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異世界の英雄はもういない  作者: 天山竜
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3. 『戦闘』開始



 ……気まずい。

 なぜこの子はポーションを飲まないんだろう。

 突然現れた二つの気配。

 大きな奴はあのオーガで、小さなものが目の前の女の子だったんだろう。

 いや、最初は様子見ようって思ってはいたんだよ?

 あのオーガと女の子が一緒になって何かをしてたら、目的はこの森の何かって事になると思うんだけど……。

 どうもあのオーガの目的は女の子で、女の子の方は必死に抵抗している様子だったし。

 何より勝手に身体が動いてさ?

 所々怪我して、魔力切れで疲労困憊な様だったからオーガを倒した後で二種類のポーションを渡したんだけどさ……。


 え、何でジッと俺を見てるの?


 ハッ!まさか。

 俺って怪しい!?そりゃこんな仮面着けてる奴から「ポーション飲んで」なんて言われても警戒しますな!!

 けとポーションだよ!?怪我治るし魔力回復するよ!?

 自分で作った物だけどちゃんと使えることは確認してるから大丈夫だよ!!

 半分は優しさで出来てる訳じゃないからちゃんと回復しますから!!?

 それとも!!

 あのオーガって倒したらダメな奴だった!?

 何かの呪いで姿を変えられたお父さんだったとか?!

 だとしたら思いっきり斬っちゃった俺はこの子からしたら仇になるの?!

 たたた助けたつもりがまさかのお節介どころか大失敗!?


 ……いや、久々に知らない人に会って混乱しているのは分かるが、落ち着かないと。

 ま、先ずは話を聞かないと。

 ああ謝って許されない事だとしても疑問はまだ何も解決はしてない━━



 ━━ゾク。



 「しっかり掴まって」

 「え?きゃあ!」

 

 胸元に瓶を抱え込んだ少女を抱え上げ、その場を飛び去った━━その直後。

 ズガッ!と地面に巨大な音が鳴り響くのを、着地した木の上から聞いた。


 ウソだろ?

 確かに斬ったぞ?

 見下ろした先でさっきのオーガが剣を地面に突き刺していた。

 瞬時に頭が弾き出した予測は……二つ。

 ・俺は何も斬っては居なかった。

 ━━ない。

 確かに手応えはあった。

 あのオーガも幻とかの類いではないのでこの答えは違う。

 ・瞬間再生。

 ━━ある。

 良く見れば、俺が斬った跡がその身に刻まれ、

 その部分から黒い血の様なものが流れている。

 恐らくこれが正解……なんだと思うが、オーガにそんな能力はない。

 考えられるのは?

 ……後天的に与えられた。そう、人の手によっ━━


 「GAAAAAAAAAAAAA!!!」

 「ちっ」


 あぁくそ!考える時間をよこせ!?

 舌打ちと共に『腰袋』から取り出した玉をオーガに投げ付ける。

 『光煙玉』と呼ばれる相手の目をくらまし、姿を隠す煙をばら撒く俺の手製道具だ!


 「GOA?!」


 眩い光が、両眼を見開いて俺達を探すオーガの眼球を焼き、苦しげに自分の目を押さえる。

 光と共に周囲に散った煙が魔物の周囲に立ち込められ奴の視界を完全に遮断した。

 よし!

 その隙を衝いて、少女を両手に抱えて走り出す。


 「……え……あ!?」


 俺に抱えられた少女が戸惑った声を上げる。

 すいません後でちゃんと抱えてる事は謝りますから先ずは情報を下さい!?


 「あの魔物は何?何で襲われてたの?」

 「ご、ごめん……なさい。私にも、分からなく……て」


 この女の子も訳が分からないまま森まで飛ばされた……って事か?情報を貰おうにも立ち止まってゆっくり話してる暇はなさそうだ。

 まだ煙は残り、あのオーガから充分距離も取れてる。

 少女が大事そうに抱えてる二種類の試験管型の瓶に目をやり、俺は次のお願いを口にした。


 「両方飲んで」

 「え」

 「青い方が傷を治す物で、赤い方が━━」

 「GUGAAAAAAA!!!」


 俺の説明と、後ろから怪物が上げた砲声が重なった。

 同時に、ヒュンヒュンと風を切り裂いて何かが俺達に迫って……?!


 ズガン!!


 直前まで俺が居た場所に、見覚えがある大剣が飛んできた。

 あの魔物……自分の剣、投げやがった。

 いやそれよりも!

 俺の投げた光煙玉の効果である煙はまだ晴れてないぞ!?

 何で俺たちの居た場所が分かった?

 ただの当てずっぽうか?

 ……いや、違う。

 奴の視線を感じる。

 オーガが居た方向、まだ煙が上がり続けている場所を見ると真っ直ぐ……こっちに向かって駆け出しくてる!

 何だ、この気配?

 煙の中から飛び出したオーガ。

 俺が付けた傷口からは血ではない、何か黒い靄の様なものが流れ出して身体にまとわりついている。

 いや……マジでアレ何?!

 あんな変化、オーガにない……はず。実物は見た事ないけどあんな能力があればじいちゃんが見逃すはずが無い!?

 奴の体内から噴き出した黒い靄が身体にまとわりついて……鎧と化す。

 赤い身体に黒い鎧。

 そこに居るのはもう本で見たオーガではない。

 赤黒い、別の魔物。

 地面に刺さっていた大剣を勢い良く掴み抜き放つと、目に鋭さ……殺意が漲った━━瞬間。


 「GAAAAAAAAAAAAA!!!」


 爆発的な速度で開いていた距離を一気に潰し、追い付いた!?


 「きゃ!?」


 ズン!!!

 俺達が枝に登っていた居た木に向かって、両手で持った大剣を有り得ない力で叩き付けてきた?!

 轟音と共に木が倒れるのを抱えた少女と共に別の木の上に逃げながら見遣る。

 ……全く状況が整理出来ない。

 そんなにこの子に恨みがあるのか?それとも何か別の目的が?


 「GURAAAAAAAAAA!!!」


 それなりに速い速度で走り回っているにも関わらず、俺が着地した木を正確に狙って大剣で薙ぎ払って来る。

 此方の気配を感知してる?


 「あ、あの……私を置いて逃げて下さい!」

 「舌噛むから黙ってて」


 あと、大事に握り締めてるポーションを早く飲んでね?!

 さて、……逃げるか戦うか……だが。


 選択肢は一つしかない。


 ここでオーガを放置しても森の中で暴れ回るだけ。

 仮に……オーガがこっちの居場所、可能性が高いのはこの少女の位置を感知出来るのだとしたら……

 逃げることは根本的な解決にはならない。

 けど、戦うにしても少女を抱えたままじゃ手を出せない。

 例え、この子がポーション飲んで、体力・魔力が全快になってもあの黒オーガ(仮)が相手だと直ぐに追い付かれる可能性もあるし。

 どうするかな。

 次の行動を決めあぐねているその時━━声が放たれた。



 「【ぐるああああああああああああああ!!!】」



 これは!?

 立ち止まって後ろを振り返り黒オーガを見れば、此方に駆け寄る形で硬直し、そのまま地面に倒れ込んだ。

 『スタン・ボイス』。

 獣人が使う技能(スキル)……この森であの技を使うのは1人しかいない。


 「あれ……なに?」

 「俺にも分からん。が、助かったシロ」


 自分で立てたフラグをへし折って良く追い付いた!!


 「……?……これ……だれ?」

 「まだ分からん」

 「あ、あ、その」

 「けど、あれは倒しておく」


 俺の視線の先。

 シロが放った硬直(スタン)から今にも抜け出しそうなオーガがこちらを、正確にはこの少女を地面に這い蹲りながら睨んでいた。

 あれだけ傷を付けた俺ではなく、少女を。

 抱えていた少女を地面に下ろし、意識を逃走から……闘争へと切り替える。


 「シロ、この子を頼む」

 「え?で、でも」

 「……くろ……は?」

 「意地でもアイツを振り向かせる」

 「……ごかい……を……まねく……いいかた」

 「うるさい、捕まらない程度に距離を取れよ」

 「……りょう……かい」

 「あ、あのひゃあああ!」


 俺からの指示で少女を受け取り、背中に負ぶさって後方へ爆速で走り出したシロ。

 き、気を付けて走れよ?


 「GOAAAAAAAAA!!」


 シロと少女が逃げた方角、つまり俺に向かって硬直(スタン)が解けたオーガが駆け出した。

 背負った剣……名を『月詠(ツクヨミ)』。

 その柄を握り締め、一息で抜き放ち勢いそのままで斬撃を煌めかせた。


 「ふっ!」


 狙いはその右腕。

 まだ黒化をしてない部分を斬り飛ばす。

 が、まるで何もなかったかの様に俺の横を走り抜けた?

 先程は痛がったのに、今は苦しむ素振りすら見せない。

 走るオーガに追い付き、並走しながら状況を見極める。

 斬り飛ばした右腕の傷から、血の代わりに黒い靄が出て新たな右腕を造る。

 目を凝らせば、傷から黒い模様が伸び始めているな。

 あれは……何かに寄生されている?

 最終的には真っ黒なオーガになるのか?

 模様の侵食は遅いが、いずれは身体の赤い部分は無くなり全身が黒く染まるだろう。


 その前に!!


 走るスピードを上げ、再びオーガの前に出た。

 どんな魔物にも『核』と呼ばれる物が存在する。

 オーガの核の位置は、身体の中心。

 手に持つ剣を正眼に構え、照準をオーガの『核』へ。

 この一撃、無視出来るなら……して━━みやがれ!!!



 「せっぁぁぁあああ!!!」



 気合いを腹から絞り出し、構えた切っ先をオーガの胸へ!

 ガキィィィッ!!!

 オーガが止まり、左手に持っていた大剣で自分の核を守り、その敵意を初めて、



 「GURUUU……!!」



 俺に向けた。


 「やっと俺を見たな」

 

 俺を見下ろし、睨むオーガの視線……殺意を一身に浴びせられるが、付けた仮面越しに睨み返す。

 さぁ━━ここからが、本番だ。



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