表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の英雄はもういない  作者: 天山竜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

178/287

5-⑤-5.星の『道標』


 ━━「サハラ」 中央━━


 「どう?何かありそう?」

 「う〜〜〜ん……この周りは何もないかなぁ。魔物の数は多いけど……」

 「この決勝で何をすれば良いかさっぱり分かんないわ!」


 灼熱の砂漠の真ん中で喧々囂々(けんけんごうごう)と文句を捲し立てるティアの様子に、苦笑いを浮かべる人狐族(ワー・フォックス)であるスレイ。

 大量の魔物を討伐しているにも関わらず、次の行動を決めかねティア達、チーム雪月花『花』の面々は途方に暮れていた。

 暑さ自体はニーナの遮熱魔法でどうにか出来ているが、行けども砂漠、振り返っても砂漠、立ち止まって押し寄せるのは魔物ばかり……こんな状況に陥っていたのだ。


 「こう言うのは普段ならクロの役目なのに……」


 クロ・ティア・シロ、最近ではリリーナの加入にセリエの参戦が多いパーティー。

 ティアが言うのは主に3人で連れ立っていた時。

 このパーティでの頭脳は……《英雄》であり【最強】、そして《神霊》ユグドラシルとの『契約』の恩恵を受け、人の身では在り得ない知識を着けた五百神灰慈からの教育を受けた五百神クロ。

 魔物や道具の知識だけでなく、最近では魔道具の製作や、魔物の弱点看破と才能をメキメキと延ばしている幼馴染はこの場にいない。

 ティアやシロの役目は、クロの指示を受けて相手と戦う、人で言うならば手足の様な役割だ。

 今、その頭脳が近くに居ないだけでティアには一抹の不安がある。

 腰に付けたクロから借り受けた『帯袋(ポーチ)』を無意識に触り、感情を紛らわす。

 そんなティアを微笑ましく見ているのは、黒妖精(ダークエルフ)のニーナ。


 「ふふ、ティアさんはクロさんを信頼しているのですね」 

 「ななな仲間としてね!それ以上の感情なんて持ち合わせてないんだからね!?」

 「いや……ニーナは別に何も聞いてないと思うけど……」


 ティアの焦り様がスレイとニーナの笑いを誘う。

 Aランク冒険者として活躍していた2人だが、今回の武芸祭で迷宮での要素が求められる事があるとは思わなかった事と、事前に何かを調べる暇がなかった事が災いして状況の打開策が思い付かない。

 そんな時、ニーナが提案して来たのは……。


 「進むべき道に迷ったなら、神頼みでもしてみましょうか」

 「へ?」


 ティアの返答を待たず、ニーナが短杖『テロス』を掲げ詠唱を開始した。 


 「【黒き小さな妖精から、大気に遍く精霊に希う】」


 ニーナが扱う魔法の属性は『光』。

 中でも、特に稀有とされている『星』を司る。時に傷を癒し、時に人を勇気付け、時に迷える者達を導く一筋の光となって空から降る。


 「【旅路の行く末を垣間見て、行く先を指し示す一筋の光を】」 

 「おっ!何か久々に見るなぁ!」

 「知ってる魔法?」

 「うん!アタイ等が何処に行けば良いか迷った時に、方角だけ光る魔法!今までその光に従ったからここまで来れたって言っても過言じゃない!」


 過去、『救済の戦士団(ヘイズルーン)』として活動していた時にも、その前に2人で旅をしていた時にも、道に迷ったり自分達の行先を決めかねていた時には頼りにしていた星の導きを得る魔法。

 指し示すだけで啓示が降ってくる訳ではないが、示された場所には必ず何かがある。


 

 「【スター・ガイド】」


 

 一瞬だけ、3人の視界にだけ輝く夜空が映し出された。

 ヘルバと言う辺境に住み、星空なんてずっと見て来たティアの目にも……その光景は鮮烈に映り、まるで暗い夜の空の中に浸かっている様な気分にさせる。 


 「わぁ……綺麗ね!」

 「でしょ!?ニーナの導きは星の輝きを昼でも夜でも届けてくれるんだって!」

 「見えました」


 ニーナが掲げた『テロス』を下ろすと景色が灼熱の砂漠へと戻った。

 細い褐色の指先が、3人の行き先を示す。


 「星が照らす場所は二つ。一つは東……もう一つは北西」

 「……真逆の二箇所ね……」

 「まぁ行けども行けども砂漠だけど……どーする?リーダー?」

 「……そうね」


 多分、どちらか一方でも何かがある。

 だが現状魔物を狩るだけでめぼしい情報が一つもないのは痛い。戦力を分散させるのは危険だが……ティアが決断を下し、2人に告げる。


 「二手に別れましょ。ニーナとスレイは東に、アタシは北西に行ってみるわ」

 「宜しいのですか?単独行動は危険では?」

 「平気よ、別に負けたって死ぬ訳じゃないし……アタシにはこれがあるから」


 先程とは違って今度は意識的に手を『帯袋ポーチ』へ。

 物言わぬ道具とはいえ、これがあるだけで戦力的にも精神的にも心強い。言外に「大丈夫」と2人に目で訴えかけ、ニッと笑い掛けた。


 「なるほど〜。気分的には二対二に別れるって事だね!」

 「誰もそんな事言ってないでしょ!?ほら、取り敢えず用意した食糧を分けるから」

 「分かりました……クロさんのお言葉ではありますが、無理はなさらぬ様に」


 ヘルバで待つ、普段から無茶ばかりする幼馴染の為に。

 ティアは何がなんでも成果を持ち帰る心算なのだ。

 心配は掛けない……でも負けるつもりも毛頭ない。


 「分かってるわよ。ま、多少危険な位の方が冒険って言えるしね」


 本音を全て語らず、照れ隠しの言葉を言って食糧の分配を始め、幼馴染の……クロの喜ぶ姿を思い浮かべるティアだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ