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異世界の英雄はもういない  作者: 天山竜
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28. 『決着』


 「ニーズヘッグめ……クロの中の俺に気付いたな」


 どういう事?


 「ま、後で教えてやる。それより、手本は簡単に見せたんだから後はお前が何とかしろ」

 「は!?ちょっと待……あれ?」


 (意識を身体に降ろしてると留まれる時間が短くなる。戦闘はクロがやれ)


 勝手っ!?

 ……いや、此処までしてくれたのは、じいちゃんが俺を守ってくれたから。

 俺に皆を守る手段をくれたんだ。

 後は俺がやるしかない。

 黒い竜の最大の武器は潰した……後は……


 (言い忘れたが)


 じいちゃんの声が聞こえたのと、俺がその光景を目の当たりにしたのはほぼ同時。

 俺が斬ったと思った尾が……生え変わった?


(あいつの尾、切れても生えるぞ)



 早く言ええええぇぇぇぇぇぇえ!

 迫り来る尾剣を前に、じいちゃんに向かって脳内で盛大に喚き散らす。

 クソっ!何かさっきよりも速くなってないか!?まだ辛うじて目で追えるが、躱せるまでじゃない!また防戦一方になるのか!?そこから先をどうするか……?そこまで考え、目の前に迫る黒い尾の周りに……何か違和感。

 何だ?黒い尾の通り道に……緑色の光……。風の精霊?空気の……流れ?

 あ、……これってまさか。


 「【黒い尾の行先を教えてくれ】!」


 俺の言葉を精霊が受け取った時、緑光が視界に……攻撃の通り道をくっきりと示された。

 風が集まり、ある道を作る所に黒い軌跡が描かれる。

 その軌跡は真っ直ぐ俺の身体の各所に行き着き、それを避けるだけで……《竜》の刃を躱す事が出来た。

 思った通りだ!

 ほんの数瞬先。だけどこれなら、奴の攻撃が躱せる!

 次々に繰り出される黒い斬撃を、さっきまでは捌き、受けるしかなかったが今は選択肢に躱すが入った。躱せれば……此方から仕掛けられる!


 「【俺の剣を】!!」


 嵐の様な斬撃を躱しながら、手を差し伸べ、言葉を発する。

 打てば響く鐘の様に、言葉を聞いた精霊が俺の手に【月詠】を届けてくれた。

 柄を握ると同時に、黒い《竜》に向けて……突撃!!


 「はあぁぁぁぁぁ!」


 飛び上がり、《竜》の頭目掛けて振り下ろした斬撃は、攻防一体となった尾剣に阻まれ通らない。やはりこの尾を何とかしないと駄目だ!?


 「【月輪】!」


 着地と同時に武器を換装し、目の前に聳え立つ竜の尾に狙いを付け超近距離からの、投擲。

 俺が今持ってるカードの中で一番の攻撃力で、相手の攻撃力を奪う!



 ……と見せかけて狙いは━━



 「!」


 『月輪』の軌道に気付いたのか《竜》がその場で飛び上がり、足の切断を回避。

 くそ、狙いに気付かれたか!?

 コイツ、本当に動きが人間臭い時があるな!……が、それは計算内!

 頭上に跳び上がった竜が、地面に居る俺に向かって尾剣の雨を降らせて来る。

 風の精霊が俺に軌道を教えてくれる。

 今までは絶望しかなかった状況も、この力があれば乗り切れる。

 そして、俺の狙いはここから!

 躱して躱して、……此処だ!?

 跳躍し、一瞬だけ《竜》より高所の場へと躍り出る。地のない空中は俺に取っては袋小路も同然……《竜》の視線が俺を射抜き、攻撃を空に向けようとした……所で。

 放たれた『月輪』が俺の手元に戻ろうと、弧を描き、空気を切り裂き、結果……竜の背中に向けて再度強襲する!


 「GI?!」


 俺の思惑に気付いたのか、それとも野生の勘って奴なのか。 

 攻撃に特化していた尾の形状が、幅広の盾の様な形に変わって己の背を守った!

 やっぱり此奴の尾、……性質が俺の『月詠』に似てるな?!

 甲高い悲鳴を剣と盾が上げ、弾かれた『月輪』が俺の手に戻り、着地。

 ズンッと音を立てて空中に居た黒い竜も大地に降り立った。

 ……決め手に欠ける。


 『月輪』……防御に集中されると防がれる。それに今の俺の攻撃で警戒された可能性が高い。

 『双月』……間合いが短い。竜の速い攻撃は防げるが元々、俺の防御手段。

 『月詠』……護符や石があれば傷付け、隙を衝けば貫ける。が、今はその隙がない。


 何より━━


 「【月詠】」


 『月輪』から『月詠』に形を戻し、手の中にある剣を見詰める。

 正確には、剣を持つ自分の手を。

 傷は癒えた。

 体力はないがある程度気力で補える。

 ……が、さっき戻ってきた『月輪』を手にした瞬間に感じた……違和感。

 多分、限界が近い。

 『種』の過剰摂取、後遺症の兆候が身体の芯に感じる違和感の正体だ。


 (後、10分無いって所だな)


 要らねえよチクショー?!

 じいちゃんから欲しくない太鼓判を貰ったが、やっぱりか……それが過ぎれば、間違いなく俺は指一本も動かせない。

 『帯袋』には奇跡的にポーションが入っていたが、それ以外の道具は無かった。腹を穿たれた時に大穴が開いて、そこからほぼ全ての道具がなくなった。俺の最大の攻撃手段は『月詠』に『護符』や『石』を装着してのものだが、一連の検証で『月詠』だけでは《竜》に届かない事が証明されている。

 ……ヤバい……これってもしかして……詰んでる?


 (馬鹿か。何の為に俺が見本を見せてやったんだ)


 は?精霊にお願いするって奴は俺だってさっき試したろ?大きな奇跡は起こせないってじいちゃんも認めたじゃん!?


 (精霊……魔法はただ攻撃する為だけにあると思ってるならその内、死ぬぞ?)


 ……小さな……奇跡。

 俺が試したのは物を運び、見えないものを見える様にする事だけ。

 もっと試せば、出来る事がまだまだあるって事か?


 「GYAAAAAAAAAAAAAAAA!」

 「ちっ!」


 時間がないって時に!

 だが、試すだけ試してみるか!

 《竜》の尾を躱しながら思考する。

 自己強化はダメな気がする。出来たとしても、外から内に入ろうとする魔法の効果を俺の身体は弾いてしまう。

 直接《竜》に作用するもの、『弱くなれ』とか『倒れろ』とかは無理だな。

 なら、直接作用しなければ?

 俺にも《竜》にも作用しない……奇跡。


 周りや、自分の道具になら?


 あの尾剣の軌道を教えてくれる風の精霊は、空気の通り道を事前に知らせてくれている。

 たったそれだけの事でも精霊に取っては小さな奇跡に入るとすれば……。

 時間はない……思い描いた事、全部試せ!?


 「【視界を遮る霧を】」


 大気に青い光が満ちて、それが濃霧へと変貌する。

 水の精霊が俺の声に応え、《竜》から俺の姿を隠してくれる。

 出来た!?


 「GSHAAAAAAAA!?」


 あっちからは俺が見えてない……が、俺からは《竜》が見える!

 実験其の一、成功。

 次は……。


 「【剣に熱を】」


 【月詠】を翳し、火の精霊に向けて言葉を向ける。

 赤い光が空気を伝って剣に集結し、炎は出さず、しかし熱気を感じられる程の熱さが剣から伝わり、剣身が仄かに赤く変色する。

 よし!『月詠』への付与も、『石』や『護符』無しでも出来る。


 (ま、『石』とは比べ物にならんがな)


 じいちゃんが何やら楽しそうにそんな事を言って来るが、どういう事?


 (ボヤボヤしてんな。方針を整えたら次は行動だ)


 分かってる!準備を終え、俺の姿を探しながら尾を振るう竜に視線を向け一気に、駆け出……


 「GYAAAAAAAAAAAAAAAA!」


 す前に竜が痺れを切らした!?


 「きゃっ!」

 「ちょっと!今どうなってるのよ!?」

 「……みえない」


 乱れた斬撃が辺りを襲う。

 この攻撃が霧を払う事は無かったが……俺の後ろに居るシロ達に届けばヤバい!?


 (避けてばかりじゃ勝てないどころか、周りに被害が出るからな?)


 分かってる!!


 「【双月】!」


 繰り出される斬撃を何発か弾いて俺の位置を《竜》に知らせる。

 弾かれた感触で俺に狙いを付けた尾が殺到し、また弾きながら移動。

 射線からシロ達を外していく。

 後ろに誰も居ない事を確認してから、躱し、時折弾き、……攻撃の機会を計る事、数合。

 バキン!

 嫌な音が耳に届く。……え、まさか【双月】が!?



 「GYAAAAAAAAAAAAAAAA?!」


 (違う、言ったろ?石と一緒にするなって)


 辺りには黒い破片が散ばり、その断面は僅かに赤熱しているのが見える。

 手に持つ刀身を確認すれば、【双月】には罅一つ入って居らず、青い光を仄かに纏う。

 砕けたのは……《竜》の尾だ。

 さっき聞こえた咆哮も、尾を砕かれて漏らしたもの……って青い?


 (炎は青いものの方が温度が高い。どうやら精霊がかなり頑張ってくれてるみたいだな)


 青く燃える【双月】は、弾く度に尾剣を傷付け、最終的にはそこから圧し折ったって事か?

 ……なら、これを【月詠】【月輪】で使えればアイツを斬れる!?


 (が、あの尾は切れても生える上に、自切が可能だ)


 頭の中のじいちゃんの声と同時、竜が自らの砕けた尾をむしり取り、俺が居るだろう方角に投げつけて来た!

 自分でも切れるのかよ、その尾!?って言うか、じいちゃんも知ってるならさっき言っとけよ!

 あの竜の事知ってんなら今の内に全部情報教えろ?!


 (俺の知識は共有出来てるんだろ?なら勝手に引き出せ)


 何て言い草!まだ俺の中にじいちゃんが居る事にすら慣れてないのに!

 さっきの《精霊眼》の情報はじいちゃんが呟いた言葉に興味を持って、その言葉を思い描たら情報が出た。

 なら、あの《竜》の姿や特徴、アイツの事に強く関心を示せば、じいちゃんの持ってる情報が出て来る。

 ……筈?



 《【悪竜】ニーズヘッグ》


 竜種の中でも『唯一種』と呼ばれる《竜》の一匹で、怪物の中の神霊とも言われてる存在。

 悪に成り、悪を断ち、己の欲のみに忠実で、誰かに従い、束縛される事を強く嫌う。

 《神霊》と同様契約が可能だが、その方法は戦って勝つのみ。

 棲息場所を持たず、勝手気ままに動き回り、強そうな奴を見つけては闘いを仕掛けて来る。

 主な武器は尾の剣だが、最大の攻撃は牙。

 『ユグドラシル』の根を齧り、砥ぎ上げた牙は全てを砕くと言われ、相手が絶命するまで離さない。

 かの《英雄》五百神灰慈が唯一使役に成功した。



 ………………すっげー一杯ツッコミ所があるんだけど!?


 

 (何でか気に入られて契約した事もあるんだけどよ、それも大分前に破棄されて、何処で何をしてるかと思ったらこんなとこに居たんだよなぁ)


 って事は次の契約者があの蛙野郎って事かよ!?


 (……いや、ニーズヘッグとあのブタ蛙は契約はしてない)


 へ?だって、現にこうして俺達の前に立ちはだかってるんだぞ?


 (《竜》との契約は、《神霊》との契約と違って魔法が使えるようになったり、知識が増えたりするんじゃなくて、武器に力が備わる。が、あのブタ蛙には武器らしい武器がない。……見たところ特殊な力が備わっている物を身に着けてるって訳でもないな)


 じゃあ何であの《竜》は俺達を襲って来るんだ?!

 使役されてる訳でも、契約されてる訳でもないなら…………操られてる?


 (その可能性は高いが……そんな事をしようとすればたちまち食い殺されるのがオチって所だ。が、寝込みなら話は別)


 寝込……み?


 (ニーズヘッグの奴、寝てる所を『核』に戻されてアイツの魔法、いや、魔術を仕掛けられてるんだろうな)


 今、寝てんの!?

 ってさっきから意識があったりなかったりした素振りを見せてたのは、蛙野郎の魔法に抗ってるんじゃなくて……


 (寝ぼけてんだろうな)


 あれだけ俺やシロの攻撃だったりティアの魔法を受けてたのに!?


 (元々、竜種の耐久力は半端ないが、ニーズヘッグは最高峰だからなぁ。けど、寝てるだけってんなら叩き起せば良いだけの話だ)


 尻尾切られても寝てる奴をどう起こせと!?

 未だ俺に尾剣の嵐を巻き起こすニーズヘッグに目をやれば……確かに目の色が赤や青に点滅する様に切り替わってるが、あれは意識が覚醒していない状態なんだろうか。

 あのオーガやクロコダイル・ソルジャーが施された死霊術と同じものをこの竜にも施したのか?だとしたら、ニーズヘッグは一度死んだって事になる……じいちゃんと共に闘っていた言わば仲間って何ともやり辛い。


 (……《竜》には「死」と言う概念がない。あのブタ蛙は知らないみたいだが、唯一種は《神霊》と同等。ただの魔物ではなく、それこそ神と呼ばれるものに近い。お前が見た『核』は眠る為のベッドって所だな)


 竜が自分で起きる可能性は?


 (ある。百年位すれば──)


 待ってらんねーよ!?

 とにかく、死んでないならそれで良い!

 俺にも時間がない、だから今、やれるだけの事はやってやる!

 乱れ飛んでくる斬撃の一つを選んで、それを地面に向かって弾き、【月詠】を逆手に持って、出せる脚力の限界で《竜》の背後へ。


 (自切が出来るのは尾の付け根から1mだ)


 了解ぃ!!

 斬るのではなく、断つのではなく、刺す。



 「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」



 気合と共に、自切が不可能な付け根周辺に【月詠】を突き立てる!


 「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!?」

 「【この剣の重さを上れるだけ上げてくれ】!?」


 俺の声に反応して、地の精霊が、突き刺さった剣を中心に重力を増幅する。

 素早く『月詠』の柄を離し、距離を取って思考する。

 動きを止めていられるのは……恐らく一瞬。

 その一瞬で、コイツを……ぶん殴る!?

 下がった場所から跳び上がり、目下に《竜》を捕捉。

 魔法が使えなくても、じいちゃんの知識と精霊の力があれば、魔法と同じ様な効果は生み出せる?!



 「【火と水で交わり、俺の背中に衝撃を起こせ】!!」



 力の方向は風精霊に、今発生してる地精霊の重力場に向けて。

 火精霊と水精霊の力が混じって膨張し、それはやがて大きな衝撃となって俺の背中を後押しする!!


 「ぐっ!」


 爆発の威力が強い!背中が焼け焦げる!

 だが━━痛手の甲斐あって吹き飛ばされた身体は凄まじい速度で眼下に……黒い《竜》が仁王立つ真下に投げ出された!?



 「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」



 精霊が起こした爆発の轟音で《竜》が俺に気付いた……けど、その直撃を受けた俺は顔を向けた《竜》の直ぐ近くに。

 大きく開かれた両顎は紙一重で通過。

 両手を合わせ固く握り締め、大きく振りかぶって、《竜》の頭へと振り下ろす。



 「いいかげん━━起きろおおぉぉぉぉぉーーーーー!!!!!!」



 《竜》の両目の間。人で言う所の眉間に、精霊達の力と持てる力全てを込めた一撃を放った。

 重力に引かれた影響も手伝ってズンっと凄まじい音と衝撃が、辺りに響く。

 使った手から血が噴き出し、骨が砕けた生々しい感触が脳に伝わる。

 ……俺の両手が、……壊れた。

 《竜》の皮膚は只でさえ硬いってのに、それを勢いまで付けてブン殴ったから当たり前か。

 あぁ、クソ。これで駄目なら……

 着地も満足に出来ずに、無様に、地面へそのままの勢いで転がり落ちる。

 倒れ込み、仰向けで見たのは逆さまの世界で微動だにしない、《竜》の背中。起き上がって体勢を立て直さないと!

 まだコイツの眼が覚めなかったら━━


 (いや)


 ……?じいちゃん?


 (《竜》の中でも、眉間はかなり脆い部分だ。そこにあれだけの衝撃を受ければ──)


 言葉を聞き終える前に俺が見たのは、背中がグラリと揺れ、大地に沈んで行く……



 (お前の勝ちだ、クロ)



 ドスンッ!……と、地響きと共に横たわった《竜》の姿だった。



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