表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の英雄はもういない  作者: 天山竜
23/306

23. 『決戦』開始

 「……来た」

 「あ、アタシも見たい!」

 「……つぎ……しろ……!」


 翌朝を迎え。昼に差し掛かろうかと言う時刻。

 俺が目にしているのは、整然と進む正規の王国軍……ではなく、雑然と此方に向かって歩を進めて来る『男』の団体。

 その数ザっと百名程だろうか。


 「落すなよ?」

 「おぉ!すっごい見える!!」

 「……しろも……!」


 手にしていた、じいちゃんが作った双眼鏡をティアに渡す。

 光と水の魔法が掛けられたそれは、じいちゃん謹製だけあってそんじょそこらの物とは一線を画す光景を此方に伝えてくれる。

 双眼鏡を取り合うシロとティアを尻目に、この近辺では最も高い木から降り、見た光景を下で待っていたユグさん、エルさんとリリーナに伝えた。


 「まぁ~、私欲塗れの目的に兵隊なんて使えないでしょうね~」

 「と言う事は、……どう言う事なのでしょう?」

 「見たところ傭兵だろう。冒険者って感じでもなかった」


 先ず……隊列の組み方でも正規の軍隊ではない事が分かるが、何より構成が『男』である事が、其奴等がならず者の集まりだと言う証明になる。

 この世界では『女』が強い。精神的にも、物理的にも。

 その要因として一番大きな物が『魔法への適正』。

 男でも勿論強者は居る。

 が、その強さは何で分けられるのかと問われれば、やはり『魔法』の強さ。

 その『魔法』、男よりも女の方がその適正は高い。

 適正が高ければその分、威力も精度も高まる訳で。だからって事でもないが正規の軍には必ずと言って良い程、隊長クラスには、或いはその部隊の構成には女の比率が高くなる。

 先程俺が双眼鏡で覗いた者達の殆どが男。

 いや、一団の中央に見えた馬車の中までは分からないが、その周りを固めていたのも男達だと言う事から、これが王国軍ではないと言う事は分かった。

 つまりは腕に覚えのある金で雇われた奴らだろう。

 さっきも言ったが弱いと言う事ではないが……。


 「その程度の者達なら妾が張った罠で充分じゃろ」

 「きっと~装備は良いから〜、身包みは剥いで行きましょうか~」

 「油断は出来ないんですけど……」


 この森の二大守護者のお言葉が何とも頼もしく、何とも恐ろしい。

 まぁ確かに、力が強くても魔法が長けていないなら、装備は良いだろう。

 此方が魔物を撃退した事実を把握して、此方の戦力をある程度計算しているなら、それなりの対策をしてきそうなものだが……さて。



 「では、奴らが森に踏み込んだら……開始します」



 警告はする。それで逃げる者が居れば追いはしない。

 が、サヴラブとか言う男があれだけの執着を見せているなら、雇われた奴らも積まれた金に目が眩んでいるだろう。

 この森を、俺の家を……土足で荒らさせて只では帰さない。


 「クロさん……無理はしないで下さいね」

 「行って来る」


 無理はしない。……けど、多少の無茶には目を瞑って貰うよ?

 本命はきっと人の傭兵団ではなく……魔物、いや化物の方だと思うから。



 傭兵団が森の前に到着し、その異様な空気に呑まれながらも一歩踏み込んだその瞬間。

 『力の種』を一粒噛み砕き、身体を限界まで引き絞る。

 ガドガさんの家にあった槍を握り締め、先頭の男……の手前に向けて全力で投げ付けた。

 俺の手から放たれた一本の槍は、立っている木の上から重力にも引かれ、風切り音を上げながら……一団の前にズドンッ!と轟音を立てて突き刺さる。


 「ひっ!?」

 「何だ!」

 「どこから飛んで来た!?」


 男たちが野太い声で、周囲に威嚇と共に警戒をし出す。

 最前列の男は自分の目の前に突き刺さった槍、それに穿たれ、陥没した地面を青ざめた顔で見やり後ろに引いて行く。

 射られ突き立つ槍を警戒するかの如く、半円状に広がる男達。



 ━━その槍の上に降り立つ。

 普段なら……こんな大勢の前に立つなんて絶対にあり得ない。だけど今回みたいな状況は……。



 「帰れ」



 俺の家族を傷付けようとする奴らは……



 「この森に入れば」



 人ではなく、人の皮を被った『魔物』に囲まれても、怒りしか湧いて来ない。



 「命の保証はしない」



 そうだ……此奴等は、村に、森に外部から攻め入った……言葉を話す『魔物』なんだ。


 「はっ!テメェを殺して女を一人捕まえりゃあ、たんまり金が入るんだ!手ぶらで帰れるか!?」


 命より金か。いや、出て来たのが俺一人だから付け上がっているんだろう。

 魔物より……救えない只の馬鹿。


 「弓隊!ぶっ殺しちまえ!!」

 最前列の奴らと入れ替わり出て来た弓兵、持っているのは通常の弓矢だったりボーガンだったりと様々だが、共通する事はその矢に魔法の効果が掛けられてる事。やはり装備は揃えてる……が。


 「警告はしたからな」

 「撃てぇ!」


 矢の雨が俺の視界に入る。脅威なんだろうな、本当に。

 ……他の人間から、魔物からしたら。

 傷付いた朱兎馬もこんな光景を目にしてさぞ怖かっただろう……。

 今の俺は温厚な魔物程、彼らを傷付けず逃げようとは思えない!

 背負った剣の柄に手を掛け、引き抜くと同時に一声。



 「【双月】」



 雨と言っても自然が降らせる大地への恵みではない。

 人の力で放たれた一本の矢が無数にあるだけ。

 俺に向かって来る矢をただ叩き落せばいいし、ティアの雷より速い物は一つもない。

 二本の短刀が、迫る矢のそれぞれに軌道を合わせて軌跡を描く。


 「なっ!?」


 目に映った光景が自分達の想像したものとは大きく懸け離れて居る事から出された男達の騒めき。

 魔法の効果があろうが無かろうが、あんな程度で殺せると思われてるとは舐められたものだ。


 「【月詠】」


 剣の形を戻し背中に収め、帯袋から一つの「筒」を取り出した。


 「この槍を超えて森に入る奴らを容赦はしない」


 そんな言葉と共に筒を投げる。

 魔道具『閃光筒』、本来は手に持って暗闇を照らしたり、道に迷った時に空に投げて居場所を示したりするものだが。俺が改造したコレの主な役割は……。


 「ぎやぁぁぁあああ!?目が……目がぁぁあああ!!」


 目潰し。

 目暗ましなんて生温いものではなく、目にした光が網膜を焼き、行動が止まる。

 その隙に俺はここを離脱。

 これで少しは脅しになればそれで良し。

 数が減って居なくても別に構わない。

 ……此処から先、フルコース(一連の地獄)で持て成してやる。



 「ただの閃光筒が何であんな光を出すのよ!」

 「改造したからだ」

 「前回といい今回といい、やり過ぎだって言ってんのよ!」


 前回の爆弾は兎も角、今回のは完璧に計算通りだったんだけど。

 視界を奪って、行動を停めて、更には味方への合図にもなる。完璧と言わずして何と言う!

 ティアから自信作への苦情を受けて、俺が小さく反論をしていたら……驚きの声が更に別方向から上がる。


 「流石に~、あんなのは私も見た事がなかったわ〜」

 「クロ……まぶしかっ……た」


 エルさんがそうだと言うなら反省はしよう。

 だがシロ……俺が光ってたみたいな言い方は止めろ。


 「遊んどらんで少しは緊張せんか」


 冷めた視線を俺に寄越し、宣うユグさん。

 俺が悪いわけじゃないのに、何で俺まで怒られなきゃいけないんだ……納得いかない。

 ……いい、こんな事で落ち込んでる暇がないのは確かだ。


 「妾が見ているものをお主等にも見せてやろう、リリ助」

 「はい!【━━シルク・ヴェール】!!」


 張り切るリリーナが魔法を発動……ってあれ?

 これって、黒鰐戦で使った防護魔法じゃなかったっけ?

 俺達の目の前ではリリーナの魔法が展開されたが、それは俺達を包むのではなく、目の前に一枚の布の様に広げられている。


 「魔法の使い方も一つだけではない。応用すればこの様な事も出来る」


 ユグさんがリリーナの身体に触れると……さっきまで俺が対峙していた傭兵団の姿が現れる。


 「妾が見ている物を、リリ助の光魔法を通してお主等にも見える様にしておる。魔法はこんな使い方も出来るんじゃ。更に……」

 『くそ!何なんだこの森は!?』

 『……痛ぅ……この落とし穴……深い……』

 『うわぁぁぁ!蔦が、ツタが勝手に絡み付いて来るぅ?!』


 ……風魔法で音を拾ってるのか?

 ユグさんの発言から現地の状況を音声付きで映し出しているのは全体的にリリーナの魔法って事なんだろう。

 しかし……うぉ……臨場感あるな。これがいつかじいちゃんが言ってた……『エイガ』って奴なのかな?


 「中々、この妾との相性が良い様だの」

 「ありがとうございます!私も……皆さんと一緒に頑張ります」


 蔦や落とし穴、植物の胞子等々、仕掛けた罠の動作を確認するが如くユグさんが視て、それをリリーナが光の幕に映し出していく。一人、また一人と脱落していく傭兵達。

 これなら。

 ……そんな戦いのない結末を俺が、妄想しようとした瞬間。

 聞いた事がない様な、神経を逆撫でる甲高い怒声が響いた。


 『何をやっている!何の為に高い金を出して貴様等を雇っていると思ってるんだ!?……もう良い、貴様等はさっき見た男から女の居場所を聞き出せ!こんな辺鄙な場所にある森なんぞ吾輩が更地にしてくれるわ!』


 毒にも薬にもならない言葉を、やけに聞く者を疲れさせる音で出すカエル面の男。

 その手に見えるのは……魔物の『核』。

 コイツがサヴラブか。

 手から離れた『核』は、黒鰐達が現れた時同様に靄を纏い、異形の姿を顕現させた。


 「あれは……」

 「また遠いところから持ってきたわね~」



 『ミノタウロス!サイクロプス!とっととこの森に居る奴を燻り出せ!』



 サヴラブが魔物に付いた名前を言っているが、やはり滅多に目撃されてる魔物ではない。

 ミノタウロスと呼ばれた牛の面を被った様な魔物は、体皮の色こそ変わらないが、大きさは比べるまでもなく、只でさえデカい体躯が更に膨れ、全長が三倍はある。

 サイクロプスと呼ばれた魔物、此方は前例に漏れず、通常は緑の肌をしているが、今やそれは真っ黒に染まり、一つだけ具えられた目は血走り、辺りを隈なく探ってる。

 エルさんが言った様に、この辺りどころか二体とも……限られた迷宮にしか本来は居ない……かなり強い部類の魔物だ。


 「ふむ、人用に拵えた罠では奴らの足止めは叶わんな」


 蔦が巻き付けば引きちぎり、穴はそれごと踏み潰す。まぁ、サイズ的に無理だろう。と、なると……

 剣を抜き放ち、化物が出たであろう方角に視線をやる。

 あいつ等を潰せば後はどうとでもなりそうだし、行くか。

 陣形は俺にシロが前衛、真ん中にティア。リリーナ、そしてユグさんにエルさんはこの場に居て貰おう。

 道すがら『種』を使い、そこから先は化物の出方を見てから……と、考えながら動こうとする俺の行く手を遮った……エルさん。


 「陣形を変えましょうか〜。私があの二体の相手をするから、3人は背後に回って、あのブタガエルを捕えなさい〜」

 「いや、何もエルさんが出なくても」

 「クロちゃんは〜、奴の目的をしっかりと知って置いた方が良いでしょ〜?ティアちゃんとシロちゃんはその露払い、ね~?」

 「いや、そうではなく……」

 「それに~。最近あまり実戦に触れていないから〜……たまにはちゃんと戦っておいた方が良いかなって思うのよ〜」


 ……違う……ただ単に、俺達の話を聞き、実物を見て……面白そうだと思ったんだ。

 目が……【最恐】エルシエル=フリソスの目が、とても楽しそうな玩具を見つけた子供の目をしていらっしゃる。

 じいちゃん曰く、



 『あの目をしたエルは何を言っても聞かないぞ』



 俺、そしてシロに訓練を始める時も、あの目をしてた。

 そしてズタボロになるまで扱かれる毎日が開始されたのだ。

 逆らわない方が良い……絶対。


 「私がなるべく魔物を一団から引き離すから〜、三人はちゃんとブタガエルを捕まえてね〜?」

 「分かりました、じゃあ━━」

 「あの!」


 行動を開始する直前、ユグさんの隣に居たリリーナが引き留めて来た。


 「私も……私も連れて行って下さい!」

 「りりーな……あぶない」

 「そうよ、アンタを守る為に戦うのにアンタが行って捕まったらどうするの」


 二人の言う通り。……ではあるが、気持ちは分からないでもない。

 自分の為に戦う人が居るのに、自分は見ているだけ。役割はあったとしてもそれは直接関係するものではない。

 その感情は……俺がじいちゃんにずっと抱いていたものだ。


 「でも……私……」


 歯を喰いしばり、拳をギュッと固める。


 「大丈夫、全員無事に戻って来るし、サヴラブも捕まえてちゃんと理由を説明させる」

 「クロさん……」

 「それにじいちゃんが言っていた。待ってる人が居る者は強いって」


 そう、リリーナの頭に手を置いて諭す。

 その場に居る事だけが力になる事じゃない。そんな思いを込めて。


 「……分かりました。無事に帰って来て下さい」

 「あぁ」


 真っ直ぐ、俺の目を見てリリーナが訴えて来た。

 これに応えられない様じゃ━━《英雄》の子供は名乗れない。



 「それじゃあ〜、リリーナちゃん防衛戦、始めましょうか〜!」



 エルさんのゆるっとした開戦の言葉。

 ここからが、俺達とサヴラブの本当の戦いだ。 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ