5-⑤-8A.『砂漠』の主
━━「サハラ」 最北端━━
ニーナの占星魔法によってティアが辿り着いたのはピラミッド。
本来であれば、奉られる対象があって然るべき其処には……入口どころか石の繋ぎ目一つなかった。
こんな場所にこんな建造物らしきものがあるとは考えられず、ピラミッドの外周を隈無く見て回るも成果はゼロ。
「くっそ、あっつい」
探索での疲れに加え、灼熱の炎天がティアの体力を奪っていく。巨大なピラミッドを背に力なく座ると、腰にある『帯袋』から、水と『スタミナ・ポーション』の飴を取り出して口に含んだ。
「……太陽の位置も変わってないし……時間の感覚が狂うわね、コリャ……」
口から垂れた水を拭い、独り言を愚痴ってしまう。
彼女の愚痴通り、オベリスクの『自層』内の時間は固定されていた。
沈む事のない太陽を恨めしく見上げ、ティアの独り言は更に続く。
「ハイジさんのトコやディオサに鍛えて貰っても……完全に耐性付く訳じゃないからなぁ」
ティアが……と、言う訳ではなく『妖精種』と言う種族が、実は極端な環境変化に弱い。
実はあのエルでさえ、灰慈との旅の中で驚異的な環境耐性を身に付けているが、最初は猛暑や極寒には悩まされ、娘のティアにもその弱点はしっかり継承されていた。
勿論、流れる血筋的に自分の弱点を良しとはせず、訓練によって同じ『妖精種』と比べれば高い環境耐性を獲得している。
それでも……暑いものは暑い。
「つーか……何なのよこの建物……は?」
だらしなく建物の斜面を背に、足を投げ出して座り込む。
恨みがましく背後に聳えるピラミッドを睨め付ける……と。
その頂点が開いた。
「何アレ、あんな所が開く様になってたん━━」
そこから一体の大きな物体が飛び上がる。
ティアの頭上高く打ち上がり、速度をそのままに真下へと切り返し……ティアに目掛けて突っ込んで来た。
「は……はぁ!?」
巨大な図体に一対の翼、長い首に尻尾。
凶悪な牙を備え、全身を銀に染めた……見紛う事なき……
「GYAAAAAAAAAAAAA!!!」
《竜》だ。
「ドラゴン……飛竜!?」
ニーズヘッグやファフニールの様な《唯一種》との見分け方は個体が持つ爪の数で分かるとされている。
ティアの目前まで迫っている《竜》の爪は四本。
《唯一種》の爪は五本とされている事から、現れた魔物はそれより格下ではある……だが、《竜》と呼ばれる種族自体が人類と比べるまでもなく強敵なのも事実。
「━━くっ?!」
迫る飛竜の鋭い鉤爪を跳び上がって間一髪で躱すと、改めて降りて来た相手を冷静に観察する。
立ち込める砂煙から大きな影。
二足で立ち上がり、ティアを見下ろす相手の全長は約五M。
姿形は《竜》だが……肌で感じる重圧に覚えがある事を思い出す。
「何か見た事ある感じね」
記憶が遡るのは『シブレスタ武芸祭』予選。
あそこで使われていた『オベリスク・ゴーレム』と同色同質である目の前の飛竜は謂わば『オベリスク・ワイバーン』と言った所だろうか。
そんな魔物……いや、化物を前にティアは……直前まで感じていた暑さを忘れた。
「ハン!面白いじゃない、分かんない事をチマチマ考えるよりこっちの方が断然やり易いわ!」
日除けの為に着ていた外套を脱ぎ捨て、両拳に装着されていた『ウェスタ』をガン!と打ち合わせる。
「何度でもぶっ潰す!」




