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異世界の英雄はもういない  作者: 天山竜


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2-11.『決意』を胸に


 『クリア・フルーツ』の下拵えは料理の練習には丁度良い。

 この果物は、そのままの姿こそ半透明で見え辛いが、皮を剥くと変化が起きる。

 剥いた皮は七色に輝き、実は黄金、そのまま齧っても美味いが下拵えをちゃんとすれば、甘味が増し、歯応えが加わり、その味は格段に上がる。

 料理に用いれば、身は調理の有無に関わらず味わい深く。

 皮も食用・添え物として何でも使え、視覚・味覚共に楽しめ。

 固い芯の部分すら煮出せば「出汁」にコクや旨味が溶け出して。

 捨てる所の無いこの果実は出荷先でも重宝され、大層高値で取引されると前にトルネさんから聞いた。

 捨てる所がない物ならどれだけ調理の練習で駄目にしても、それは無駄にはならない。それに……。


 「うわぁー!凄く綺麗に光ってます!」

 「薄く剥いた方が綺麗に感じるわね……くぅ、難しい!?」


 今、台所に立ってるのは俺に加えてリリーナとティア。

 女性陣の刃物の扱い方を練習するなら、『女の子は目に楽しさが見えた方が〜上達も早いわぁ〜』ってエルさんが言ってたな。


 「最初の内はナイフの刃には気を付けてな。刃はあくまで添えるだけ、剥く果物の方を操る事を心がけよう」

 「はい!」「りょーかい」


 リリーナにティアがそれぞれ返事をし、また作業に戻って行く。


 「これ……はやく……たべよう」


 二人が剥ぎ取った皮の残骸を摂取しつつ、黄金に輝く果実を凝視するこの妹は。

 料理されてからの方が美味い事が分かってるから手を出さないのは偉い。が、かなり視線で急かされてるな。


 「どうやって……たべる?」

 「エルさんからちゃんと聞いてるから安心しろ」

 

 聞いた料理は『クリア・フルーツのパイ包み』。

 野菜が取れないかと思いきや、流石大自然が産んだ恵みか栄養価は高いらしく、これならシロでも喜んで食べるだろうとの事。

 3人で調達し、リリーナとティアが下準備まで作業した実はかなりの量があり、今日食べきれない分は、ソースにしたりジャムにしたり、暫くは保存の効く物に変えて取って置く。

 ……って言うか……クリア・フルーツって普通の果物より大きく、皮を剥くのもそれなりに一仕事なんだよなぁ。しかもそれが計20個はあって、料理慣れしてないティアとリリーナだとそれなりに集中力も使うだろうし、時間も掛かる。

 ……にも、係わらず……。

 良く全部の皮を剥いたな。

 最初は俺が見本として一つ皮を剥いたけど、後になるに連れてドンドン上達が見えた二人。

 丁寧に教えればやはり飲み込み自体は早そうだ。

 まだ他の野菜や果物は試してないが、これなら皮剥きは大丈夫そうだな。


 「何か……一歩進んだ気がします!」

 「アタシに係ればこんなモンよ!」


 パン!っと小気味良い音で、リリーナとティアがお互いの掌を叩き、称え合う。


 「まだ入り口を入った位だけど、これなら他のも大丈夫そうだな」

 「これから……の……せいちょうに……きたい」

 「なぜ、お前はそんなに偉そうなんだ?」


 何故かテーブルに肘を着き、組んだ両手に顎を乗せて上から目線のシロ。

 お前も少しは何か覚えようとは思わないのか。

 もし……俺が……。


 「……なにか……かんがえ……ごと?」

 「いや。シロは料理とか覚えないのか?」

 「……くろの……ごはん……すき……だから」

 「そうか」


 俺が居なくなったら、どうするのだろう。

 例えば事故、例えば病、例えば……誰かに、殺されたら。

 シロだけじゃない。リリーナやティア、エルさんにガドガさん、ユグさん、ニーズヘッグ、亜澄さん、ヘルバの人達。

 皆……悲しく思ってくれるのだろうか。

 ニーズヘッグと戦った時、俺の身体に出てきたじいちゃんが『周りを傷付けない為にも強くなれ』的な事を言っていたが、俺は自分の身体や命にそんな価値は見出せない。

 皆に危険が迫るなら……誰かが俺達の平穏を脅かすなら、それに抗う。

 亜澄さんの娘である『セリエ』と名乗った女性。

 じいちゃんへの敵意が俺達に向いてくるのなら、

 ……俺は、全力で……


 「皮剥き全部終わりました!」

 「クロ、次は!?」


 この日常を守る為に━━


 「材料を刻む。皮剥きよりは簡単だ」

  


 戦う。



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