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異世界の英雄はもういない  作者: 天山竜


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31. 『事後』報告



 瞼を開けた俺の目には、見慣れない天井。そして━━


 「……おきた?」


 見慣れた……妹の顔。


 「俺は……?」

 「……ばくすい……あれから……みっか」


 ……みっか……?……三日、……三日!?


 「あれから!?っが!?ぐ……っつ、身体が……!?」


 勢いよく起きようと身体を起こ、せない!?むしろ身体が動かない!?身体中が痛すぎる!!

 指一本すら動かすのに激痛が走るとか……これがじいちゃんが言っていた代償ってやつか。


 「そりゃ『種』をバカスカ阿保みたいに食った副作用じゃ」


 俺の考えを見抜いた様な声が響く。

 シロと反対側から顔を出して来た幼女《神霊》ユグドラシル。

 ……え?いや待って……これが『種』の副作用!?こんなになるの?!


 「渡した分全部使い切りおって……お主はバカか?それとも身体を痛めつけて喜ぶ趣味でもあるのかの?」


 何か酷ぇ事言われてる!?


 「あ、あれ位しなきゃ皆守れなかった……んだよ!」

 声を出すだけでも痛いんだけど!?

 ……って、これが『種』を使い過ぎた痛みだって言うなら、じいちゃんが言ってた「反動」って何だったんだ?


 「取り敢えず大事ない様で安心したわい。……見た目以外はな」

 「は?」


 そう言って、笑いを堪える様に俺から目を逸らすユグさん……?見た目?

 傍らに居たシロが、サッと俺の前に何かを差し出す。鏡?俺の顔がどうした?……ん?…………は?…………え?!



 「な、なんじゃこりゃ!!!?……あが!?……え、なんで?!」



 で、デカい声出すと全身に響く!?い、いや痛がってる場合じゃない!?嘘、ホントに?

 お、俺の顔が……いや、俺の姿が…………幼くなってる!?なんで!?どうして!!


 「お主の身体にぷ……宿っていたハイジから聞いた所それくく……が力を使った代償らしいのあははははははは!!!」


 これが?!

 もっと痛いとか、辛いとかそんなのだと思ってたのに!?今子供(推定5歳児)になるのは何か恥ずかしいだけなんだけど!?何この精神的拷問?!……もしかして、ずっとこのまま……?


 「はー腹痛い。安心せい、あやつの話しでは数日間だけな筈との事じゃ」


 それでも数日はこの姿なのか!俺の身体に居たじいちゃんの言葉はきっと真実なんだろうけど、それでもコレは━━?

 ……何か、シロの視線が……熱いんだけど。


 「…………かわいい。……おせわは……しろに……まかせる」

 「ぶっ!?あははは?!そうじゃのう!弟の世話は姉の役目じゃからの!?」


 そう言って、そーっと俺の頭を優しく撫でるシロ。

 俺達のやり取りが可笑しかったのか、抑えた笑いを再燃焼させたユグさんが俺達の関係を反転させて言葉を連ねる。

 あーもう!自分より年下に見える兄がそんなに新鮮なのか!?って……そうだ!?


 「サヴラブはどうなった?リリーナは?」


 事態は収拾して、じいちゃんも全員無事と言ってくれたけど、俺はまだその結末を知らない。あの後……どうなったんだ?!


 「リリーナちゃんは無事よ~」


 俺が出した問いの答えを返してくれたのは、部屋に入って来たエルさんだ。その後ろにはティアとリリーナも━━


 「クロさん!?お身体は大丈夫ですか!?」

 「やっと目を覚ましたのね……にしても、その姿は締まらないわ」


 心配してくれるリリーナも。

 ニヤニヤしながら悪態吐いて来るティアも。

 揃って無事な様で良かった。


 「今、目が覚めたんだよ。で、あの後ってどうなったんですか?」

 「まぁそんなに大きな事は無かったわ~」


 ━━要約すると。

 サヴラブは半死半生。

 絶対に消えないトラウマをエルさんとニーズヘッグに植え付けられ、壊滅させられた自分の傭兵達と共に領地へと返されたらしい。

 【最恐】と【悪竜】……この二つの存在が施したトラウマが何なのか。……知りたくもない。

 此方に人的被害はなく、傷付いた森も既に修復が済み、原状復帰が終わってるとはユグさんが付け加えた言葉だ。


 「あれ?そういえばニーズヘッグは?」

 「あー……それな」


 おい。ユグさんの言い出し難そうな言葉。

 何か嫌な予感しかしないんだが……。


 「クロちゃんが寝てる間に~、ハイジが決めた事が二つあってね~?」

 「……二つ?」


 あの《英雄》は、俺の身体で一体何を決めたんだ。


 「先ずニーズヘッグじゃが。あやつもこの森に住む」

 「ニーズヘッグが……えっ?」


 何で?どこか一か所に縛られるのなんて嫌がりそうなものなんだけど、あの竜は。


 「一番デカいのは今回の様に、誰かの悪意に利用されるのを防ぐ為じゃな。《竜》に近付く奴もそうそう居らんが……まぁ用心の為じゃが、一番大きな理由はお主の為じゃな」

 「俺の為?それって一体どういう──」

 「ニーズヘッグにお主を鍛えて貰うとハイジは言っておったぞ」

 「……はっ?……俺が!?いやいや待っ……があ!?……普通に死ぬと思うけど!?」

 

 声出し、起き上がった身体が悲鳴を上げるがそんな場合じゃない!何で?!どうしてそうなった!?


 「何の因果か、《英雄》の周りは色々と問題が起き易い。しかも此処はその《英雄》が創り上げた土地と言える。……つまり、今回の様な事が二度とは起きぬと断言は出来ん。そんな時が来たら、お主は今回の様に……真っ先に矢面に立つじゃろう?」


 否、とは言い辛い。

 弱いつもりはない……が、周りに俺より強いと思われる人達が居るにも関わらず、俺だけが死にそうになってるこの状況が全てを物語っている。

 まぁ、今後も家族や森に危害が加えられる事を、黙って見てはいられないし。


 「そんな時の為に、ニーズヘッグから戦い方を学んで置くのも良かろうと言う話でまとまった。まぁ、加減はするじゃろうて……多分」


 物凄い自信が無さそうぅぅぅ!?

 しかし、ニーズヘッグが俺を……ね。

 昔じいちゃんと「契約」をしていたらしいし、戦いの最中で見た二人は随分と親しげだった。じいちゃんの周りは……皆面倒見が良いんだろうか?いや、俺が望んだ訳じゃないし、何なら死にそうなんだけどね……。


 「で、もう一つなんだけど~」


 その面倒見が良い人達の筆頭、エルさんが残りの一つを発表しようとする。


 「ちょっと、心の準備を━━」

 「リリーナちゃんは〜、クロちゃん達の家に住む事になったから~」

 「させてくれてもっ……え?」


 思わず文句を言いそうになった口が、塞がらない。


 「まぁ元々はハイジが助けた子だったみたいだし~?リリーナちゃんを一人で遠い所に置いて置くより〜、貴方達の近くに居た方が良いんじゃないか〜って言う話になってね~?」

 「あ、あの、勿論クロさんの意向を聞いてからとお返事させて頂きましたが」


 一歩前に出て、そう付け足すリリーナ。

 伺う様に上目遣いで俺を見る表情は……どこか不安気だ。


 「……し、シロさんは別に構わないと言ってくれたんですが」


 ……あぁ、安心した。

 だが、あの非常識魔法使いである五百神灰慈が言い出した事なら確認しておかなければいけない。


 「けどそれって、もしかしてじいちゃんが一方的に言ったんじゃ……リリーナのお母さんは?」

 「アリーシャからも~、宜しくだって~」

 「あれ、エルさんも知り合いなんですか?」

 「えぇ~!ハイジの知り合いは〜大体私も知ってるわ~」

 「お母さん、もの凄く驚いてました」


 リリーナが苦笑してる所を見ると、もう連絡は取れたようだ。


 「まぁ~、アリーシャも一人で僻地に居るのも何だから、近々ヘルバに来ないか誘ってみるつもり~」


 ちゃんとした報告と母親の説得の為に、俺が目を覚ましたら一度帰るとの事。

 知らない間に外堀は埋められていた。


 「だから……クロさんが良ければ……その」


 何だか顔が真っ赤だけど、大丈夫?


 「いいよ」

 「……えっ」

 「俺から特に反対もないし、家には部屋も余ってる。元々、俺もシロも境遇は似たものだし、リリーナ自身が良いのなら」

 「……でも」

 「何より家主のじいちゃんが良いって言ったなら良いだろ。な、シロ?」

 「いまは……くろが……やぬし」


 そんな話で良かったよ。

 もっと……こう、命の危険があるものだと思っていたから……心の底からホッとした。


 「てっきり……エルさんとニーズヘッグの二人掛かりで訓練させられるのかと思いましたよ」

 「あ、それは追々ね〜?」


 ……マジかよ!?

 大きな攻撃が来ると構え、それが肩透かしと油断した所を背後から致命的な一撃を喰らわされた。こう言うのを……油断大敵って言うんだっけか?!

 ……ともかく。


 「アリーシャさんがヘルバに来なくても、魔道具を置けばいつでも往き来は可能になるし」

 「そんな事が出来るんですか!?」

 「リリーナ達親子が好きだった《英雄》に、不可能なんてないさ」

 「……ありがとうございます」


 リリーナが感謝の言葉を呟いた後、深呼吸をして……俺の目を見て。



 「ふ……不束者ですが、宜しくお願いします!!」



 頭を下げ、しっかりとした挨拶をして来る。

 何だか、くすぐったくて、微笑ましい。


 「此方こそ」


 今でさえ不束な妹が居るんだ、何も問題はない。



 「()が一人増えた。それだけで今までと変わらないんだから。リリーナも気楽にね」



 「…………え?」


 ……?頭を下げたリリーナが、その勢いを上回る速度で頭を上げ、俺を見て来た。え?


 「い、妹……ですか?」

 「?あぁ、家族って事だったんだけど、言い方が不味かった?」

 「いえ、あの……でも……その」


 年上扱い……姉さん?でも確か年下だったよな?そういう年頃って事か?

 そんな益体もない事を考えてると後ろに居たティアがリリーナの肩をポンと叩き……


 「無駄よ、無駄。アタシやシロが何年そいつと一緒に居ると思ってんの?」

 「このきもちは……なかなか……とどかない」

 「お2人は、ずっとこんな気持ちを抱いて来たんですね」


 理解は出来ないが、褒められてない事だけは分かるな!?リリーナまで!?

 まるでずっと一緒に過ごして来た姉妹よろしく……呟きあった少女達が笑顔を交わす。

 納得出来ないところは多々あるが……良いか。


 「何はともあれ……これから宜しく」

 「……はい!」


 気持ちの浮き沈みが激しいが、最後は満面の笑顔で、俺の手をしっかり握って来た。

 ……悶絶したのは言うまでもない。

 後から気が付いた事だが、俺の顔に『偽りの感情(ペルソナ)』は着いてはいなかった……が、それ以降、リリーナの前でも仮面を着ける事は無くなっている。

 共に死線を乗り越え、互いの境遇を理解した━━「家族」だってじいちゃんが教えてくれたから。




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