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異世界の英雄はもういない  作者: 天山竜


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4. 魔法ではない『魔法』


 そういえばじいちゃんが、



 『男なら、女を守る為に強くなくてはダメだ』



 なんて事も言いながら笑ってた。

 じいちゃんから貰った仮面に触れる。

 『月詠』の柄を掴む手に力を籠める。

 じいちゃんは俺を誰より、何より強くしてやると言っていた。

 なら、俺はコイツを倒せる…………はず!

 多分速度は俺の方が上な気がする。

 逃走出来ていた事実からこの推測は大きく外れてはいないだろう。

 ここからは全力で闘う!!

 脚に力を入れ、正面しか見ていないオーガの左側に一気に跳躍。

 俺の姿を見失った魔物の大剣を持ったに方に躍り出た。

 先ずは武器を奪う!!


 「ふっ!!!」


 短く静かな気合と共に攻撃を仕掛ける。

 さっきより堅い手応え!

 けど!

 俺が斬り飛ばした左腕が、剣の重さもあって地面にボトリと音を立てて落ちる。

 よし、このまま畳み掛ける!


「GOAAAAAAAAAAAAA!!!!!!」


 その咆哮と共に。

 魔物の身体が怒気に呼応したのか一気に、……真っ黒に染まった。

 さらに黒皮に赤い斑模様が加わり、俺が切り落とした筈の左腕は禍々しく形を変え、瞬時に再生。

 ……これで決まりだ。

 コイツ、何かに乗っ取られてる。

 もうオーガと呼ばれる特徴はパッと見しかない。

 自然に強く生まれる『魔物』にはそんな変化をする必要がない。

 となれば、この変化は人の手が加えられた確かな証拠。

 謂わば━━『化物』だ。

 変化には苦痛が伴うのか身体を暴れさせて気を紛らわそうと身を捩る。

 変化が終わるのを待つ義理は……俺にはない!

 剣を腰だめに構え、魔物の身体を貫く為、走り出す。

 これで終わらせる!

 引き絞り、加速に寄って後押しされた力と言う力を、突きに変え魔物の身体に埋め込む……刹那。

 魔物の姿が霞んだ!?

 消えた、んじゃない!

 左腕に痺れる感覚がする。大きなものではなく、把握する事すら難しいと思わせる極小さな、疼き?



 『戦いの最中に感じたものは絶対無視すんな!』



 これは……予感!

 自分の本能が告げた警鐘に従い、咄嗟に剣で庇う様に防御する。

 次に知覚出来たのは、吹き飛ばされた衝撃だった。


 「ぐっ!」


 見れば、赤黒く変化した鬼が左腕を薙ぎ払った態勢で此方を見下ろし、嗤ってる……。

 この野郎!

 まだ宙に浮き、樹に激突しかけた身体を反転させ、再度突撃!



 『バカ野郎!死にてーのか!!』



 ……しかけた所で頭を冷やし、吹き飛ばされた反動は利用せず膝を使って勢いを殺し大地にふわりと降り立った。

 そうだ、こんな時こそ冷静にならなきゃ。

 じいちゃんと戦った時も、頭に血が上って突撃して返り討ちにあった事があったんだ。

 整理しよう。

 アイツ……黒オーガ。

 ・知能がある。

 俺がやった事を真似して俺に仕返しを慣行して来た。それはそれで、標的が俺に変更されたと言う事だからそれは良い。

 ・再生能力がある。

 しかも新たに作られた腕はさっきまでとは性能が段違いに上がってる。

 ・黒化して力も上がってるが、何より上がってるのはスピード。

 回り込まれたのが何よりの証拠だな。でも……付いていけない速さじゃない。

 さっき見失ったのは……一気に勝負を決めると勇んだ俺の慢心。

 ちゃんと!しっかり!

 観て、視て、診て、見ろ!

 相手の力の見誤りは自分の死に繋がると教えられただろ!?

 今、この場で俺が死ねば……今度は。

 チラと視線を後ろの方にやる。

 其処にいる2人の少女。このオーガと共に現れた謎の女の子は青ざめた顔色で俺に心配そうな視線を送り、シロは……真剣な表情で此方を見ているかと思えば、右手は腹を抑えている。

 こんな時に空腹を訴えて来るな!俺が殺されたら飯どころの話じゃないんだぞ!?

 ……ったく。



 『てめぇで守ると決めたもんは、何がなんでも守り抜け!』



 魔物も怖いし、命懸けの戦闘と言うのも大いに怖い。

 が、何より怖いのは……人が、大事な家族が死ぬ事だ。

 なら、出し惜しみは……しない!

 右手で剣を構え、左手は帯袋へ。

 一つの種を取り出し、口に放り込む。

 更に一つの石と、一枚の札を取り出し、『月詠』に装着(セット)

 ……準備が出来た。

 いっくぞ!



 「GAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」



 俺が駆け出すのと同時、黒オーガも弓から放たれた矢のように駆け出す。

 奴の剣の間合いに入る直前で、俺は口に放った『種』を噛み砕いた。


 途端、流れる景色が変わる。


 爆発的な速度で大地を蹴った俺は、黒オーガの頭上へと運んだ。

 俺の姿を見失い、奴に一瞬の隙が生まれる。

 『速度の種(スピード・シード)

 俺の加速を脅威的なものへと引き上げる不思議な種子。

 副作用は……全身の関節が軋みをあげる事。これを使った次の日は、動きに支障が出るぐらいの痛みが出るが……今この瞬間、明日の事は考えない!

 ここだ!!!


 「はぁぁぁ!!!」


 頭から魔物の中心、『核』に向かって

 俺はその頭上から一直線に斬り付けた。

 が……。


 「GYA!!!」


 接触の寸前で黒化した右腕に阻まれる。

 硬化した腕は金属音を響かせ、剣の進行を許さない。

 けど、甘い!!


 「【鋭利護符シャープ・シール】」


 剣に張り付けた『護符』に起動の命令を出す。

 瞬時に護符の効力が発動し、攻めぎ合っていた硬直をすんなりと推し進めた。

 鋭さを増した剣が堅い右腕を切り裂き、突破!

 かと思えば次は、いつの間に拾ったのか左に持っていた大剣で防いで来やがった!黒オーガの大剣が真っ二つになるも軌道がずらされ奴の『核』に掠りもしない。

 狙いが外された?!

 知性があるのかすれ違い様に見た黒オーガの口元は三日月型に歪んでた……ヤロウ?!

 地面に着地、切り返して再度━━


 「GO……!!!」


 見上げる俺を照準している……?

 目に映るのは、黒オーガの口に溜まる紅い炎の塊。

 それが放たれて━━

 ……あ、やば━━━



 ズドォォォン!



 「あぁ!」

 「……!」

 「GAGAGAGAGAGAGA!!!!!!!」



 ━━━━━━━━




 マジで死ぬかと思った。

 あれがアイツの隠し玉か……『速度の種(スピード・シード)』を使っていなきゃ躱せなかったな。

 眼下では鬼が笑い、少女が膝から崩れ落ち……シロが此方をジッと凝視してる。

 俺を捉えられたのはシロだけだ。

 これで決める、だから……そんなに俺を責める様な目で見るなよ。

 ってか心配なんてしてないだろ。

 その腹をさすって腹ペコアピールをやめろ。

 此奴をここで倒さないと、次に狙われるのはあの少女でその傍に居る━━シロだ。

 そんなの……やらせるものか。

 自然と手に力が籠められるのを感じる。

 俺の家族を傷付ける奴は許さない……!

 今度は俺の隠し玉を見せてやる!!



 「【炎の石(フレイム・ストーン)】」



 俺の声を柄尻に填めた『石』が聞き、剣が赤い光を発する。

 石の力が解放され、剣に流れ炎を生み出した。

 普通なら、『護符』や『石』の力を武器に流せば使った鋼や鉄の性質が変化したり、耐え切れなくなったりで例外なく壊れるらしい。

 けど、コイツは━━俺の愛剣『月詠(ツクヨミ)』は、腕の良い鍛冶師がじいちゃんに頼まれ、素材に拘り、様々な要素を取り入れ、『護符』『石』の性質・属性変化にも耐える。じいちゃんが戦利品として持っていた(盗品ではない事を祈る)『ルナタイト』と言う鉱物をベースに作られどんな付与をしてもその形を保つ。

 空に浮かぶ月が何をしても壊されない様に。


 そして……!!



 「【月輪(ガチリン)】」



 俺の意思を声で伝えればその形状を変化させるその様は満ち欠けによって姿を変える正に月。

 その一つが遠距離武器『月輪(ガチリン)』。

 ベースとなった武器はチャクラムと呼ばれる投擲する円剣。大きさは通常、指だけでも操れるけど……『月輪』に変化した形は、俺の身体がすっぽり通り抜けられる程の穴がある円剣。……そう、馬鹿でかいのだ。

 魔法が使えない、俺の唯一の投擲型の遠距離攻撃武器。

 力を籠め、身体を引き絞り、狙いを定め、


 「ふっ!!!」


 身体の捻りを加えて、持てる筋力を全開にして解き放った。

 真っ直ぐ黒オーガへと風を切って突き進む『月輪』は音も無く、静かに、一筋の月光となって獲物を照らす。

 勝利の余韻から覚め、再び少女に向おうとした黒オーガに……到達。


 「……え」


 少女の惚けた声が辺りに木霊する。

 黒オーガが切り裂かれた自らの胸を、自身の『核』を見る。

 何が起こったのか?

 今感じてる違和感は何なのか?

 理解する間がなかっただろうから教えてやる。

 飛び上がった空中から大地に降り立ち、右手を掲げ声を出す。


 「終わりだ」


 俺の右手に『月輪』が戻り、『月詠』の姿に戻る。

 黒オーガの身体が上下に別れ、炎に包まれた。



 「GOOOOOOOOOOOO!!!」



 断末魔の叫びを上げ、灰となって消えていく。

 『核』が壊され、身体がなければ黒オーガの再生も意味がない。

 戦い終わった俺の耳に少女の声が微かに聞こえた。


 「凄い……魔法……」


 いや、俺はそれが使えな━━

 訂正しようと振り返ると、気を失い静かに倒れる少女に、それを軽く引っ張って地面すれすれで支えるシロの姿が目に入って来た。

 後に残ったのは、黒オーガの灰の中に埋もれる二つに分かれた魔物の『核』。

 煌々と月に照らされその静寂を取り戻した静かな森。

 シロじゃないけど、……うん、腹減ったな。

 こんな感想が出て来るのも無事なお蔭か。

 ……で、この子は何なんだろう?

 結局、飲んでくれなかったな……ポーション。



 とりあえず、帰るか。

 少女の手を引っ張り、「手伝え」と目で訴えて来るシロの元へと歩み寄り、気絶した少女の軽い身体を抱え、帰路に着く。



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