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異世界の英雄はもういない  作者: 天山竜
199/287

5-⑤-21.予想外の『増援』


 ━━「サハラ」 最北端━━

  

 「オラオラオラ!どんどん行くぜ!!」

 「っこの!?調子に乗るんじゃないわよ!!」


 オンブレが元から備えていた両腕、それに加え新たに生えた二本の腕。合計四本になった腕が砲台となり、空気の弾丸をティアに向かって撃ち続ける。

 一発一発の威力があるのに、それを制限なく撃たれれば……ティアでなくとも逃げ回るしかない。いや、ティアだからこそ避け続けていられている。並大抵の者ならば、この速射を躱し切れずに詰んでいる。

 逃げ回る事に一つ舌打ちをして、ティアが詠唱を始める。


 「【アタシの呼び声に応えろ精霊】!」


 ティアの詠唱速度は遅くない。その上、言葉が少なく威力が高い。

 相対した敵に詠唱で負けた事はない。

 『魔装』装着時のセリエ以外で彼女の速度に付いて来られるのは、それこそ無詠唱で魔法を行使するアキナ位のものだろう。……だが。 


 「【射抜け、貫け、素早く得物を━━」

 「ガアアアアアアアア!!」


 それは()()での話である。

 ティアより遅れて行動したにも関わらず、ティアの魔法発動前にオンブレの口から吐き出した熱線が照射された。


 「ぐっ!?」


 シロの様な獣人種が得意とする技能(スキル)は魔法の発動よりも速い。

 まして、《竜》が繰り出す埒外の攻撃が人類の攻撃よりも遅い筈がない。オンブレが放った熱線を躱しはしたが、足元に発生した爆風に煽られ、ティアが臍を噬む。


 「ひゃはははは!!お前のトロい詠唱なんて待ってやれるかよ!?」

 「━━なら!!」


 『帯袋ポーチ』に手を突き入れ、目当ての物を引っ張り出した。

 それは嘗て、クロが使用し、あまりの威力にティアが怒った筒型の魔道具。

 その道具を、オンブレに向かって投擲した。


 「何だこりゃ?」


 ティアが言葉と共に目を瞑る。

 瞬間、正体不明の物を凝視していたオンブレの網膜に眩い光が焼き付けられた。

 

 「ぎゃっ!?」


 魔道具『閃光筒』。

 本来であれば、暗闇を照らしたり仲間に自分の位置を知らせる冒険者に取っては救難信号の様な物であるが……クロが作ったソレは一種の兵器に近い……相手の目を潰す効果を誇る。

 脅威の耐久力を持ち、相手のどんな攻撃にも動じないオンブレを持ってしても、直接自分に向けられた物ではない衝撃を耐える事は出来なかった。


 「ぐおぉぉぉ……目、目が!?━━」

 「もう一丁ぉぉぉ!!!」


 次いでティアが投げた箱状の物体。

 いつの間にか解放された蓋が周囲の空気を吸い込み、やがて起こした━━大爆発。


 「がああああああああああ!!」


 爆発の中心に居たオンブレに炎が纏まり、肌を焼き酸素を奪う。

 『炸裂弾(エクスプロード・ボム)』。

 しかし、市井で売られている物で此処まで威力の高い物は無い。

 先に使用した『閃光筒』もだが、これ等を製作したのは五百神クロである。自身が魔法を使えないと言う欠点を魔道具に依って補おうと開発したのだが……。

 

 「ぐっ、何も見えねぇ!……聞こえねぇ!」

 「(相変わらずバカみたいな威力ね!?)」


 《竜》と思われるオンブレに対し、ここまでの効果を発揮する道具製作能力に畏怖と感動、感謝を込めて罵倒する。

 道具を使ったティア自身もこれで倒し切れると楽観はしていない。

 『閃光筒』で視覚を奪い、『炸裂弾』で触覚・嗅覚・聴覚を狂わす。幼馴染が稼いでくれた時間を使い詠唱し、悶え苦しむオンブレに急接近。


 「【アタシの呼び声に応えろ精霊】!!」

 「か……ひゅー!」

 

 肺に空気を取り込めず、喉が焼け、それでも口から酸素を取り入れようとするオンブレの腹部にティアの強烈な、魔法も織り交ぜた掌底が叩き込まれた。


 「【雷を腕に━━強雷】!」

 「がはっ?!」


 狙いは、オンブレが必死になって働きを促していた肺。

 供給が少なくなった空気が更に無理矢理体外に押し出され、衝撃でオンブレの身体が吹っ飛び、ここで勝機を見逃すティアではない。詠唱を重ね、瞬時に発動。


 「【━━瞬雷】!!」


 未だ空中に身体が浮いているオンブレに向かって、殺意を持って連撃を繰り出した。


 「はりゃりゃりゃりゃりゃりゃあああ!!!」

 「ががががああああ?!」


 拳の弾幕がその身体に突き刺さり、地面に埋もれてからも尚浴びせられ続ける。

 オンブレの耐久がどの程度の物か知らないが……ティアに出来る事は最大の攻撃を相手に与え続けることだけ。拳の速度は高速から、光速に移りオンブレの身体に吸い込まれ━━止めの一撃を繰り出すべく、攻撃を続けながら更なる詠唱を口にした。


 「【━━射抜け、貫け、素早く得物を打ち落とせ━━雷槍】!!」


 雷の槍が、ティアの装備する(ウェスタ)に吸収され、収束された天雷を━━解放。



 「うりゃああああああああああ!!!!!!」

 「グべぇあああ!!」



 空気に血、生物が活動に必要な物を執拗に排出させられたオンブレ。

 『雷槍』の一撃を放ったティアが飛び退き、離れた場所で息を切らし、膝に手をついて動向を見守る。 

 砂漠の地面深くに埋められ、常人……例え相手が《竜》だろうとこの痛手(ダメージ)を無視する事は出来ないだろう。


 ……しかし……。



 「ひひひ……ひははははは!!」


 

 狂った様な嗤い声が、ティアの穿った穴から響く。

 生きてる。

 あれだけの打撃を受けても尚立ち上がる。

 やがて穴から飛び出して来たオンブレの身体は既に闘える状態ではない。

 が━━ティアの目の前で、裂けた傷が、折れた骨が、流れた血が……まるで時を戻す様に治されて行く。


 「はあはあはあ、クソ!……んぐ……はあはあはあ」


 悪態を吐き捨て、『スタミナ』と『マジック』のポーションを流し込む。

 クロが作る物で傷は治り、魔力は回復し、体力も戻る。だが、自身の攻撃が通じないと言う現象に……ティアの心が揺らぐ。それは焦燥であり、……恐怖。


 「マジでお前の攻撃は凄え!?瞬間的な火力はオレより高ぇ!?益々欲しいぜ?お前がよ!?」

 「……だから、お断りって言ってんでしょ」

 「連れねーなぁ。けど……攫ってでも連れ帰るぜ!?」

 「この!?」


 果てが見えない闘いに辟易し、目にした執念に嫌悪し、正体を見せないオンブレに、たった一歩……後退……させられ様としたその時━━



 「なってない!!」

 「……あ?がはっ!?」



 第三者の声が響き、オンブレが頬を殴られぶっ飛んだ。

 拳を奮ったのは男。

 ティアの記憶が確かならば……


 「容姿の好みは千差万別、自分が好いた人ならば声を掛けるのは当然。だが!相手を力で従わせ、ましてや捕らえて拐おうなどとは笑止千万!!」

 「……アンタは……」


 『黄金の剣』……ベルデ。

 背に大剣を吊るす姿は五百神クロと酷似しているが、身長が二頭身ほど彼より高い。

 筋骨隆々で一見して戦士だと判断出来る。

 ティアの前に立ち、守る様に隠してくれた後ろ姿に沈みそうだったティアの心を掬い上げ……


 「デカイ男が、か弱き小さな幼女を拐かすなどぅほぁ?!」


 言い放ったベルデの言葉が、燻ったティアの心に再度火を点け、ベルデの腹に拳を突き刺した。


 「誰が小さな幼女だ!?」

 「んぐぐ!……良い拳だ……」


 流れる様に現れ、心の重荷を取り除く。

 別に人見知りではないティアだが、男と接する時は最善の注意を払うよう母に、そして父に昔からうんざりする程言われて来た彼女に取って、初対面で拳が出たのは自分でも驚きだった。

 もう一つ驚いたのは……ベルデの身体。

 ティアの拳が突き刺さる瞬間、彼女の脳裏を過ぎったのは『アダマン・タートル』。あの魔物の甲羅がティアが生きて来た中で一番硬い……その甲羅を素手で殴れば如何に『ウェスタ』を装備しているティアの拳でも多少の痛みはあっただろう。だが、拳がベルデの腹に到達した刹那、腹が……軟化した。まるでティアの拳が傷付かないようにしたみたいに。

 自分が痛みを覚えても、相手を━━ベルデの場合、女を傷付けない配慮が見て取れた。

 クロや、ガドガとは違う、……男。


 「ふん!」


 そのベルデが自らの拳を宙に放つ。

 すると、何かが弾かれた様な音が響いた。次いで、ドン!と、ベルデとティアの背後で着弾音。

 殴り飛ばされた先からオンブレが撃った空気弾だ。

 起き上がり、自分の邪魔をされたオンブレの額には血管が浮かび上がり、その溢れる怒気を隠さない。


 「何だお前は……お呼びじゃねーんだよ!」

 「はいそーですかと引き下がれるか!男は女を守る守護者であるべきだ!」

 「お前の趣味は聞いてねー……さっさと消えとけ!!」


 オンブレの口が赤黒く発光し、熱線を吐き出した。

 身構えたティア━━が、ベルデが取った行動は、拳を強く握り締め、腰の捻りも肩の連動もなく、ただ……無造作に熱線に向かって下から打ち上げただけ。

 ただそれだけなのに……目標を見失ったかの様に頭上高く方向転換し、やがて、消えた。


 「はっ!?」

 「……は?」


 奇しくも重なったティアとオンブレの驚きの声。

 オンブレが連射していた空気弾はともかく、あの熱線は素手で防げる様なものではない……筈。

 装備している鎧に秘密があるのか、それとも彼の自力の強さなのか……間近で見ていたティアにもその答えは分からなかった。……が、ベルデが出した答えは……。


 「生憎、その程度の攻撃……見慣れている!!」


 ……よく分からないままお茶を濁された。

 背中の大剣を手早く抜き、その流れでその場で一振り。たったそれだけの筈なのに……オンブレが突風に襲われた。


 「ちぇい!!」

 「ぐっ?!」


 四本の腕を交差し防御をするも、それでも仕切れず後ろに流される。

 魔法でも、技能でも、能力(アビリティ)でもない、性能(ステータス)任せの力技。ただひたすら力を磨き上げ、技を身に付けた者が出来る離れ業。……どこか、ベルデを見ているとクロを思い出してしまうティア。

 一方、食らったオンブレもベルデの実力を測りかねていた。

 

 「……何者だ……お前」

 「俺の名はチーム『黄金の剣』ベルデ!」

 「名前を聞いてんじゃねーよ」


 何処の誰だ。

 オンブレが聞きたかったのは「お前は《竜》か、その契約者か」。

 そう言った意味で問うがベルデは全く理解していない。それどころか、盛り上がり自分のペースで話を進める。


 「貴様の相手は俺がす━━」

 「アタシ抜きで話を進めんな!!」

 「ぶべほ!?!?」


 それに待ったを掛けたのはティアの肘鉄。

 先程拳を入れた箇所と寸分違わぬ場所を再度、強襲し、そのあまりの痛さにベルデが間抜けな声を出す。

 腰に手を当て、いつもの調子に戻ったティアがベルデに駄目を出す。


 「ったく。横から割り込んどいてデカい面すんじゃないわよ」

 「う、うむ。それはすまない……」


 何故か分からないがティアには逆らえない……本能がティアの言う事に逆らわず、また命令に従う様に促した。


 「……アンタ、今の所は戦力に数えて良いワケ?」

 「勿論だ!」

 「……そ」


 冷静な対応をしているが、内心はホッとしているティア。

 普段独りで戦う事には何の問題もないが、正体不明……《竜》とだけ分かっているオンブレとの戦闘に、軽口を叩ける存在はそれだけで彼女の心を軽くした。

 その姿に不快感を露にしたのは、対峙するオンブレだ。


 「あぁ〜、要するに……其奴を消してまた続きをすれば良いんだな?了解、なら遊びは無しだ!」


 得体の知れないベルデの実力。

 そのベルデを頼るティアの姿勢。

 どれもが、オンブレの顔を狂気に染めるには充分な理由になる。

 意志、気配共にベルデを殺し、ティアとの逢瀬を楽しもうとする姿に……ティアは心底嫌悪した。


 「……手短に言うわ。少しの間時間を稼いで」

 「……何の為に?」

 「決まってるでしょ。アイツを……あの化物をぶっ飛ばす為の準備時間よ」


 言葉少なく、作戦とも言えぬ作戦をベルデに伝える。まともな人間ならこんな言葉には乗らないだろう……が。


 「分かった!」


 二つ返事の快諾に不安を覚えたのは、誰でもないこの提案を出したティアである。

 何が分かったのか妙なやる気を出し、手に持った大剣を担いで歩みを進めたベルデの背中に、冷静を装って問い掛ける。


 「良いの?アンタが闘ってる間にアタシが逃げるかも知れないわよ?」

 「それはそれで構わないが……そうするつもりは無いんだろ?」

 

 さっき会ったばかりの人の言葉を鵜呑みにする……愚策中の愚策。

 だが━━ベルデの背中を通して見えたのは五百神クロ……そして、そんな彼を育てた《英雄》の姿。


 「……アンタ、あの男より数倍良い男ね」

 「比較対象が悪過ぎるな」


 ティアの軽口をベルデが軽口で返し、互いのやるべき事に集中して行く。

 身構え、意識を敵対するオンブレ……《竜》に意識を向けた。

 言葉は聞こえず、2人がこれからする事も分からない。しかし、オンブレの表情は愉しそうで……ただ口の端を吊り上げ、ただ嗤う。



 「相談は終わりか?準備は良いか?もう━━行くぜ!?」



 2人の人類が《竜》に挑む。


  


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