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異世界の英雄はもういない  作者: 天山竜


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17. 黒鰐との『決着』

 

 今回の殊勲賞はティアだな。

 素早く自分の敵を倒して合流、その後も黒鰐達を壊滅寸前にまで追い込んだ。

 『帯袋』から『マジック・ポーション』が入った試験管を取り出し、魔力欠乏を起こし掛けてるティアに放る。


 「簡単には行かなそうだけど?」


 受け取って、中身を飲みながらティアが向けた視線の先を追うと、案の定と言うか何と言うか……。

 黒鰐がさらなる強化を施され、既に赤鰐と言えるくらいの面積を謎の模様が埋め尽くす。

 仲間二匹分の、いや都合四匹分の強化。

 だが、その強化に身体が付いて行ってないのか苦しそうに悶えている。


 「やってみるさ」


 取り出すのは一つの石『氷の石(アイス・ストーン)』と、一枚の護符『鋭利護符(シャープ・シール)』。

 この二つを『月詠』に取り付けて効果を発揮させてから音声入力。


 「【双月】」


 再び二本の刀に姿を換えた。先程と違うのは……切れ味、そして切った断面から凍らせて行く「氷」属性を持ったと言うところ。

 動けないところ悪いけど、これは好機!

 右足に体重を掛け、全力で黒鰐、改め赤鰐との距離を潰す。

 懐に入られると流石に俺に気付き、その大きな顎を開き頭から俺を噛み砕こうとする。

 迫力が凄ぇ!?怖ぇ!?


 「Z……ZIAAA!!!」

 「閉じてろ」


 迫る顎の下顎を蹴り上げ強制的に口を閉じさせる。

 その勢いを殺さずに空中で一度回転し態勢を整えて……『双月』を交差させ、照準は、首に。

 斬り飛ばす!

 空を向いた赤鰐には俺の姿は見えていない。

 が、右手に握られていた斧の刃が下から俺を強襲する!?マジかよ!?


 「くっ!」


 左手の『双月』で受け止める。が、力が強い!

 受け止めきれない!

 なら……!


 「せぁ!」


 力を抜いて切り上げる力に逆らわず、受け流し、その流した力を遠心力に変え右の『双月』で首を斬り付けた。

 ……浅い!

 鎧の襟部分が斬り飛び、その下にある首に傷は付いたが浅過ぎる。赤鰐の皮膚の強度が段違いに上がってる!

 俺が蹴り上げた顔部分が、戻る。

 と、同時に俺に顎を叩きつけて来やがった━━痛っ!!

 地面に両手両足が付いた時に、頭上から風切り音が聞こえて来た。

 悠長に考えてるのは不味い!無様でも何でも良い!回避回避!

 自分の予想、ある種予感に従って左に転がった刹那。 

 とんでもない轟音と衝撃。

 体勢を立て、やや後方に下がる俺は、地面に刺さった斧の刃を見た。

 その柄を握るのは灼熱したかの様に僅かな湯気を立たせた赤い腕。視線を上げると先程まで苦しんでいたのが虚構の様な気さえして来る……瞳孔が開き切った瞳。

 強化……いや、変化が終わった!


 「【月詠】!」


 二振りの小太刀を再び一振りの剣に戻し、リーチと攻撃力を戻す。

 あの『双月』で付けた首の傷を見る限り、手数勝負じゃなくなった。

 ならば、両手装備の『月詠』で勝負!


 「はぁぁぁぁ!」

 「ZYAAA!」


 俺の気合と赤鰐の砲声が被り、互いに駆け出す!

 荒れ狂う攻撃の応酬。

 斧、爪、尾を俺がかわし……。

 俺の剣閃を赤鰐が受ける。

 互いに仕掛けられては躱し、仕掛けては応えず、攻防を繰り返し重ねてく。

 こっちは一発でも喰らったらヤバい!

 いなし、躱すしか手段がないが未だ対応出来ている。

 が、赤鰐も俺の動きに慣れ始めて来たのを肌でひしひしと感じる!?

 証拠に、奴の攻撃が掠る事が多くなって来た。学習、と言うより本能が自らを生存させようとしているのか?この造られた化物にそんな物が残ってるのか?!

 此方の攻撃も当たるには当たるが致命傷になりそうなものは避けられてる。

 決め手がない!


 「……こうたい」


 その時。俺達の攻防の間隙を衝いてシロが割り込んで来た。


 「【グルルル】」


 両手の爪が獣のそれを凌駕する武器となる。

 『ウルフ・ネイル』。

 シロが武装とも言うべき技を身に纏い赤鰐との攻防を続けようとする。二人なら行けるか?いや━━それでも止めには足りない……どうする!?


 「クロさん!?」


 呼ばれた声の方に視線を流すと、俺達とリリーナ達との中間地点に風の珠が発生している。

 これが決め手か!?


 「合図したら下がれ!」


 シロの返事を聞かず、その風の珠に向かって全力で駆け寄り、逆巻く風に向かって両足を投げ出した。

 シロもあの赤鰐相手だとそう長くは耐えられなおぉぉぉぉぉおおおお!

 さっきよりも段違いに沈む!?

 引き絞られた矢に感情があるならこんな気分なのかな?!

 狙いを付け射出される方角を見やり━━


 「離れろ!」


 赤鰐の攻撃を利用し、反動で射線から外れたシロを確認。

 行っっっけ!!

 ジャンプする要領で膝を曲げ、射出に勢いをつけ、おまけで身体を捻って回転も掛ける……俺と言う名の弾丸が赤鰐に向かって放たれひぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいい?!!!!!!


 ━━一瞬。


 突き出された『月詠』に負荷が掛かったと思ったら次の瞬間に暗転。晴れた視界で見た物は目の前まで迫っている大木。……大木!?

『技の種』に寄って強化された視覚でも気付くのがギリギリ!?

 こなくそぉぉぉ!

 伸びきっていた身体を丸め、回し、勢いを明後日の方向に流し、大木に当たるタイミングで膝を使って衝撃を吸収、吸収した力を他の木に向かって放出し、それを繰り返す事二回。

 ……やっと、……止まった。

「砂場」で戦っていた筈が最後の弾丸戦法で森まで戻されるとは。

 赤鰐は?

 振り返るとそこには……巨体の真ん中に風穴を開けられ、氷つき、立ったまま微動だにしない赤鰐の姿。

 きっちり『核』討ち抜いてくれたみたい、なんだけど……死んだ……んだよな。

 剣を鞘に戻し、氷に包まれているからか未だ灰へ返らない赤鰐を油断なく見つめ、近付き。

 背中を押してみようとそっと手を伸──ひょえ!


 「……やった?」


 ガッ!と背中を抑え込み、そんな事を言い放ったのはシロ。

 警戒を解いてないのか、赤鰐を俺に隠れる様に見つめている。


 「それを確認する為に━━」

 「クロ!」

 「クロさん!」


 赤鰐の向こう側からおっかなびっくり様子を伺いながら此方に駆け寄るのはリリーナとティア。


 「大丈夫ですか!?」

 「……倒したのよね?」


 何か……ここまで皆が警戒してると逆に冷静になって来ると言うかなんと言うか。


 「大丈夫だ」


 さっきまでの緊張がどこかに行き、無造作に赤鰐の背中を押した。

 重力に引かれる様に地面に倒れ込んだ赤鰐が、氷の破砕音と共に粉々に砕け散り、灰に変わる。



 「結局、リリーナが持ってた依頼書ってアンタが吹き飛ばしちゃったのよね?」

 

 戦いから暫し経った頃。

 俺達はまだ戦場となった「砂場」周辺で戦利品の回収を行う為に居た。

 傷に魔力、体力を回復させる為の小休止を挟んでいたんだが……ティアに言われた小言が刺さる。

 ニヤニヤしながこっち見んな。


 「黒鰐達の『核』があれば拾って、他にも残ってる物があれば持って行こう。跡形もないのは探すだけ無駄だろうから穴には入らなくていい」


 ティアの言葉を流して指示を出す。

 大穴の底に残るものは恐らく何も無い。其れ位強力なんだ……あのティアの魔法は。


 「ぐぬぬっ」


 唸り声が聞こえ、多少嫌みで返したが……まぁ実際、事の大きさで言えば俺の方が失態だ。

 とは言え、最善手ではなかったかも知れないが後悔はしていない。それだけの強敵だったのはこの場の誰もが知る所だ。

 反省は、しますけどね。はい、……すいません。


 取り敢えずさっき粉々に散った赤鰐の『核』が残っていれば━━ん?

 少し離れた所に転がっている鈍銀のアレは……。

 斬り飛ばした鎧の一部か。

 そういえば此奴らが装備してる鎧や武器って、灰に変ってない、よな?これも何らかの手掛かりになりそうだし、回収しておくか。

 その鎧の欠片を拾い上げると、未だに背中におぶさったままのシロが疑問を呈する。


 「……それ……なに?」

 「さっきの鰐達の鎧の一部……と言うかそろそろ降りてくれ」

 「むこう……にも……いっぱい……ある」


 自分の戦った方角を指さしそう言うシロ。背中に乗ったまま降りる気配はない。

 はぁ。頑張ってくれたからおぶる位は良いんだけどさ。

 あ、そうだ。


 「リリーナはあまり触れずに。もうないとは思うけど何が罠か分からないから」

 「あ、はい」

 「何か見付けたら声を掛けてくれ」


 そう言いながら『マジック・ポーション』を取り出して渡す。


 「アタシが相手してた奴のは期待しないでね。あそこに転がってるのと大体一緒だから」


 視線は自分が黒焦げにした黒鰐に向けつつ、空になった瓶を左手で弄びつつ、右手を俺に差し出し三つの動作を起用に……って━━


 「何だ、この手は?」

 「もう一本。まだ満タンじゃないんだけど」

 「お前の魔法は本当に燃費悪いな」

 「うっさいわね!その分、強・力!なのよ!!」


 まぁそれは分かる。まだ何があるか分からないし、それ位の警戒をしていても可笑しくはないんだが、リリーナに渡して、残りは一本。

 こんな事になるならもっと用意をしておけば良かったな。


 「シロはまだ大丈夫か?」

 「そろそろ……きびしい……」


 魔法だってそう万能ではないし、シロの技能(スキル)も扱い的には魔法だ。

 俺の知らないところであの黒鰐との戦いで消耗もしてるだろうし。

 魔力も体力と一緒で休めば回復するから、このままおぶってればいいか。


 「わ、私はそこまでじゃないので良ければ……」

 「いや、何があるか分からないし一応リリーナも飲んでおいて。ほら、ティア」

 「……有難いのはそうなんだけど、何か釈然としないわ」


 なぜ、シロを見ながら言う。

 おぶられた方が楽とでも思っているのだろうか。


 「……あー……つか……れた」

 「俺だって疲れてるのを忘れるなよ」

 「ぐぬぬぬ」

 「あの、じゃあ頂きます」



 シロが倒した黒鰐の鎧は綺麗に残っていた。うん、鎧は。

 倒し方がど偉い刳かったが。

 鎧の残り方から四肢を切り刻み、開けた口から『核』に向かって爪を突き入れた……と、シロ曰く。

 それを躊躇なく一瞬でやってのけるのは確かな実力があればこそ。だとは思うんだけど……やり方が……な?


 「はやく……ごうりゅう……しなきゃと……おもった」


 気持ちは嬉しいんだけどさ。

 そのシロと同じ速さで勝負を決めたティアはどんな手段を使ったんだろう。

 聞きたいような聞きたくないような。

 鎧は溶けて、身体は消し炭……。

 【神鳴】の様な魔法は使ってはいないと本人談。

 だからこそ、手段が気になるがシロの勝った戦法だけでお腹いっぱいだし、また今度覚えてたら聞いてみる事にするか。

 結局、これ以降は特に何も起こらず一通り調べ、ヘルバに帰った。


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