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異世界の英雄はもういない  作者: 天山竜
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5-⑤-20B.アキナの『誤算』


 「……なるほど、発想の転換と言う訳ですね」


 一介の冒険者ではなく……【怠惰】の《魔王》アスミィ=オルタンシアをアキナに投影し、自分の全力をただぶつける。

 口の端を吊り上げ、フォルネウスを纏った状態で部下に指示を出した。

 

 「【宿りなさい━━アモン】」

 「AWOOOON!!」


 自らを『魔装』と化しセリエの足に纏わる。

 アモンを装備したセリエが地面を強く踏み抜き、シロの横に並びアキナとの闘いに身を投じた。


 「【ちょっ!?何でさっきより速いの!?】」

 「うふふ、後程……機会があれば教えて差し上げますわ」


 アキナに不覚を取られた意趣を返す様に、楽しげに、言葉と共に攻撃を開始する。

 シロとセリエが、リリーナの撒いた魔法を利用して繰り出す攻撃は《精霊》を纏っているアキナでも躱す事に必死にならなければならない。思い通りにならない強敵を前にしたアキナの耳に、独り言を呟くシロの声が届いた。


 「……えもの……たおさないと……おこられる……!」

 「【こっちの子は何でこんな怯えてるのさ?!】」


 一体何がシロを此処まで追い詰めているのか分からないアキナが驚愕を投げ掛けると同時に……超至近距離での魔法を強行した。

 

 「【アクア・ランス!!】」


 都合六つ展開された魔法陣からノータイムで巨大な水の槍が出現。高速で迫るシロとセリエを目掛け射出された。

 ━━だが。


 「ふっ!」

 「がう!」


 突如向かって来た水槍を、2人は体の捻りだけで躱す。


 「【この距離このタイミングで避ける?!】」

 「【ぐるああああああ!!!】」

 「【いっ?!】」


 神業の回避を披露されたアキナが一瞬油断させられた。

 その油断を逃さず、シロが『スタン・ボイス』で全身の自由を奪う。その一瞬を━━離れた詠唱を終えたリリーナの魔法が硬直に変えた。

 


 「【━━シルク・ヴェール━━リバーサル】!!!」



 防御に使われる『シルク・ヴェール』。効果は敵の攻撃から味方を守る光の遮蔽布を作り出す。その光の布を裏返し、敵に掛ければ━━


 「【え!何これ!?うぎぎ……出られな━━】」


 抜け出す事が困難な拘束魔法に成り代わる。

 物理や魔法を弾く布がアキナを包み、身動きを封じ、……その上から魔法を重ねるのはセリエ。



 「【銀世界モンドゥ・アルジェンテ】」



 セリエの魔素を媒介に、アモン・フォルネウスの魔力を込めて放たれた魔法は、リリーナの魔法『シルク・ヴェール・リバーサル』ごとアキナを氷結へと誘う。

 

 「【ちょっ!身体が動かない!?何も聞こえな━━!!】」


 風に抱かれ、氷に蝕まれ、やがてアキナの声も漏らさぬ氷柱が聳え立つ。

 中を見通せない程の厚さの氷を前に、闘っていた3人が荒い息を整える。結果的に身動きを封じる事が出来たとは言え、それぞれがかなり消耗させられている。


 「はぁはぁはぁ!!」

 「ふぅふぅ━━ふぅ。御2人共、流石ですね」


 セリエが自身の『収納魔法(ストレージ)』から複数のポーションを取り出し、賛辞と共にリリーナとシロに手渡した。


 「い、いえ……んぐんぐ……ぷはっ!シロさんにセリエさんが時間を稼いでくれたお陰です」

 「……つよかった」

 「私一人では到底此処まで上手くは行きませんでした。リリーナさんのあの魔法は相手の攻撃を跳ね返す物だとばかり思ってましたが?」

 「基本は……でも裏返せば相手の攻撃は外に漏れないですし……魔法が彼女に効かなくても、セリエさんなら私の魔法ごと凍らせられるかもと思いまして」

 「ふたり……とも……ぐっ……じょぶ」

 「ふふ。相手が《精霊》でも可視化されているなら魔物と変わりませんものね」

 「流石の発想でした、シロさん!」


 お互いがお互いの機転と奮闘を讃え、シロをスタートとして親指を上げる3人。

 回復を終え、今し方自分達で作り出した氷柱を見る。

 その奥でまだ活動していると思われる、アキナ。


 「……恐らく倒せては居ないでしょう」

 「はい、まだ《精霊》が動いているのを感じます」

 「……いまの……うちに……とんずら……」


 シロが逃走を促し、セリエとリリーナが頷こうとした……その時。



 「━━ん~~~…………だあ!!」


 

 裂帛の気合いと共に、氷が内部より砕かれた。


 「ぜー!はー!ぜー!はー!……あ、危なかった……!!」


 辺りに破片が散らばり、中から、荒い息を吐いたアキナが膝に手を付いて佇んでいる。

 武芸祭が始まってから初めて疲れを見せてはいるが、自分達の魔法を断ち切られたセリエにリリーナは驚愕してそれに気付けない。

 

 「……風と氷の二重壁を斬られるとは」

 「そ、そんな!?破られるのが早過ぎません!?」

 「……でも……もどって……る」


 唯一、冷静さを保っていたシロがアキナを指差してその姿を指摘した。

 青く輝いていた髪は元の亜麻色に戻り、纏っていた水の膜も今はない……今彼女の右手には鞘に収めていた筈の剣があり、だが、確実に消耗している。

 状況を判断したセリエが、動いた。

 

 「畳み掛けます━━【絶滅(エクスティンクション)】【洪水(イノンダシオン)】!」


 今のアキナには水魔法の耐性がない。

 そう思ったセリエが行使したのはアモンの魔法。

 フェネクス・フォルネウスよりも一撃の威力が高い魔法が、強烈な水の波動となってアキナに襲い掛かる。

 アキナが取った行動は━━



 「……応えて……『白羊星剣(アリエス)』」


 

 両手に握った剣を水平に、鋒を自分に向かうセリエの魔法に。

 すると━━アキナの剣に、その魔法『洪水(イノンダシオン)』が吸い込まれた。

 

 「なっ!?」

 「セリエさんの魔法が?!」


 目の前で起こった現象にリリーナだけではなく、流石のセリエもポーカーフェイスを大きく崩す。

 魔法を吸収すると言う発想はあっても、実現出来たのはガドガしか居ない。ましてや……セリエが繰り出す威力の高い魔法を吸い込めば武器の耐久は削られる。しかし、アキナの剣に損傷などまるで感じない……それどころか。

 

 「……それ……だけじゃ……ない」


 シロが見たのはアキナの状態だ。

 先程までは息も絶え絶えで顔が青く、「魔力欠乏」と言われる現象に陥っていた。だが……セリエの魔法を剣が吸収してからアキナの顔色が目に見えて改善された。

 

 「はー!……ん、……魔力は、結構取り戻せたかな」


 セリエが魔素を込め、アモンが放った魔法は並外れた威力を持つ。

 「汎用」魔法と言う誰でも扱う事の出来る魔法の等級は「下級」「中級」「上級」「超級」に分類されるが、間違いなく「超級」に位置する程の効果を持っていた。それを全て飲み込み、尚全快ではない……。


 「……ガドガさん以外にも発想を形にする鍛治師が居るなんて……」

 「へへ、言ったでしょ?ちょっとした仕掛けがあるって」

 「なるほど……大した仕掛けですね」


 セリエとアキナが闘い始める直前、アキナの剣は「友達に作ってもらった」と言っていた。

 つまり……少なくともガドガと肩を並べられる技術を持った鍛治師が世間に知られずにまだ存在していると言う証拠である。この武芸祭が終わったら、調べなければいけない事が出来たとセリエは思う。


 「……それ……なら……!」


 言葉尻と同時に動き出したのは、口をもごもごと動かしていたシロ。

 熱量を補給し、『グレイプニル』の効果が乗った爪撃をアキナに打ち込んだ。


 「ふわっ!?」

 「ぶつりで……なぐる」

 「爪で殴るって矛盾してない?!」


 奇襲とも取れる速度でシロがアキナに突貫するが、寸前でアキナの剣に爪の侵攻を阻止される。しかし、シロの攻撃は終わらない。直ぐに逆手の爪で攻撃を仕掛け、更に足の爪でもアキナに果敢に攻め入った。

 何とか剣での防御に成功しているアキナだが、先程までセリエやシロの攻撃を避けていた様な動きがない……いや、出来ない。

 

 「がう!!」

 「わととと!?ま、まだ体力が、回復……してないのに?!」


 魔力は回復しても、体力がまだ回復していない。

 躱したくても身体が付いてこないのだ。

 此処が好機と、勇猛果敢に攻撃を繰り出して行く。防戦一方のアキナは剣を巧みに動かし上手く防いではいるが、シロの攻撃速度に徐々に押され始めた。


 「くううう!?」

 「……これで!……?」


 決めに行こうとしたシロが━━急に、止まった。

 アキナの目の前で糸が切れた人形の様に座り込み、動こうとしない。


 「シロさん!?」

 「……はら……へった……」


 燃料切れ(ガス欠)

 シロ自身しか知り得ない自身の熱量カロリー残量はシロ本人がコントロールして、足りなくなれば都度補っていた。その姿をリリーナも見ていたからこそ驚く。

 シロが空腹で、然もあんな敵の目の前でへたり込む程、エネルギーがなくなるとは考えられない……考えられるのは……


 「この白羊星剣アリエスの特性は吸収なんだ。魔法を食べて魔力に、相手の攻撃を受けて体力に……君のお陰ですっかり回復したよ、ありがとね、シロちゃん!!」


 自分の剣の説明を丁寧にし、同時に力無く座り込むシロに刃を構え━━


 「【私がレシピを】━━!!」

 「【凄絶テリブル】━━!!」

 「遅い!」


 リリーナとセリエが魔法を発動する前に、シロの首に振り下ろした。

 だが、それを止めたのは……シロ。


 「……へ?」


 シロの『ウルフ・ネイル』は自分の爪に作用する。

 相手を攻撃、または防御をする際はこの爪で行い、その効果は掌までは広がってはいない……しかし、今アキナの一撃を、掴んで止めた。

 『獣身化』も効力を失い、『グレイプニル』も鳴りを潜めている状況で。

 そんなシロが、ぼそりと……。

 


 「……はら…………へった」



 呟きが周囲に居る3人に届いた時、アキナが吹っ飛んだ。


 「━━かはっ!?」

 「……へ?」

 「……シロ……さん?」


 正確には、シロに蹴り飛ばされた。

 辛うじて剣は手放さなかったが、洞窟の壁に強かに打ち付けられ肺に溜まった酸素を強制的に抜かれた。

 蹴りを放ったシロ。

 その形相は、普段からは想像が出来ないほど怒りに満ちている。


 「ぐるるる……」


 唸る口から涎を垂らし、今し方飛ばした蹴り飛ばしたアキナを睨んでいる。

 リリーナとセリエすら見た事のないシロの変貌は2人を混乱の坩堝へと叩き落とす。

 四肢を大地に突き立て、牙を剥き━━



 「がががががるるる!!」


 

 驚いた表情で立ち上がるアキナに飛び掛かった。



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