄撃ちをして貰う!


 「亜澄さんなら、俺に的を絞らないで範囲魔法で片を付けるんじゃないか?」

 「他人がお母様を語るな!」


 ━━?

 口調が変わった?

 てっきりじいちゃんと、このセリエと言う女性の間の問題だと思っていたが、もしかして亜澄さんが絡んでる問題なのか?事情は聞くだけでなく引き出す方法もあると何かで読んだ気がするが……少し突いてみるか。


 「母親と同じ様な魔法は使わないのか?それとも使えないのか?」

 「随分知った風な口を聞きますね」

 「一端は見たが見たが凄まじいものだった。流石は《魔王》と驚愕したよ」

 「ふふ、当然です。ですが、お母様の魔法は貴方の様な凡人に理解出来るものでは━━」

 「その娘の魔法にはそんな脅威を感じないけどな?」

 「…………そんなに死にたいのなら見るが良い」


 口調変わり過ぎ!



 「【この想いを届けて】!」



 やば、藪蛇ったか!?

 彼女の魔力が収束して行くのが空気で分かる。

 これは……デカい!



 「【無限の時を寄り添い、永遠の時を共に過ごしましょう。この身、この心、この全てを捧げる愛を此処に誓う】!」



 詠唱を何とか妨害したいが、羽の雨が止まず降り注ぐ!

 攻撃を継続しながら規模の大きな魔法の準備、魔力と集中力が半端ないぞ!?



 「【見返りは要らない。ただ変わらぬ姿でずっと私の側に居て】!」



 思い出すのは亜澄さんとエルさんの対峙した場面。

 魔法の行使をしようとした《魔王》の周囲は瞬時に凍り付き、影響は広い範囲に及んだ。ただ……それは地面に接していた部分の話。なら逃げ道は一つ。



 「【冬の牢獄(イヴェール・プリゾン)】!!!」



 空中しかない!?


 「くぉ!!」


 魔法の範囲から逃れようと後方に大きく飛び退る。

 俺を飲み込もうと氷の世界が凄まじい速さで迫る!!

 着地の度に足が地面に縫い付けられそうになるが何とか逃れる事、数回。

 セリエの周囲、約半径ニkmが極寒の地に早替わり。

 すごい寒いのに……俺の背中は冷や汗でびっしょりだよ!?


 「はぁはぁはぁ」

 「ふぅふぅ……ちょろちょろと……!」


 だが、逃走を敢行した甲斐あって彼女の魔力は多分ギリギリ。

 あの魔法の威力、本来ならあの程度じゃないだろう。

 怒りで集中が乱れれば、必要のない魔力まで消費する。それが魔法と言うものだ。詠唱に適切な、精霊が好む「想い」が乗っていなければ望む結果は得られない。

 フェネクスでの羽攻撃も同時に行っていた事もあるだろうが、……これは言わば「暴発」した結果。

 このセリエ=オルタンシアと言う女性は、《魔王》の『娘』と言う自分に何かしらを抱えているのではないだろうか。


 「親子揃って忌々しい……」

 「じいちゃんはもっと強い」

 

 魔力が尽きたのか、それとも節約の為か。空中に居たセリエが俺の前方、約20mの━━氷と平常世界の境界に降り立つ。


 「じいちゃんとの間に何が遭ったのかはもう聞かない。だが亜澄さんをそこまで想ってる貴女なら親を狙われた子の気持ちが分かるんじゃないのか?」

 「もう勝者面ですか……気が早いのでは?」

 「勝ち負けなんてない。挑まれた事に応えただけだ」

 「それなら、もう少し付き合って頂きますよ?」

 「何がそうさせる。亜澄さんとじいちゃんの(いさか)いは聞いている。だがもう解決したぞ?じいちゃんの事は亜澄さんも笑って許してくれた。あの2人の問題で怒っているならその必要はない」


 じいちゃん秘蔵の酒を呑み尽くし、姉は弟を許した。

 彼女、セリエが何に対して怒っているのかは知らないがその理由がもうない━━


 「お母様が……許した?」

 「?あぁ、じいちゃんとの事は笑って」

 「お母様が笑っていた?」

 「え?あぁ」

 「それが……それだけで……イオガミハイジを殺す理由には充分です!」


 は?なんだそれ!?


 「何故だ」

 「アスミィ=オルタンシアはこの世界で最も強く、美しく、気高い━━孤高の存在。それがたかが姉弟が現れたくらいで怒る?戸惑う?喜ぶ?あまつさえ、笑う?到底許せるものではないでしょう?彼女は、お母様は孤独で居る事こそが最も美しいのです!」


 歪んでる!?

 親子のコミュニケーション不足が変な方向にもつれて絡まり歪な形になっている!

 『育て方を間違えた』……亜澄さんはそう言っていたが、セリエはセリエで亜澄さんの教えに心酔し、その理想像を間違った方向に大きくし過ぎているんじゃないのかな!?


 「一度亜澄さんとちゃんと話せ。あの人はあの人で、貴女との対話を望んでいる」

 「……貴方に何故そこまでお母様は話しているのですか?」

 「何故も何も、じいちゃんの子供は自分の子供と笑って━━」

 「笑って?」


 ……しまった。

 じいちゃんが狙われた理由とは、多分亜澄さんがじいちゃんに対して「本気」で拘っていたからだ。

 真剣に話し、真摯に向き合い、『消滅の落暉』を起こすほどに全力でぶつかっていたからだ。亜澄さんが笑ったと言うのもさっき俺が伝えた時に聞いただけでもこの有り様……と、言う事はだ。実体験として亜澄さんに笑い掛けられた俺も━━


 「貴方も……殺しておく必要があると言う事ですね?」


 やっぱり~~~!!


 「なんでそうなる」

 「当然でしょう?イオガミハイジだけでなく貴方もお母様の心を乱す存在になってるなんて。あの親にしてこの子ありと言った所ですか」

 「俺達を付け狙う前にまず亜澄さんと話を━━」

 「問答無用!」


 セリエが右手に付けていた指輪を天にかざすと、パン!と音を立てて砕け散った。

 すると、淡い赤い光が彼女を包み込む。あれは……魔道具?   



 「【凄絶(テリブル)】【吹雪タンペットドゥネージュ】!!」



 魔力が回復してる!?

 声に反応した『魔装』フェネクスが翼を広げると同時、大量の「氷」の羽が俺に殺到!!


 「くぅ!!」


 おおおぉっ!?攻撃が重い!!

 色だけを見れば羽の色はさっきの攻撃時より薄い青、数も一見減っている。

 だが……「水」から「氷」に変化させ一発一発の攻撃力が上がってる!

 明確な殺意を持って攻撃を受けているって事か!?


 「もう貴方に行方を聞かずとも結構。自分で炙り出すので安心して死んでください!」

 「そうはいかない」


 襲い来る氷の嵐を『双月』で捌いてはいるが、現状は逆戻り。

 掠った攻撃も『治療飴ポーション・キャンディ』の効果で傷付いた端から治っているが、それも後僅かで効果が切れる。

 次の一手を━━


 「貴方のその魔法、目障りです!」


 は?魔法?



 「ここから貴方の魔法は、使用禁止ですよ?」



 ニヤッと酷薄な笑みを浮かべたセリエの口元が光った。

 今度は何だ!?



「【静寂(シランス)】」



 その瞬間、彼女の周りから何かが消えた。

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